ノルタークin飯屋
ノルターク。割と大きい町だ。
海と隣接し港もあるが、その大きさから海は見えず、門から入っても港町だと感じない。
ほんのり磯の香りがしないでも・・・・・しないでも・・。しないな。わからん。
そもそも、磯の香りってどんな香りなんだろうな。
海を見た事がないでもないが、海=磯の香りかというと謎なんだよな。
間近で嗅いでみたこともあるが、そんな匂いらしき匂いがしなかったというか。
なんか匂ってくる日もあるけど、その日のコンディションで香ったりするのか、それが磯の香りってやつなのか・・。
俺的には、藻の香りと言うか・・海以外でも似た匂いを感じたことがある気がして、「磯の香りだ」とはならないんだよなぁ。
それとも、いつも香ってるけど、俺の鼻が特別悪いのか・・。
ともかく、町に入っても磯の香りとやらを感じる事はなかった。
他の町と比べても、だいぶ賑やかである。
その賑やかな町で、俺は少しばかり目立っているようだ。
正確には俺と言うよりも、頭の上のスザクが、だが。
「ノルタークに来たのは本当に久しぶりなのよ。6~7年前に来たのが最後だったかしら。」
「コランダに住んでるならそうなるか。あの町は便が悪そうだからな。」
マジか。え、マリッサさん地元民じゃないの?と思ったら、遠出しないのは割りと普通らしい。
6~7年前は爺さんの用事で、馬車に乗って来たそうだ。
OK。馬車の方がデフォルトらしい。うん、「徒歩の方がが馬車よりも早いのはおかしい」というのは認めよう。
でもほら、冒険者だから。ギルディートだって速いし。
そういえば、ゲームでのディアレイは、もっとシンプルな町だった。
服屋なんて無かったし、武器・防具は武器屋に丸ごと置いてあった。
そのディアレイがあそこまで様相が違っていたのだ。
ここ、ノルタークがどれだけ違うのか、不安でもあり、楽しみでもある。
ゲームでも大きい町では色々あったし武器屋も色々あるはずだ。
早速、武器屋を探して物色する事にする。
「おい、そっちは歓楽街だぞ。」
歓楽街か。気にならないでも無いが、今は用事が無い。 ・・・歓楽街か。
覚えておこう。キョロキョロと見回すが。
・・・だめだ、遠くからでもわかりそうな目印らしきものが無い。
コンビニやファミレスみたいに高い位置に看板とかあればわかるんだが。
それは冗談にしても、似たような外見の建物が多くて、特別屋根の形や色が変わった建物というのがないのだ。
「そっちは住宅街だ。」
さすがに住宅街に用事は無いな。
ここらの住宅に住んでる奴らって、仕事は何をしてるんだろうな?
「だからそっちは歓楽街だ。」
「コケ。」
・・・体が勝手に向いてしまうんだろうか。
これでも、広い道を人の多い方へと向かっているつもりだ。
そうすれば、商店街に着くはず・・というのが俺の考えだ。
商店街に着いたら、まず武器屋に行きたいんだが。
「海、だな。」
うん、海だ。建物を適当に抜けていくと、唐突に海に到着した。
船が何席か停泊しているものの、人通りは多くなく、少し寂しい印象を受ける。
湾のようになっていて、遠くに灯台のような建物の立つ陸が見える。
いや、海は見たくなかったわけじゃないんだけど、今は来る必要無かったかなぁって。
「案内しようか?」
「お願いします。まずは飯屋で。」
最初から案内を頼めば良かったのだが、この世界の初ノルタークにテンションが上がってしまった。
ギルディートも、俺が楽しそうに探索し始めたので、邪魔するのも悪いと思ったらしい。
変な気を使わなくてもいいから、もうちょっと早く声をかけて欲しかったかなぁ。
近くの飯屋。
ギルディートのオススメの店に案内してくれと言ったらここに連れてこられた。
味はもちろんだが、色々オマケしてくれてお得だという事だ。
スザクは、首輪をしているおかげで普通に入ることができた。
席に付き、メニューを見る。
やはり海の近くなので、海の幸がおいしい筈・・・・・あれ?
肉料理、野菜料理。わりと豊富だと思う。
パンも2種類あるのか。セットメニューのスープまで選べてしまう。
今日のスープは野菜とベーコンの澄んだスープに、ミンチボール入りのミルク系スープ。
今までの飯屋の中では先進的なんじゃなかろうか?
ところで・・
「海の幸は?」
「うみのさち?」
わからない、という様子のギルディート。マリッサの方も見てみるが、反応は無い。
海の幸じゃ通じないのか?海の食べ物と言えばいいのか?海の味覚?
あ、もしかして、魚を食う習慣が無い?だったら通じるわけないな!
「海の幸って、ほら、魚とか、海老とか、蟹とか、貝とかだよ。
食べる文化はないのか?結構うまいんだけど。」
蛸とか烏賊は気持ち悪がられるのも仕方ない。
言っても「そんなの食べられないよ!」と言われそうなので、まず無難なところから攻めてみる。
あの軟体生物を食べる文化が無いというのなら我慢しよう。
だが、蟹を腹いっぱい・・は無理でも、海老ならそこそこ手に入るんじゃないか?
あと、貝系は出汁がすさまじく美味いからな!ぜひとも食べたい。
魚もたまにはいいよな。白身魚ってわりと好きなんだ。フライに煮付けに。
クセが無くてつまらないなんて人もいるみたいだが、俺は断然、白身魚派だ。
「また始まったのよ。」
どういう意味だ?何が始まったって言うんだ?
はい、解説のギルディートさん。頼むよ。
「あのな、海の中にいるモンスターを、誰がどうやって討伐するってんだ?」
はい?
「そして、食えるかどうかも分からないモンスターを、誰が食うってんだ?」
・・・・・・・。
文化が無いってレベルじゃなかった。マジか。いや、モンスターだもんな。
せっかく海の町に来たのに、すぐそこに海があるのに、海の幸は無いのか・・・。
残念だ。
いや、でも、貝なら・・・アサリとか砂浜に埋もれてたりしないのかな?
「海のモンスターって食えるのか?」
俺は声のした方を見る。
飯屋のおっさんが、何か皿に乗せて持って来ていた。
まだ注文してないんだが・・・。と思ったら、来た客に試作品の味を見てもらっているのだという。
特に、常連にはサービスしているとか。
ああ、常連ってギルディートか。で、これが言ってたオマケか。
「うまいって本当なのか?」
なんだこのオッサン。ぐいぐい来るな。
コッコ鳥の肉が鶏肉であるように、モチトンの肉が豚肉であるように、やはり海にも魚介類のモンスターがいて、そんな味がするのだろう。
ただ、実際に見たわけでも味わったわけでもないし、毒のあるやつとかいるかもしれない。
他人に保証できるだけの自信はなかった。
「うまい筈だ。ただ、ちゃんと調理しないと、毒があったりするかもしれないし、肉よりも腐るのが早いから、鮮度が大事みたいだな。
俺は詳しくはないから、分からないことの方が多いが、調理が大変な事も多いみたいだ。」
ここまで言って、アイテムボックスがある以上、鮮度に関しては問題が無い事に気付く。
「手に入れることはできるのか?」
なんか妙に絡んでくるな。食ってみたいのか?
でも、漁業関係は俺の専門外だ。
それはともかく、飯だ。魚介類が食えないのは残念だが、オッサンの置いた皿から漂ってくる香りがハンパ無い。
あ、摘まんでいいの?いただこう。
「どうだろうな。俺の知っている魚介類とは勝手が違うみたいだし、漁も釣りもやってないなら厳しいかもしれないな。冒険者ならなんとかなるんじゃないか?」
これは・・・ピザグラタンパンとでも呼べばいいんだろうか?
焼き立てのサックリした丸いパンは、中空だが底は厚く、しっかりパンだ。
ほのかな酸味のトマトのようなソースの上に、具材の入った、とろみのあるソースが乗っている。
グラタンを連想させるソースの中にはベーコンとキノコが入っていて、さらにその上にチーズが少しだけ掛かっているという3重構造だ。パンを入れたら4重か?
試作品のわりにボリュームがあり、わりと美味しかった。これは期待できるな。何を食べよう。
メニューを眺めていたら、ガシ、と肩を掴まれた。
スザクが慌てて俺の肩に移動する。大丈夫、取って食われやしないよ。・・・しないよな?
「頼む、手に入れてくれ。未知の食材とあらば、是非調理してみたい!そしてその味が知りたい!」
ああ、俺も冒険者だったね。
そう言われてもなぁ。アサリくらいならともかく、他の魚介類の取り方なんぞ詳しくない。
しかも、相手がモンスターと来ればなおさらだ。
困っている俺を尻目に、マリッサとギルディートが注文を始めるのであった。