2 何とかなんじゃね?日和
森の中にある砂利道を歩くこと数分……。
「で、オメェらはその……何だ? セイクリップ魔法学校の生徒?」
「セイクリッド。」
龍二が腕を頭の後ろで組みながらミント達の横を歩き、いろいろ聞いていた。
「ふ〜ん。まぁ、俺としちゃ魔法学校とかんなもんがホントにあった方が驚きだわなぁ。」
「へぇ、リュウジの行ってる学校って何ていうとこ?」
「天和湾屋高校。略して天校。」
「「「…………。」」」
何だそのいかにも年がら年中あわただしそうな学校名は、という風なことを思った三人。
「……そこってどういうこと学ぶのー?」
「数学やらなんやら学ぶとことか、ラーメン食うとことか、寝るとことか、ラーメン食うとことか、皆で談笑したりするとことか、ラーメン食うとことか、後ラーメン食うとことか。」
「ほとんどがラーメン食うとこになってない?」
冷ややかなミントのツッコミが炸裂する。
「ん〜……後(人で)遊ぶとこかね?」
「……なァ、今何かよからぬこと言った気がするんだけど?」
「気ニシナーイ。」
「何その片言ー?」
「口癖。」
本人曰く実用的な口癖というが、正直な話そんなこと言ってる奴見たことねーよ。
「そーいやさっから思ってたんだがよ、オメェさんのその頭。それ染めてんの?」
「それは聞かないで…。」
龍二がミントの特殊な髪の毛を指差すと、ミントは深々と帽子を被った。目さえも覆っているほど。
『何だ、トラウマか?』
「……トラウマ、とゆーより、生まれの不幸ってゆーか……。」
エルに言われてさらに深く帽子を被る。どうやら聞いちゃいけないこと聞いたみたいだった。
「ふ〜ん……まぁどうでもええわな。」
聞いたくせにどうでもええってアァタ。
「いんやぁにしてもあれだな。ここは空気がウメェな。」
「……仲間バラバラなのに何でそんなのんびりできるのー?」
「あいつら意外としぶといから。」
「うわぁ何か嫌な信頼……。」
それが普通なのだ龍二にとって。
「……あ、でも考えてみたら一人不安なのいた。」
が、思い出したように表情を変えて人差し指を眉間に押し付ける。
「不安って…どんな人?」
「ん〜、一言で言い表すならバカ。二言で言い表すなら大バカ。三言で言い表すなら超大バカ。四言で言い表すなら」
「うんもう言わなくていいです。」
結局その人はバカという印象を与えられたミント達。
「そんでもってそいつあまりにも寂しすぎると泣くんよ。メンドイことに。」
「ウサギみたいに死ぬわけじゃないんスか…。」
「ウサギは寂しすぎても死なんよ。」
正直そんな話はどうでもよかった。
「まぁあいつらはどうでもいいとして、まだか魔法学校とやらは?」
「全くどうでもよくないよね?」
もうミントは苦笑するしかない。
「ミャー。」
「? どした珠?」
ふと頭の上に乗っている珠が小さい前足で龍二の頭をポンポン叩いた。
「ミャ、ミャミャミャミャミャ、ミ。」
「あぁ、マジか?」
「ミ。」
「で、どの辺かわかるか?」
「ミャミャ。」
「ふむ…。」
明らか鳴き声しか聞いていないのに龍二はまるで話を聞いているかの如く受け答えする。
「……あれ何してんだァ?」
「さぁ?」
珠の声がさっぱり聞こえないミント達は首を傾げるばかり。
「ん、何か珠が言うには近くにクルルの匂いがするってさ。」
『そうなのか?』
「ミャ。」
「……何なんだこの異様な光景。」
自分達より年上の男と猫と剣が話し合ってるのを見たら誰でもそう思うことをミントはポツリと呟いた。
「ねぇ、クルルって誰ー?」
「ああ、さっき話してた」
「リュウくーーーーーん!!!」
言いかけたところで、前方の遥か向こうからクルルが両腕を広げてバックのイメージに色とりどりの花を咲かせながら満面の笑顔でタッタカターと走り寄ってきてちょうどいいタイミングで頭から龍二に勢いよくダイブ。すかさず右手を出した龍二はクルルの頭を掴むと力を入れてアイアンクロー。ゴギュリといい音がし、クルルは龍二に掴まれたまま四肢をブラーンブラーン。
「って何してんですかい!?」
「アイアンクロー。」
「いやそうでなくて!?」
当然の如くツッコむミントに、見ての通りだと言わんばかりに平然と言ってのけた龍二にミントはテンポよく再びツッコんだ。
『大丈夫だミント。いつものことだ。』
「え、いつもこんなん!?」
こんなバイオレンスな光景をいつも見せ付けられたらたまったもんじゃない、とミントの脳裏によぎったとかなんとか。
「ん、紹介する。こいつ魔王のクルル。」
「………………。」
未だに龍二に頭を掴まれたままプランプランぶら下がってるクルルの紹介をする加害者龍二。被害者クルルの口からは泡が吹き出ていた。
「へ、へぇ〜……って、え? 魔王?」
「そ、魔王。」
「……あのラスボスの定番の?」
「イエス。」
「………………。」
当然と言えば当然の如く、三人は疑わしげな目で無残にもプラーンプラーンしてるクルルを見つめた。
「……もしかして、頭がかわいそうな子なのー?」
何だかいろいろ誤解しているココア。
「かわいそすぎてもうダメだな。末期だ。」
全く否定しないというかボロクソに言う龍二。
「…お気の毒に。」
今回はツッコミ入れないミント。
「カワイイのに…。」
哀れみの目で見るポトフ。
「って、皆してひどいよーーーー!!!!」
そんな非情な彼らにクルルは頭を掴まれたまま叫んだ。
「ちぇ、生きてたか。」
「リュウくんひどい! せっかく再会できたのに! というよりちょっと待って何で舌打ちしたの!?」
「よかったなーぶじだったかークルル。」
「すんごい棒読みなんだけど!?」
龍二に頭を掴まれたまんま手足をバタつかせるクルル。
感動の再会のはずが、感動の“か”の字もないくらいの再会となった。
「……アンタはどこ行っても飛び掛るわね。」
『む〜。』
そして、その後ろでフィフィは紫色の丸っこい物体に乗ったままクルルの行動に呆れ果てていた。
「おお、フィフィ。生きてたか。」
「勝手に殺さないでよ。こんなところで死んでたまりますk」
「うぉ、何じゃこいつかわええ。」
「って聞きなさいよ!!」
フィフィを軽く無視して龍二はフィフィが乗っていた丸っこい物体っつーより小動物を持ち上げた。因みにクルルは脇へポイした。
「え、ちょっとリュウくん私ゴミのように捨てられちゃったんだけど!?」
クルルは悉く無視されていた。
『むー!』
「おーおー何だ何だお前? 嬉しいってか? ん?」
『むーむー!』
「ほぉ、そうかそうか。」
短い足と長い耳をパタパタさせながら嬉しそうに鳴く小動物に、普段は滅多に見せない激レアな優しい笑顔を向ける龍二。
「……。」
「……。」
「……何だろう、この物凄いギャップ。」
そんな龍二を見て、短期間の間で彼の性格を大体把握したつもりだったミント達は愕然とした。
『! む〜!』
「……え? あ、こんにちはむぅちゃん。」
そこで小動物、ミント曰くむぅちゃんがミント達に気付いたのか、龍二の肩越しからその短い前足を挙げて鳴いた。それが挨拶だと気付いたんで、ミント達も挨拶を返す。
「? 誰その人達?」
「ありぇ? リュウくんの知り合い?」
フィフィとクルルも今頃気付いたらしく、龍二に問う。
「ああ、こいつらさっき会ったばっかなんよ。こいつがピントで、」
「ミントです。」
「こっちがココナッツで、」
「ココアなんですけどー。」
「こいつが……………………うん、ポスト。」
「思い出すの長ェし“ポ”しか合ってねェ!?」
哀れ、龍二にとってこの世界で初めて会った人達なのにすでに名前を改名されてしまっていた。とくにポス、じゃないポトフ。
「へぇ、随分変わった名前ね。」
「………妖精に変わってるって言われたオレ達って……。」
正直複雑な気持ちで一杯です。
「ま、いいわ……私はフィレイド・フィアラ。フィフィって呼んで。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「ミント、何で敬語なのー?」
年上のお姉さんみたいな口調なためである。
「私、クルルっていいまーす!」
「あ、さっきリュウジが言ってたバカな子ー?」
「リュウくん?」
「オラ知ーらね。」
ココアにバカと言われてその元凶に向かって怒りの矛先を向けるが、軽く受け流されてしまった。
「んー、とりあえず二人確保な。」
「は? 確保って何よ?」
「確保は確保。つかそれより、他の奴ら知らねえか?」
「ううん、私達が最初に見つけたのリュウくんだけー。」
「ふぅん…。」
他の皆の安否を気遣ってるのかそうでないのかさっぱりわからない表情で後頭部をポリポリと掻く。
「………………。」
少し悩んだ末、
「……ミント、腹減ったぞ。」
「さっきの会話の流れからしてそうなるのはおかしいと思わないの?」
ミントの方を向いて私欲に塗れた質問をし、聞いた本人に冷たーい目で見られたがそんなんでへこたれはしないのが龍二。
「まぁいいじゃん。さっさと魔法学校行くぞ。」
「? 何それ?」
「魔法学校? リュウくんそんなとこ行ってたの?」
「行ったこともなければ聞いたこともねぇ。あ、いや映画で聞いたことあるか。」
その映画が何なのかはご想像にお任せします。
「で? 結局のところまだなのかキントキ。」
「キントキ!? ってさっきミントって言ってたじゃん!?」
「気ニシナーイ。」
「気にして!!」
おそらく無理でしょう。
「……はぁ……ほら、見えてきたよ。」
明らか不自然なほど間違ってる名前を呼ばれて若干不機嫌になりつつも、前方を指差す。
そこには、森の向こうに見える立派なお城みたいな建物が。
「わはー、すっごーい!」
「へぇ、あんなの私達の世界にもあるわね。」
「やっとメシが食えるな。」
「メシのことしか頭にねェのかよ……ま、俺の頭の中はココアちゃんのことしかねェけど♪」
「唐突に何言ってんのよバカー!!」
「あ、そういえば。」
ココアがポトフをポカポカ(威力強)と殴ってる時、ミントがふと思い出したように言った。
「プリン、どこ行っちゃったんだろ?」
「は? 何でいきなりプリン?」
「あ、そっかリュウジ達知らないよね。プリンっていうのは、」
ミントが龍二に自分の友達のことを話そうとした時、
「ミントー!」
「……。」
タイミングよく、城の方から枕を抱えたまま右手を大きく振って水色の髪の少年が駆け寄ってくるのが見えた。
「あ、噂もすれば。プリンー!」
「? あれがプリン?」
ミントも答えて手を振り、その横で龍二が怪訝な顔をした。
「……プリンなのに黄色くねぇじゃん。」
『黄色い人間なんていたらそれはそれでヤバイだろ。』
腰からエルが冷ややかにツッコんだ。
「いやそれより他に気にすることあるでしょうが。」
「うん、おいしそうな名前だね。」
「…………まぁ、いいわ。」
フィフィが彼の持ってる枕に注目するよう言ったが、クルルが見事に期待を裏切ったのでなんかもう諦めた。
「あ、プリーン。」
「ココア、ついでに馬鹿犬。箒から落ちればよかったのに。」
「テメェいきなり喧嘩売ってんじゃねえぞ枕ああああ!!!」
ココアに返事を返したのに対し、ポトフには見事なまでの売り言葉。そしてポトフは見事なまでの買い言葉で少年、プリンに突っかかろうとした。
「!!??」
が、途中で止まった。否、止まりざるをえなかった。
理由は簡単、プリンの後ろからトコトコとついてくる女性に目を奪われたから。風でサラサラの長い黒髪がなびいて煌き、トロンとした目尻にサファイアブルーのような輝く青い瞳が特徴的なその女性は、百人中百人が振り返るほどの美人だった。
「? 何だ馬鹿犬。いつもの威勢はどうした?」
「…………。」
プリンが訝しげに硬直したポトフの顔を覗き見る。
「……お……お……。」
「?」
やがてポトフの口から漏れてきたのは、
「お前何こんな美人な人たぶらかしてんだクソ枕ああああああああ!!!!」
【ズゲン!!】
「ぴわわわ!?」
ものっそい理不尽な言葉だった。んで同時に蹴り飛ばされるプリン。
「な、何をする!?」
「見損なったぞテメェ! オメェにはムースちゃんという彼女がいながら!!」
「む、ムースは関係ないだろう!! 第一、貴様何を勘違いしている!?」
「黙れこのクソ枕! ここで成敗してやるわああああああ!!!」
「上等だ!!! 『微風』!!」
「『ランラン』!!」
ドカンバコーン、と何かいきなり紛争始めた二人。
「おお、リリアンじゃねえか。」
「龍二…。」
「え、知り合いなの?」
そんな二人はアウトオブ眼中で挨拶を交わす龍二とリリアン。ミントもいつものことと言わんばかりに暴れてる二人をガン無視した。
「ん、こいつうちの仲間のリリアン。」
「………よろしく。」
「あ、はい。よろしく……。」
「よ、よろしくー…。」
「【コクリ】」
ミントとココアの第一印象。無口な人。
「ふむ、どうやら怪我ないみたいだな。」
「ええ……龍二達も。」
「ん、俺ぁこんくらいで怪我なんざしねぇさ。」
「ねぇリュウくん何で私にはそんな気のきいた言葉かけてくれなかったのー!?」
ほんわか話す龍二とリリアン。理不尽だーと叫びながら泣くクルルだが無視された。
「ん? あのクソ幼馴染は一緒じゃねえのか?」
「【フルフル】」
「そうか。まぁあんなんどうだってええわな。」
「…………。」
ミントは思った。その幼馴染の人、絶対クルルよりも扱いひどいだろうなーと。
「『コウコウ』!!」
「『旋風』!!」
傍らではまーだドッカーンとやっている二人がいた。
「あ、そうそう。俺ら今から魔法学校とやらに行くんだが。」
「……私も……プリンに案内してもらおうと……。」
「じゃ話は早い。とっとと行ってメシ食うぞ。」
「……いいけど……花鈴は?」
「アイツどっかで野垂れ死んでるって。」
「…………。」
ミントは思った。さっきは大丈夫なんじゃねーの? って言ってたのに何ですでに死亡確定になってるんだろう。いや深く考えたらダメだきっと、と。
「『キラキラァァァ』!!!」
「『神風』!!!」
傍らではしつこいくらいバッコーンとやっている二人がいた。
「うん、お前ら黙れ。」
【ゴン】
が、早く魔法学校に行きたい龍二が二人の間に割って入ってそれぞれ後頭部を掴んで互いのおでこをゴッツンコさせて強制終了。
「「…………。」」
『…………。』
いつもならプリンが勝って終了、なのだが、他人によって終了させられるとは思ってなかったミントとココアとついでにむぅちゃんは沈黙した。
「おーい、案内人がボサーっとしてどうすんだ。行くぞ。」
「「……ラジャー。」」
『む〜…。』
額がいい感じに腫れ上がったポトフとプリンの襟を掴んで抑揚の無い声で呼ぶ龍二に対し、二人と一匹は彼から滲み出ている何かに怯えつつ返事した。
「ふぅ、到着。」
いろいろあって疲れたのか、ため息を吐きながら目的地に到着したことを知らせるミント。
「何だろうねー? この疲労感。」
そんなミントの隣で同じように疲れた声で疑問を口にするココア。
「……僕は何をしてたのだろう?」
何故か知らないけれど途中までの記憶が無くなっているプリン。
「さぁ? ……それより何故かデコがイテェ……。」
同じように記憶が無いポトフがさり気なく原因を言った。
「ここが魔法学校? へぇ、近くだと結構でかいわね。」
フワフワ飛びながら体がちっこいフィフィが手をかざして見上げる。
「何だか楽しみー♪」
ワクワクしてる感満載なクルル。
『むー。』
何故かクルルの頭の上に納まっているむぅちゃん。
「……あまりはしゃいじゃダメ。」
そんなクルルを窘めるリリアン。
「んみゃ〜お…。」
欠伸ばっかしてる珠。
『やっと着いたか。』
帯刀されてるくせに一番動いたような事を口走るエル。
「メシ。」
どうしようもない龍二。
彼らが立っているのは、森を抜けて小高い丘の上にある国立魔法学校の入り口前。目の前に聳え立っているのは、いかにもーってな感じのお城みたいな建造物。ミント達のごく一部がその姿に圧倒されていた。他は違うこと考えてた。それが誰なのかは一目瞭然。
「……とりあえず食堂行こうか。」
「賛成ー。」
ほっといたらどえらいことになる可能性大な危険人物の目的の遂行を最優先に考えたミントの提案にココアも賛成。ついでに自分達も喉が渇いたのでちょうどいいということで。
「……私も……お昼食べて大分経ってるから……。」
「そうね。サクランボある?」
「チョコ食べたーい。」
「みゃー。」
『食えん。』
リリアン達も異議なしである。ミント達よりかはマシとはいえ、一応疲労が見え隠れしていたりする。
「あ、ミントー!」
と、一同が行動しようとした時、背後からミントの名を呼ばれた。
「へ? あ、アオイ!」
振り返ったミント達の視線の先には、大きく手を振っている遠くからでもわかるくらい綺麗な銀髪をした誰かがいた。
「? 誰だ?」
当然、初対面である龍二達が疑問に思うのも無理はない。
「あぁ、友達だよー。」
そんな龍二の疑問に答えるように、ココアが言う。
「こんにちはミント。皆さん。」
「うん、こんにちは!」
クスっと笑いながら銀髪の少年が全員に挨拶をし、ミントも挨拶を返す。
「? あれ?」
が、龍二達を見つけると首を傾げた。
「ん? …ああ、俺は荒木 龍二だ。よろしく。」
その少年の仕草に気が付き、龍二は自己紹介をした。
「あ、僕はアオイ。ヒュウガ アオイです。こちらこそ初めまして。」
「ん。」
少年、アオイは龍二にさっきと同じように笑いかけ、対して龍二も右手を軽く挙げた。
「アオイ、走ったら危ないぞ。」
「リン達、置いてけぼり、です。」
「あ、ゴメンね。」
と、今度はアオイの後ろから黒髪の少年と栗色の少女が走り寄ってきた。
「おお、いきなり大所帯になった。」
「二人増えただけだけど?」
さり気なく龍二にツッコむフィフィ。
「…ん、誰だそいつらは?」
ふと黒髪の少年が龍二達を指差した。
「…アンタねぇ、そういうのは先に名乗るっていうのが礼儀」
「うるさいぞそこの虫。」
「んな!?」
「黙れ虫。」
「アンタまで!?」
突っかかっていった相手に初対面にも関わらず虫呼ばわりされてショックを受け、さらにドSな龍二の畳みかけ攻撃に二重のショックを受けたフィフィ。
「……妖精……。」
そんなフィフィを見て、何か髪と同じ栗色の瞳をキラキラさせ始めた少女。
「ちょっと! アンタ達何私達を置いて行って」
「黙れゴミ。」
「な!?」
「ウッセェよゴミカス。」
「ゴミカス!? つかいきなり誰よアンタ!?」
今度は狐色の長い髪をツインテールにした少女が怒りながら走り寄ってきて、黒髪の少年にゴミ呼ばわり、さらに初対面のはずである龍二にゴミカス呼ばわりされた。
「ゴミカスに名乗る名前などない。」
「うむ、それが妥当だな。」
「何で初対面の人にまでボロカスに言われなきゃならないの私!?」
何故か意気投合しているいろんな意味で黒い二人に言われた哀れな少女は叫んだ。
「ふぅ、やっと着いたようね。」
今度は黒い髪をポニーテールにした少女がやれやれといった感じに歩いてき
「…………。」
「…………。」
たが、龍二とバッチシ目が合うと動きが止まった。
「あ……花鈴。」
「あーカリンちゃん!」
「え、ひょっとして幼馴染の人?」
「【コクリ】」
「なァんだ早速見つかってよかったじゃねェか。」
リリアン達とミント達が和やかに話している間も、龍二と花鈴は硬直したまま。
「? 花鈴、どうし」
「ゴメン、ちょっと用事があるからこれで。」
隣の哀れな少女(定着した)に声をかけられ、花鈴は180°回れ右して走り出そうとした。
【ガシ】
「…………。」
が、なんか頭を掴まれた感触が伝わってきて動けなくなった。
「よぉ花鈴。元気してた?」
掴んでる張本人が何故か嬉しそうに話しかけてきた。
「……あ、アハハハハハ。おかげさまで。」
対して花鈴も掴まれたまま首だけ後ろへ振り返って100%笑みを浮かべた。冷や汗たっぷり流しながら。
因みに、龍二と花鈴との距離は大体五メートル。ミント達が気付くことなく一瞬で花鈴の背後に接近した龍二を見て、ミント達は目をパチクリさせた。
「いやぁなんかさぁ、ねぇ? 俺お前のことが心配で心配でたまったもんじゃなかったんよ?」
大嘘である。
「そ、そう? あはは〜その割には掴まれた手から何だか物凄い悪意が伝わってくんですけど?」
「そんでねぇ、今俺ちょっとねぇ、機嫌悪いんだけどねぇ?」
「へぇそうなんだー。何で?」
「いやいやいや、それはもうお前がよーく知ってるんじゃないかなぁ?」
「うん、聞くまでもないね。」
「だろー?」
「ねー♪ でもあれって明らかアンタに非があr」
「え、何か言いましたかー?」
「いえいえ何でもないですー♪」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「ごめんなs」
「『龍閃弾』。」
目の前で理不尽にも血祭りに上げられている彼女を救う者は誰もいなかった。
「つまり、リリアン達も異世界から来たってことになるの?」
「……おそらく。」
国立魔法学校の食堂に移動した龍二達。そこにあった長テーブルの上でリリアンは今までの経緯を掻い摘んで説明した。
「でも何で爆発なんかで?」
「……おそらく、爆発の衝撃で空間に裂け目が出来て…。」
「そこに落ちたってことー?」
「【コクリ】」
伊達に日ごろから久美の家で本を読み漁ってるリリアンじゃないので、こういった知識はなかなかのもの。
「そりゃまた、突拍子ねェ話だなァ。」
「うーん、私もビックリしたよ。」
『むーむー!』
「あ、もっと欲しいの? はい♪」
生肉(!?)を齧り付くポトフに言われて、チョコを頬張っていたクルルは笑いながら言った。そんで頭の上のむぅちゃんにチョコお代わりを催促されてチョコの欠片を差し出す。
「…笑い事じゃないでしょ?」
ミントはコーラのビンを持ったままクルルに呆れた。
「フフ、ニャーンニャン♪」
「みゃー♪ ゴロゴロ。」
横ではプリンが喉を鳴らす珠と戯れていた。
「まぁ私達も異世界から来たから、何か信憑性があるわね。」
「ウララにしてはもっともなこと言う、です。」
「それってどういう意味? それって遠まわしに私のことバカって言って」
「うっせぇ、です。」
「あいすいません!!」
栗色の少女、先ほど自己紹介したリンが、杖の鋭い石突部分を哀れな少女、ウララの喉元に突きつけて黙らせた。
「にしてもあれよね。私達ってホント異世界と縁があるみたいね。」
「……妖精がサクランボ食べてるのって、何だかシュールだねー。」
「何よココア。食べちゃダメだっての?」
「別にそんなこと言ってないよー?」
「あ、フィフィちゃん、サクランボの種はここに出してね?」
「あら、あんがとアオイ。」
ココアを飲んでいるココアの横で(ややこしい)、サクランボを抱えたまま食べていたフィフィはアオイが微笑みながら差し出した深皿の上に取り出した種をカランと入れた。
「…………。」
「おい、このゴミはどうする?」
「いやゴミじゃないよ!?」
足元に倒れている哀れな少女二号、ボロ雑巾もとい花鈴を踏みにじりながら、黒髪の少年、ユウにツッコむミント。
「ガッガッガフガフバクバクムシャムシャモグモグパクパクゴクゴク。」
そして彼らの会話には参加せず、右手のフォーク、左手にスプーンという二刀流で目の前にあるありとあらゆる料理を次々と平らげていく龍二。
「……ねぇ、さっきから言おうと思ってたんだけどー?」
「うん……リュウジ、食べすぎじゃない?」
龍二の食いっぷりに呆れを通り越して恐れを抱きながら、ココアとミントがそれぞれ口にする。
「ふが? んもんぐもふむふはむへむふがふぐ。」
「うん、とりあえず口の中無くしてから喋ってね?」
「ウガガガガガガガガガガガ!」
ハムスターの如く口を膨らましたまま言葉になってない言葉で話す龍二にミントがさわやかにツッコむ。そして龍二は再び食事を猛スピードで再開し、見る見るうちに料理が消えうせ、代わりにドンドンドンドン皿が積み上げていった。
「…………人間じゃないねー。」
「ホント……。」
「ぷゆゆ……。」
「…………。」
「え? いつものことだよ?」
「クルル、皆まだ慣れてないのよ。」
ミント達が呆気に取られてるのを見てクルルが小首を傾げて、フィフィが小さな手でクルルの肩を叩いた。
「わぁ、龍二さんってよく食べるんですね。」
「…よく、というより、怖いくらい、です…。」
「……何で太らないのよあれで。」
「人それぞれだってことだデブ。」
「デ!!??」
「……デブなの?」
「デブじゃなーーーい!!!」
かたや、ミント達と同じような反応してるのはリンとウララで、アオイに関してはなんかもうほのぼのしてる。んでウララはユウの毒を浴びて150ポイントのダメージをくらい、さらにリリアンの軽い疑問を受けて二倍のダメージを受けた。
「ごっつぁん。」
ようやく食事が終わったのか、龍二はカランとスプーンとフォークを前にある皿の上に放り投げ、背もたれ付きのイスに思いっきりもたれかかって爪楊枝で歯の隙間をシーシーした。彼の目の前には正面から見たら何も見えないくらいの皿の山。
「……見事に食べたね……。」
そんな異常な光景を見せ付けられて、ミントはようやく言葉を搾り出した。
「ん〜、味付けは若干薄いが、素材の持ち味を存分に活かしているな。大体こういうところはコスト削減のために安価で質の悪い素材を使うところが多いが、周りが自然で溢れてるからか安価かつ上質で、かつ素材そのものにも味があったみたいだったな。これは肝臓が悪い人にとっては理想的な料理と言っても過言じゃないだろう。」
「うわぁ細かい解説ありがとう。」
ちゃんと味わって食べてたんだ、という考えが影を落としたミントの頭をスーっとよぎった。
「後これにラーメンが加わってりゃ最高なんだが、無いもんはしゃーねぇな。」
「あの量食ってまだ食うのかよ!?」
今度はポトフがツッコんだ。
「ま、腹も膨れたし本題に入ろうか。」
そしてようやく会話に参加する気になったらしい。
「えーっと何だっけ? ああそうそう、犯人は誰だって話だったな。で、誰だ殺人事件の犯人は?」
「いろいろツッコみたいけどできれば黙っててください。」
『話がややこしくなる。』
しかし食事に夢中で全く話の内容を聞いていなかった龍二にミントとエルはさわやかに言った。
「……とりあえず……皆無事に合流できてよかった……。」
「アタシ無事じゃないけどね!!」
「チッ、生きてたか。」
「アンタねぇ!!!」
復活した花鈴がリリアンに抗議。そして舌打ちしたユウに反発した。
「まぁ、誰一人欠けることなかったんだからよかったじゃない。」
「そうそう、私一人だけだったら心細かったんだもん。」
「アンタはフィフィ達がいたでしょうが。」
『むー。』
ウララに言われてクルルがチョコを食べながら相槌を打ったが、花鈴とむぅちゃんにツッコまれた。
「とりあえず……打開策を見つけないと……。」
「ふむ、僕らも出来る限り手伝ってやろう。」
「…ありがとう、プリン。」
「みー。」
なんとなく和やかっぽい空気が一行を包んだ。
「…………。」
「? フィフィ、どうしたのー?」
納得いかない顔でいるフィフィを見てココアが問う。
「……あんさー皆。」
「「「「「『?』」」」」」
「アルス忘れてない?」
「「「「「『………………。』」」」」」
(((((……忘れてた……。)))))
(水飲みてえ。)
龍二、花鈴、リリアン、クルル、珠、エルは揃って黙り込み、心の中で呟いた(一人論外)。
二話、更新。いやぁとりあえず大人数動かすのはかぁなりハード。いろいろと不安ですが、もうどうにでもなれ!! 的な発想でバッチコイ!! そしてパッパラパー!! すいません、いろいろ酔ってます。