ノルタークへ向けて
朝である。木に寄りかかって寝たが、体がだるい。
光が目に痛い程度には寝不足だ。
さっそく冒険者候補達が選抜されていたが、今から連れて行くつもりはない。
俺達の出発に合わせていた雰囲気だったが、あんな遅い馬車に頼るような足で付いて来られても困るのだ。
いずれ、レベル上げに付き合ってやるつもりはあるが、それは俺達の用事が終わってからの話だ。
リーダーが決まったようなので、そいつにミラバドの涙というアイテムを1つ渡す。
夜のうちに、そっとCCして、サブのリーフレッドから取り出したのだ。
150レベルダンジョンで手に入るゴミアイテムだが、この世界では宝石の扱いらしく30万Dで売れる。
当面の生活費の足しにはなるだろう。
個人クエストとして、これをギルドで売って、得た金で当面の食料を買うように言っておいた。
薬草の見本を渡して採取を頼み、買取を約束する。
そして、さらっと冒険者候補達を置き去りにしてきた。
気付いて見送りに出てきたのは長老だけだった。
あれ?昨日は病み上がりだったせいか、ザ・老人って感じだったけど、なんか溌剌として・・若返った感じがする。
病気って怖いんだなぁ。
「さて、さっさとノルタークに行って、宿で休もう。」
「コケ!」
スザクは元気だな・・・。
朝っぱらから宿で休もうと言われちゃ苦笑するしかないのはわかるが、仕方ないだろ。
装備も大事だが、キャンプ用品を買わないとな。ちゃんとプライベートを確保できるやつが欲しい。
うん?ギルディートはご機嫌だな。特に耳が。
「ようやく模擬戦か!楽しみだな!!」
・・・はい?
ああ、ああ!模擬戦ね!そんな約束もしたな・・・・・。
正直、今はそんな気分じゃないんだが。
「まさか、忘れてたのか?」
「そんな気分じゃないって顔したのよ。」
お前ら・・・。
ジト目を向けてくるわりに、耳が元気なままなので、ギルディートはガッカリも怒ってもいないようだ。
ノルタークまで戻れば、クランメンバーが常駐してるし、ダフに会える可能性が高い。
相当慕っていたみたいだし、数日振りに顔を見るのが楽しみなんだろう。
さすがに模擬戦をすっぽかしたら怒られそうだが。
「・・・・・。」
ねぇ?俺が考えてる事が読めちゃってるの?
何故、耳のピコピコが止まったの?
どうして目を逸らすのかって?別に疚しい事は何も無いデスヨ?
さて、あのオンボロ馬車よりも快適な速度で歩いていた俺達は、ようやく街道に出る。
とはいえ、マリッサにペースを合わせているので、それなりの速さだ。
移動中の話題はと言うと、あの集落で話し辛かったせいもあり、盗賊団とのやり取りである。
マリッサはわざと引っかかったわけではなく、本当にお得な依頼として受けたらしく、恥ずかしそうに謝ってきた。
冒険者としては俺より先輩、という矜持があったようだが、それが少し傷付いたようだ。
まぁドンマイだな。
昼飯の時になって2人が彼らの様子がおかしい事に気付いた事。
助けを呼ぶにも遠い、町と町との中間地点で待ち伏せがあった事。
俺が気付かずに飯を食い出した事・・・いや悪かったって。
そして、盗賊団を一網打尽にした事。
「そんなつもりは無かった」って言ったら、「だと思った」と言われた。
「なぁ、あの時のスキルって何だったんだ?装備も変わったように見えたんだが・・。ッ」
ギルディートが問うと、マリッサが脇を突く。
ボロ出し待ちの作戦を続行中みたいだ。いや、そのあたりはそこまで秘密じゃないというか。
別にCC自体は、いつか話そうと思っていたから、いいんだ。
いつかバレるだろうし、バレない事を前提に隠して使うのは、無理が来るだろう。
だが、芋づる式に、女性キャラへのCCがバレるのが辛い。
最悪、バレてもいい。しかし絶対に見られるわけにはいかない。
見られるわけにはいかないのであれば、バレない方がいいに決まっているのだ。
無限ループである。
それに、これを話すと全裸事件の真相が透けて見えてしまう。
うーん、どの程度をどう話したらいいんだろうか。
「なんというか、2人は俺が変に隠し事を持っていると思ってるみたいだが、俺の自尊心に関わることを喋りたくないだけで、大した秘密はないんだが・・・。」
・・・。
おい、移動中に口を開けていると虫が入るぞ。
口火を切ったのはギルディートだ。
「あのニャンコロの事は秘密じゃないのか?」
ニャンコロノフか。
あれも女性キャラなんだよな。
「・・・・・。そこまで秘密ではないが勘弁してくれ。」
最悪、明かすこともあるだろうが、羞恥以外の何物でもないな。
とりあえず、装備をマシなのに変えないと、あんな股がスカスカの格好で「俺だ」と認識されるのは痛い。
「鍛冶の事は?」
どうしてお前はピンポイントでサブキャラを突いて来るんだ?
だいたい、触れるなって話したやつだろ?わざとか?狙ってやってんのか?
「・・・・・・・勘弁してくれ。」
じゃぁ何が話せるんだよ、って顔しやがって。
さすがに今のはわかったぞ。
ジト目未満だったけど、眉間に皺が入りかけてたからな。
「時々、お前のネームが表示されなくなるんだけど、それは何故だ?」
うん?
「どういうことだ?」
ネーム。初めて聞く単語だが、予想はつく。
おそらく、カーソルを合わせると出てくるテキストの事だろう。
[マリッサ]や[ギルディート]、[スザク]ってのがそれだと思う。
それが表示されなくなる?
「だから、普段、見える名前あるだろ。お前なら[リフレ]って出てるし、こいつなら[マリッサ]って出てる。」
・・・・・。
ほぼ間違いなく、人の名前とかを指してるはずなんだが。
え??ちょっと待って。このキャラの名前はリーフレッドなんですけど??
ネームはまず間違いなくカーソルを合わせると出てくるテキストの事だろう。それはわかる。
だが、追加の説明で、さらに意味がわからなくなる。[リフレ]はマリッサが付けたあだ名だぞ。
しかも、それが時々表示されなくなる?? わけがわからない。
「どういうこと???」
ギルディートは、うんざりした顔を隠そうともせずに、額を指で押さえた。
いや、頭が痛いのは俺の方なんだけど。