構っちゃいられない
スザクと俺とでトイレを済ます。
経済的と考えればいいのか、本当は2人分払わないといけないと自分を戒めるべきなのか。
いや、スザクのトイレなんて微々たるものだ。
外ではその辺の茂みでトイレを済ますスザクが、町でちゃんとトイレでする訳だし、俺より高頻度のスザクのトイレに俺が付き合っているようなもんだから、1人分支払えば充分じゃないかな。
1人(と1匹?)納得してトイレを出ると、ドワーフたちがやんややんやと装備について弁論を繰り広げていた。
「軽さと冷たさを感じない程の繊細さを秘めたウチの装備を、中身が無いなんて言わせるわけにはいかない!
この繊細さがわからないなんて、お前の目は飾りなんじゃないのか?」
「繊細なだけの物が作りたいなら、細工屋にでもなる事ね。私は装備を部屋に飾りたいんじゃないのよ。
冒険者は装備に命を預けているの。貴方の言う繊細さなんて屁の役にも立ちゃしないのよ。」
「なんだとぉ?!何も知らないクセに偉ぶりやがって!」
うわ、何このデジャブ。
あの2人、何気に仲良しなのではないだろうか?
あれ、ギルディートがナイフでジャグリングしてる。
上手い上手い・・って危なくないのか?
「その点、ウチの装備はいいぞ!頑丈で、命を預けられる重さがある。
無骨で芯のぶれない格好良さがあるし、簡単に壊れる事は無いぞ!」
「利点は整備の簡単さだったかしら。それはいいのだけど、お店でホコリを被ってたり、曇っているのはどうかと思うのよ。
それに、レベル帯に対して重すぎるわ。頑丈ならいいってもんじゃないのよ。」
ギルディートは、どうやら暇を持て余していたらしい。
え?ジャグリングって簡単なの?そうか、ステータス的には簡単かもしれないな。
やってみるかって?・・・ちょっと興味あるな。
ギルディートのナイフを借りようかと思ったが、自分もナイフ持ってたわ、と思い出す。
ちょっと恐ろしいが、まずは2本でやってみる。・・・おや、案外、なんとも無くできるぞ。
なるほど、ペン回しみたいな感じだな。
元の世界でペン回しできないけど。お手玉もまともにできる自信ないけど。
・・・・・。
おお、できるできる。
時折、道行く人が俺達のジャグリングを眺めている。何か勘違いしたのか、小銭を置いていく人もいる。
ギルディートが嬉しそうに回収しているのを見て、心を温めればいいのか、痛めればいいのか迷うところだ。
速度を上げたり、ナイフを増やしてみたりしたけど、特に問題ないみたいだ。
ちょっとスリルがあって面白いな、これ。
問題は、見物人が増えてきているという事か。ちょっと恥ずかしい。
いや、大道芸人じゃないんで、小銭はいいです。
ギルディートが輝く笑顔で小銭を受け取っている。何とも言えない気分だ。
遊んでいたら、ドワーフズが飛んできた。
「「危ないから「装備品で遊ぶのはやめなさい!」」」
お前ら、やっぱ仲良しだろう?!
再び手持ち無沙汰になる俺とギルディート。どうしようか?こいつら置いてく?
俺は雑貨屋と服屋にも用事があるしな。あ、せっかく大きな町に来たんだから、魔道具も何か面白い物があるかもしれない。
俺から取り上げたナイフを真剣に眺めるトマスとエディの2人。
「普通のナイフだよな。」
「ああ、普通に見えるな。」
「それがなんと、ここにもあるのよ。」
マリッサがアイテムボックスから2本出して見せる。ああ、+4が珍しいんだっけか。
同じ型のナイフがずらりと並ぶ。まだ持ってるんだけどね。
それをまじまじと見つめていた2人が、マリッサに向かって頭を下げた。
「これほどの腕の持ち主だったとは・・。」
「確かに、俺達は足元にも及ばない・・。」
どうやら、マリッサの作品と勘違いされたらしい。
なんだか面白そうな展開になってきたが、続きは見られそうにない。
下手に突っ込まれても困るし、丁度いいのかもしれない。
「違うのよ?!私が作ったんじゃないの。これはリフレが・・・。
ちょっと聞いてる?頭を下げるのをやめなさい。私が作ったんじゃないのよ?」
助けを求めてか、こちらに視線を送ってきたが。
その位置に俺達はいない。
「ちょっと?何そんな離れたところにいるのよ?置いていくつもりなの?
え、本気なのね?待ちなさい。これ何とかして!ちょっとぉ?」
気付かれた。宿に行けば合流できるわけだし、俺達は他の用事を済ませて来るのだよ。
君らは好きなだけ装備談義に花を咲かせていたまえ。
さっさとその場から逃げ出そうとした時、ばったりと少年・・いや、ドワーフの男と出くわした。
危ない、衝突するところだった。
「!! 頭にコッコ鳥!・・・お前、赤毛で女のドワーフの連れがいるんじゃないか?
どこにいる?ウチの装備が馬鹿にされたんだ!一言言ってやんないと気が済まない!」
・・・・・。
すまん、マリッサが絡まれたの、俺のせいだ。
完全に目印扱いされていた。
チラッと後ろを見ると、マリッサがもうそこまで来ていた。
さすがにレベル上がった分だけ速いよ。割とAGIに振ったんじゃないかな?
すみません。そんなに睨まないでください。
「模擬戦が・・・。」
ギルディートはそれが目当てか!
そういえば確かに、「先に用事を済ませてこようぜ」とは言われたが、雑貨屋や服屋に行くとは一言も言ってない。
油断も隙もあったもんじゃないな!マジお前、マリッサに似てきたよ!元々どんな奴なのか、そこまで知らんけども!
さて、こいつらをどうすべきか分からないが、とりあえず、落ち着いて話せる場所に行こう。
こいつらはドワーフ。ドワーフといえば酒場だな。
宿に酒場っぽいの付いてなかったっけ?ただの食堂か。そこに行こう。
俺はその集団を引き連れて、一旦宿に戻ることにしたのだった。