何故か歓迎される
さて、完全に暗くならないうちに、町へ行って宿を取ろう。
そう思っていたら、長老という人物に呼び止められた。
一応、この集落?の代表者で、何やら、一泊の用意をして歓迎してくれるという。
あ、この婆さん、さっき治療した人だわ。女性が長老なのか。
耳が尖ってるけど、魔族だろうか?エルフだろうか?どっちでもいいか。
この世界のエルフってやっぱ長寿なんだろうか?
気になることはあるけど、まぁ今考えるべき事じゃないな。
自分達の飯もほとんど摂れてないのに、どうやって歓迎すんだよって思ってたら、コッコ鳥を1匹潰すのだという。
自分達のためにそこまでしなくてもいい、と断ろうとしたが。
「ケェーーーーーーーーッ!!!・・・」
断末魔の叫びが聞こえてきた。遅かったらしい。
スザクが、そっと肩まで降りて身を寄せてきた。邪魔なのでやめなさい。
「もう卵も産まなくなって、痩せていく一方だったでな。これも良い機会だったと思っとるよ。」
そ、そうか。
まぁそういう事なら・・いいのか?
「若いモンから事情は聞いた。この度は、本当に申し訳ない事をした。」
おお、この婆さん、事情まで知っているのか。
・・どこまで、どの程度知ってるんだ?
当たり障り無く話しておこう。
「まぁ、お互い様ですよ。俺も随分と驚かせてしまったみたいで。」
何箇所からもジットリとした視線が飛んで来ている気がするが、受け流しておく。
あれは事故だよ。本当に、ただ脅かして退いてもらうつもりだったんだ。
全員を捕縛するつもりなんてなかったし、ましてや商隊までグルだなんて思いもしなかった。
「それで、あの馬鹿共を冒険者にするという話だが?」
「あ、スカウトの話ですね。まず、武器の話ですが・・・――。」
婆さんと話してる間に、気が付いたら宴会になっていた。
おい?俺のアイテムバッグ、勝手に開けたろう?
朝、ギルディートが食い残したやつ。うん、振舞ったらいいと思うよ。
でも、そのサンドイッチ、俺が毎日作ってもらって、貯蔵してるやつだよね?
地味に増やしてほくそ笑んでた、貯蓄分だよね?
その酒、女将さんが特別に売ってくれたやつ・・。
あ、揚げ物にシチューも出てる。
ちょ、俺のストックは??
「コケェ・・」
スザクが悲しげに見上げているのは、焚き火にじっくりと焼かれている鶏の丸焼きだ。
・・・おい、スザク、戻って来い。ほら、コーンと麦があるから!
その後、「肉、肉」と騒ぐ子供達に追い掛け回され、這這の体でスザクが戻ってくる。
何やってんだか。
「スカウト、・・か。上手いことを言っとるが、鉱山送りを免れた馬鹿共に、別の仕事をさせようという話じゃないのか。
奴らは、本当にもうできる事が何もないんだよ。」
ああ、本当にちゃんと全部知ってるみたいだな。
武器の貸し出し/後払いでの販売の話を済ませたので、今度はレベル上げの話をしないとな。
あと、何年も前に壊した膝などの治療だが、こればっかりはどうなるかわからない。
万能薬さんがいくら“万能”だからって、状態異常以外にはどの程度の効果があるかわからないのだ。
「っておい!それ以上、俺のアイテムを出すな!さすがにやりすぎだぞ!」
放っておいたら調子に乗る、とはこの事だろう。
ギルディートとマリッサが、俺のアイテムボックスから次々にアイテムを出して並べていた。
女将さんの特製シチューと、カレー、ディアレイの宿で手に入れた肉の煮込み、スパゲティ、そして相当溜めたサンドイッチが全て出たところで、さすがにストップをかけた。
このままでは全部放出されてしまう。
しかも、これ全部食う気なのかと聞いてみれば、そのつもりはないという。
「冷めちゃうでしょうがっ!!」
軽く説教をする。
食いたくて出すならともかく、食わない物を出すなんて、とんでもないことをしやがる。
せっかく時間の経過が無くて、温かいまま食べられるというのに。
料理ばかりではない。アイテム置き場と化したその場所には、様々なアイテムが出されている。
ゴミアイテム、消費アイテム、蜂蜜の樽に、トーチが全部。
トーチ全部ぅ?!何故に???
「・・・リフレの怒るポイントがイマイチ分からないのよ・・。」
いや、普通に怒るからね?
しかも、アイテムボックスって他人でも出せるくせに、他人が入れることはできないのかよ!
これ、俺が全部戻すの?面倒くさいなぁ・・・。
片付けている間も、婆さんが寄って来て色々話しかけてくるので、説明したり、質問に答えたりした。
てか、婆さんの持ってるそれ、俺のサンドイッチだよね?別にいいんだけどさ。
マリッサ、樽1つは飲みすぎだと思うんだ。何故空にしたし。
ってか、俺もその酒飲みたかったんだが・・・。
色々なものが俺以外の人達の腹の中に消えていった。
そして俺の前に置かれた皿は・・・・・。
「コココココ・・・。」
「いや、食べ辛いよ?!」
鶏の丸焼きの、半身であった。
全身何処でも食べられるよ!とでも言わんばかりである。
半身と言っても、綺麗にカットされているわけではなく、豪快に引き千切られている。
おかげで、恨めしそうな頭が付いてきてるのだ。いや、尾頭付きとか嬉しくないから!
捌く時も石器のようなものを使っていたし、本当に売れるものは何もないんだな。
精神的にも物理的にも、スザクを肩に乗せているせいで、ものすごく食べ難い。
肉だけに・・って、やかましいわ!