武器屋巡りと鍛冶屋との遭遇
その男の名はトマスといった。
どうやら、頑固そうな親父の、「装備が生きてない」店にメインで武器を卸している鍛冶屋らしい。
他にも何軒に卸しているが、たまたまそのうちの数軒がマリッサの毒舌にぶち当たり、参った店員がタイミングよく商品の補充にやって来たトマスに愚痴ったようだ。
ちなみに、あの頑固そうなオッサンは愚痴の1つも零さずに、いつも通り陳列を頼んだそうだ。
あのオッサン、割と大物かもしれん。いや、単に無口なだけか。
「ウチの売りは、手入れをしなくても長く持つ頑丈さと、使い勝手の良さなんだ。
多少手入れされて無いからと言って性能が落ちるような作りはしてねーんだよ!」
「それは、お客に案内しても良いと思うけれど、お客の手にも渡ってないうちから手入れされてないのは、ただの怠慢なのよ。
それに、手入れを怠れば、それだけ装備の寿命が縮むのは、どの装備も同じ筈よ。最初から『手入れは要らない』なんて言うのは、怠慢を招くだけなんじゃないのかしら。」
「何にも知らないクセに偉ぶりやがって。
錆び難い金属を使っているし、ちゃんと錆止め加工もしているんだよ。」
「偉ぶってるつもりはないのよ。何を持って私が何も知らないと言うのかしら。
錆び難い金属って絶対に錆びないわけではないんでしょう?どの程度錆びないの?
錆止めはどれくらいの期間もつのかしら?あと、貴方の方こそ偉そうなのよ。」
しばらくは2人の会話を聞いていたが、ただの喧嘩である。
だるいし、眠いし、時間の無駄だ。ギルディートに頼んで、次の店に向かう。
口喧嘩しながら2人は着いて来る。うん、問題ないな。
スザク、首を傾げたろう?問題ないからな。
「適性レベル30のセット装備を探しているのよ。あるかしら。」
毎度お馴染みとなった台詞で店員に話しかけるマリッサ。
トマスという若い男は腕を組んで様子を窺っている。
俺とギルディートは店内を物色。
おっ、この篭手、50レベル装備じゃないか?ただ、ギルディート向けとは思えないな。
やはり40レベルで揃えていくしかないんだろうか?えっ、50レベルからの武器防具は特注になるのか?
「違うのよ。セット装備を探しているの。色合いの似ている装備を組み合わせてセットにしたいわけじゃないわ。
こんな中身がスッカスカの装備なんて、恥ずかしくて着けられないのよ。」
店員のオススメする組み合わせの1つが、補正の酷いものだったらしい。
マリッサの言に、トマスが噴出すのを耐えている。どうやら、自分の工房のものではなかったようだ。うん、誤解は解けたようだ。
しかし、50レベル以上の装備が特注となると、こうしていくら武器屋を回っても仕方ないという事だな。
鍛冶屋・・・つまり、工房の方を訪ねないと駄目か。
セット装備も工房で聞いた方が手に入り易いんじゃなかろうか?
欲しい装備が無さそうなので、その店も出る。
鍛冶屋に直接行かないか?と提案しようと思った時だった。
「おいぃ!そこの赤毛!!ウチの装備にケチを付けて回ってるんだってな!
おかしいと思ったら、モンテルノ工房の回し者だったか!」
また変なのが増えた。
ドワーフ族は小柄で若々しい外見のせいで、どうも少年少女に見えてしまうが、おそらく成人しているはずだ。
マリッサとトマスもそうだが、新たに加わったこの男も、やはり少年にしか見えなかった。
だが、下手に子どもの喧嘩扱いしたら後で怖い。工房で働いてるって事は大人だろうしな。
「お前はトルガンサ工房のエディ!」
ああ、さっき言ってたライバル工房か。これは話がややこしくなりそうだ。
「モンテルノ工房のトマス・・。ここまで明白な妨害をしやがって、よもや言い逃れができるとは思うまいな!」
説明乙。でもまぁそう思うよね。どうしたもんか。
俺達がしたいのは買い物であって、妨害でも誹謗中傷でもない。
こいつらが工房で働いているとなれば、敵に回すのは得策では無いと思うんだが・・・。
「悪いけど、マリッサは貶している自覚が無い上に、何処の工房の装備も全て分け隔てなく貶めているからな。
今のところ、褒めてるのは一度も見てないし、限りなく平等に罵詈雑言を浴びせている。だから、気にすることは無いと思うぞ。」
フォローしたつもりのギルディートさんは、マリッサさんに睨まれております。後ろ後ろ。
爽やかに笑顔を見せている場合じゃないから!ちょっと言葉を選ぶことを覚えような?
マリッサは?手遅れだ。毒が舌に馴染んでしまってるから、矯正してなんとかなるレベルじゃない。
あっ。マリッサさん、冗談ですよ冗談。
むしろ、毒のないマリッサはマリッサじゃないというか。毒の無い河豚みたいなもんだと思うわ。
まぁ無いに越したことはないんだが。
「コ、コ、コ、・・・」
うん?
頭の上で、スザクがなにやら体を上下してアピールしてるみたいだ。
町中でスザクが何かアピってくることは、そう無い。
うっかり、その存在を忘れそうになるくらいだ。
トイレかな?(適当)
「ちょっとトイレに行きたいんだけど。ギルディート、トイレってどこに行けばいいんだ?」
この町、公衆トイレがあるんだ。有料だけど。
でも、ちゃんと管理されているのでそこまで臭くも汚くもない。
俺達は、装備と毒舌について談義しながら、喧しく近くの公園へと向かうのであった。