性別問題は難しい
うーん、どうも、このレスティという人物は、強がる為に男っぽくしているらしい。
「自分の心は男」だ、という理由ではなく、単に「男の方が強いから」というイメージで格好や言葉遣いを真似ているだけのようだ。
社会的に男の方が強いのは、俺の住んでいた日本でもそうだったし、わからないでもない。
ただ、女性の立場を弱めているのは、得てしてそういう女性の言動のせいだったりすると思うのだ。
そして、変なところでコンプレックスを抱えていたりするので、下手に触れると爆発する。
レスティはマリッサを相手にカンカンである。
俺にもそういったコンプレックスやトラウマがあるので、同族嫌悪と言われればそれまでだが、性別問題は本当に根深いのだ。
「そういえば、フロウランまで行けば公共の鍛冶場があるという話だが、ここらにはそういう施設はないのか?」
取り残された2人に聞いてみる。
もし、鍛冶場があれば、自分で作るのも有りかもしれないと思ったのだ。
材料を揃えるのが大変だが、これからオーダーメイドで作るのも時間がかかるだろう。
どうせ時間がかかるなら、自分で作るのもありだ。
2ndキャラの登場まで、鍛冶キャラ補正無しでやってたんだ。
成功率は低くても、やってできないことは無いはずだ。多分。
しかし、現実は無常であった。
「そんなものは無いな。だから、みんな工房でやってるわけだし。」
鍛冶をしたいから工房に就職するんだそうだ。
そんな施設があれば、工房に就職しないで鍛冶ばかりやっていると断言した。
マジか。職人魂やべぇな!
それから、男達だけで装備の話で盛り上がる。
特に武器の話題は白熱する。大剣、魔法剣、そして、ギミックのロマン。
実用性だけが武器じゃない。ロマンを求めて何が悪いというのだ。
「あんた話がわかるじゃねぇか!ウチの工房を見に来いよ!
重くて持ち歩いてないんだけど、俺の作品をみせてやっからよ。」
「へへっ、俺の作品は軽いから持ち歩けるんだぜ。最新作を見せてやろう。・・。これはな・・・。」
「「おおおっ・・・!」」
すっかり打ち解け、気が付けば空の色が変わり始めていた。
2時間くらい経ったのか・・・?
スザクがトイレに行き、そして帰ってきた。いや、偉いけどさ。
なんでお前はそう人間じみているんだ?
腹が膨れたのか、俺の頭の定位置に戻る。
謎の穀物はまだ残っているので、移し替えて貰って行こう。
「やべぇ!こんな時間か。親方にどやされる!」
「俺もだ。配送の途中だった!」
そういえば、そんな事を言っていたな。
仕事中に飲みとか、一体何を考えてるんだって話だが、切欠はクレーム処理だったので寛大な処置をお願いしたいと思う。
まぁ付いて行くつもりはないんだが。
トマスとエディは宿を出ると「「・・・ふん!」」急に余所余所しくなって別々の方向へ消えていった。
・・・・・?はて。
ああ、ライバル工房なんだっけか???・・面倒なことだ。
マリッサとレスティはというと・・・レスティ、泣き上戸か?
なんかマリッサが慰めている。ちょっとあの空気には近寄れない。
で、だ。
トマスとエディを見送って戻って来ると、柄の悪い男達が2名、ニヤニヤしながら俺達の席を陣取っていた。
こいつら、誰だ?
元々トマスとエディが座っていた席なので、問題はないのだが、何故そこに座るのか。
しかも勝手に物を食ったり、テーブルに足を乗せたりとやりたい放題だ。
物を食うのは構わない。みんなで食ってたやつだし、残りは少ないが俺1人で食うのも寂しいものがある。
ただ、態度が悪いのが問題だ。こんなのと友人・知人だと思われたくない。
椅子を引いたものの、同じ席に着くのは躊躇われた。
他に空いた席は他にいくらでもあるのだが。
「コイツか?その強いって男は。」
「そうは見えねぇなぁ?女みてーな顔しやがってよぉ?」
チラリ、とギルディートの席を窺うと、ギルディートがすまなそうな顔とジェスチャーをしていた。
知り合いらしい。ガノッサス傭兵団のメンバーか?
耳はピンと立っているから、実はそんなに申し訳ないとは思ってないみたいだ。
ふむ。第一印象はかなり悪いが、どんな奴らなんだろうか。
ダフの仲間なら、そんな悪い奴らでも無いのかもしれないな。
「本当だな。よく見たら野郎にしておくのが惜しいくらいだぜ。」
「ククッ。だよなぁ。そういう商売でもしてたら、相手してもらってもいいくらいだ。」
こいつら気持ちが悪い。
酔っているというわけでもなさそうだが、なんだか臭い。
そして不愉快だ。顔をしかめないようにするのが精一杯だ。
俺の踏み入れられたくない領域を、土足で踏み躙ってきやがる。
もちろん、意図してやっているのではないのだろうけど、狙ってやっているとすれば、相当俺を怒らせたいと見える。
そういえば俺って分かり易いんだっけ。わざとか?喧嘩売ってるのか?
「そういう趣味かよ。まぁ、そう思うのも分からないでもないけどな。ぎゃはは。」
「その辺の女よりいい声で鳴くんじゃないか?ひゃひゃひゃ・・」
何が面白いのか分からない。その面、ぶん殴っていいかな?
最近、女を買ってない?いい女が居ないから金を出すのも勿体無い?知ったことか。
立ち上がり、寄って来る2人。こっち来んな。
確認だけど、こいつら、俺に喧嘩売ってるんだよな?かなりの安売りで。
「ハァイ♪僕ちゃん、相手してぇ~ん。」
「ギャハハハハ・・・!!」
冷静に考えてみよう。
いきなり馴れ馴れしく人の席に座ってこの態度だ。
性格の悪いブサメンで、口も臭いし、無精ひげは伸ばしっぱなし、片方は剃っているが剃り残しを気にしている様子も無い。
頭はぼさぼさ、服も黄ばんだり汚れたりしていて、見ただけで臭そう。実際に臭いし、清潔感の欠片もない。
どこからどう見ても非モテ系、帰りを待つ妻子とか想像もできない。
この下品な顔が歪んだところで、大して変わりはしないだろう。
出血大サービスってやつだ。
「おしゃぶりはこっちだぜ?」
触るな、肩を組むな。汚い。
「うへへ、相手してやるから来なぁ。大丈夫、痛くしないからさぁ、ぎゃはははは。」
喧嘩の買取りを実行しようをとしたところで、
メギ・・・
そんな音がして、何だろうと発生源を探す。
わりと近くで聞こえたよな。
「あ。」
椅子の背もたれの一部を握り潰していた。もちろん、宿の備品だ。
これはやべぇ。
慌てて店員を呼び、謝罪する。椅子の修理代なり値段なりを聞かないといけないが、店主じゃないとわからないらしい。
店主に謝罪し、料理代と一緒に支払う。くそ、こいつらのせいでとんだ出費だ。
あれ?
「アイツらなら逃げて行ったぞ。」
とギルディート。
逃げたのか。ぶん殴り損ねたな。
喧嘩の売り逃げとか、ピンポンダッシュされたような気分だ。流行ってんのか?
に、してもだ。良い歳をしたオッサンがやる事じゃないよな。
ああ、弁償させられると思ったんだな。
「そうか。それで、あいつらはお前の友達か?」
念の為、俺は質問をしておく。
あんなのが友人だと言うなら、色々と考え直す必要があるからな。
最初の不良みたいな喋り方はダフの真似かと思ったが、あいつらの影響かもしれん。
ちょっとああいう友達は要らないかなって思うんだよ。
「え?」
え、じゃないよ。聞こえなかったのか?まったく。
俺は声を沈めて、ゆっくりと聞こえやすい声で、もう一度訊ねなおす。
「あいつらは、お前の友達なのか?どうなんだ?」
ギルディートは耳を垂れて首を横に振った。
なら、良し。
ふぅ、とため息が漏れる。
まだ胃のあたりがムカムカする。どうもストレスが溜まってしまったようだ。
こういう時は体を動かすと良いんだったと思う。
「さて、じゃぁ気分転換も兼ねて模擬戦にでも行くか。これから行けば丁度いい時間なんじゃないか?」
俺が言うと、あからさまに嫌そうな顔をした。
あれ?お前、模擬戦したいんじゃなかったっけ?