装備を見繕いたい
美味い飯屋だった。
テイクアウトの料理を頼み、少し話す。
漁業は専門外だが、魚介類を味わえるのなら味わいたい。
だが、俺達は船も無ければ道具もないのだ。
また機会があれば依頼を受けようと思うが、装備も買わないといけないし、途中の集落のオッサン共の面倒を見ないといけない。
予定もへったくれもない俺だが、それなりに引き受けてしまった事はこなそうと思っている。
だが、それ以外は駄目だ。
自分のできないところまで背負い込むと後で辛いのだ。
「模擬戦もしないといけないしな!」
・・・そうだった。
闘技場での模擬戦ってどんな感じなんだろうな?
ギルディートに聞くと、ギルドの練習場を使ったらどうかと提案された。
練習場って訓練場の事か?
ギルドの訓練場って確か、チュートリアルで出てくるんだよな。
それ以外で出てきたことないから忘れていた。
「ノルタークの練習場なら広いし、混んでない時間を狙えば伸び伸び模擬戦できるぞ!」
模擬戦って伸び伸びやるもんだっけか?
まぁいい。
ギルドの混んでない時間っていつなんだろうな?って聞いたら、お昼の短い時間か夜だと言われた。
お昼はみんな仕事と昼飯でいなくなるし、夜は休むからだそうだ。
んー夜でいいかな。
とりあえず、装備を見繕いたいが、宿も決めてしまいたい。
動き出したら寝不足感はだいぶ抜けたが、それでも休む準備をしておきたい程度には疲れている。
これもまた、ギルディートの勧める宿を取った。
連泊で洗濯を頼むのも忘れない。
日帰りのつもりでいたけど、この町は広すぎるし、2人にも反対された。
じゃぁ一泊しようかという話したところ、強硬に二泊を勧められた。
まぁいい。俺も疲れてるしな。一日寝過ごしたとしてもまだ余裕があるわけだ。
ちなみに、コランダの宿は取りっぱなしにしていて、服を数着預けてあるので、そんなに洗濯物は溜まっていない。
2人には「これだから金持ちってやつは・・」みたいな反応をされたが、2人だって困らない程度にはそこそこ持ってるだろう?換金できないけど。
さて、買い物に出掛けるとしますか!!
正直、寝不足に加えて腹が満たされたせいもあり、出かけずに休んでしまいたい。
だが、今寝ると夜になっても眠れなくなりそうな気がする。
まぁ欠伸を噛み殺す必要のない、気楽な外出だ。気負わずにのんびりと巡っていこうと思うよ。
時折、頭上への視線を感じながら、いくつかの店を回ったが、装備品の種類はどこも似たような感じだった。
店売りなんてこんなもんか。
それに、高レベル装備が全く置いていない。
マリッサのレベルは27まで上がっていた。
買うならレベル30装備か。武器と鎧は30万前後、他は10万くらいであったはずだ。
全身セットで買うとしたら・・・100万あったら足りるかな???
ギルディートは相変わらずレベルを明かさないが、60くらいと仮定する。
武器は2つ必要だから、それだけで100万は必要だ。鎧は50~80万したと思う。
他は10万超えるくらい。だから・・・300万くらい??
丼勘定だし、ゲームでの価値とは違うだろうから、多少のズレはあるだろうけど、予算としてはこんなもんだと言ったら、2人とも悶絶していた。
高いらしい。高くないよ!ゲームでは普通だったし、この世界では命の金だよ!
それに、冒険者続けていくつもりなら、金を突っ込まないと命が続かないよ!
だいたい、メインで稼いでからサブを作る人なんて、3倍は突っ込むよ!!
桁が違う頭がおかしい人だっているんだから!!!
見るだけなら無料なので、色々見て回る。
必要ならアドバイスをしようと思っていたが、キャラの特性上というか・・、マリッサは充分目利きだった。
俺は、とにかく周辺を見て回り、土地勘を掴む事を心がけた。
だって出る幕がないんだもの。
「セット装備は無いのかしら?適性レベルは30のものを探しているのよ。
これは違うわね。似た装備を集めているだけで、セットではないの。お話にならないのよ。」
ある店では新人っぽい店員を半泣きにさせ。
「この店は駄目よ。もの自体は悪くないのだけれど、管理がまるで駄目ね。
ここで買うくらいなら他の店に行くのよ。無骨な雰囲気?風合い?違うわ。
錆びてないだけで、装備が生きちゃいないのよ。」
またある店では、頑固オヤジっぽい店主をけちょんけちょんに貶し。
「ボッタクリもいいとこなのよ。20レベルのセット装備にしては豪華だしけど、機能性がまるでないわ。
だいたい、私は30レベルで探してるのよ。
客の探してるものと全然違うものを差し出して、予算一杯毟り取ろうだなんて、面の皮が厚いのよ。」
高級っぽい店でもその毒舌が冴え渡った。
どの店に入っても妥協を知らず、空気を読まず。
更に数件の店を渡り歩いた結果・・
「おい、そこの赤毛。アンタ、そこら中でケチを付けて回っているそうじゃねぇか。何様のつもりだ。」
なんか変なのに絡まれた。
若い感じの、多分ドワーフの男だ。
「装備を探しているだけなのよ。普通にお客をしているわ。」
お客様のつもりなんですね、わかります。
まぁ実際、ちゃんと装備品は探している。
ただ、ギルディートのレベル帯の装備がほとんど無く、40レベルのあたりで供給がストップしていること。
その中から選ぶとなると靴とかグローブとかになってしまうし、一新するにしても高い割に効果を実感しにくそうだという事で、購入まで至っていない。
ケチを付けて回っている、という認識になっても仕方ないのかもしれない。
「ウチの工房をどこまでも貶めやがって!トルガンサ工房の差し金だな?!」
だが、どうも何か勘違いをしている。それは被害妄想というものだ。
工房を絞って攻撃していたというわけでもないし、トルガンサ工房なんぞ聞いた事もない。
だいたい、ケチを付けているという認識は仕方ないとしても、俺達は普通に装備を求めているだけなのだ。
「大丈夫だ、どの店も、工房も、分け隔てなく、全て貶していた。
アンタの工房だからという理由じゃない。」
ギルディートさん、それフォローのつもりですか?
そこの男だけじゃなくて、マリッサさんもワナワナしてますけど・・・。
「貶してなんかいないのよ!思ったことを伝えただけだわ!」
「うちの工房の何処が悪いってんだ!言えるもんなら言ってみろ!!」
なんか、面倒なことになってませんかね?なってますよね?
はぁ・・帰って寝てもいいですか???