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食べ損ねた昼食

さて、事情を知らない子供達が親を出迎えた後、次に注目を受けたのは俺達だった。


「おじさん、だれ?」「とりだー。とりがいるよー。」「にく?」「[スザク]だって。」

「スザクって何?」「わかんない。」「肉じゃないの?」「まるやき~?」


尖った耳をピョコピョコさせながら、群がってくる。

スザク、大人気だ。

名前が丸焼きのままじゃなくて良かったよな。いらぬ誤解を受けるところだった。


それにしても、こんな小さい子達が文字を読めるのか。

教育が発達しているとも思えないし、この世界のシステムのせいだろう。

集中すれば、人や物の名前がわかるのだ。


ん?ところで、ニャンコロノフとかはどう見えるんだ?

っと、まずい。マリッサ達にこれを聞くわけにはいかなかった。

さすがに、ニャンコロノフになっている時に[リーフレッド]とは出ないだろうと思うが。


わいわいと群がられているのは、俺とスザクばかりでは無い。

よほど、外から来た客が珍しいのだろう。

マリッサもギルディートも、それぞれに歓迎の言葉が送られている。


「心が、痛い・・」


おい、ギルディート、どうした。

何やら落ち込んでいるようだが、構っている場合じゃない。


もう夕暮れも近い。俺の胃が悲鳴を上げているのだ。

さすが20代の胃袋だ。

規則正しい生活を心がけている俺にとって、昼飯のズレは少々厳しいものがあるが、ここまで胃袋に主張されるのは久しぶりな気がする。

とにかく・・・腹が減った。


俺達は昼飯を食ってないというか、不味い麦粥を少し腹に入れただけだ。

あまりの不味さに、毒の類を疑ったが、「これからアイテムを奪う冒険者が、せめて腹を空かさないように」という配慮であったらしい。

その配慮はもっと別のところで使えただろう?!

この麦粥は、そんな彼らのなけなし(・・・・)の食料である。

いくら糞()()いからといって、捨てるのはちょっとはばかられる。


とりあえず回収した麦粥がアイテムボックスに入っているが、食う気分にはなれそうにないし、誰に返却したらいいのかもわからない。

飯にしたいが、こんなに痩せこけた子供らの前で昼飯を食うのも、見せ付けるみたいで気が進まない。


「マリッサ、ギルディート。麦ってどれくらい持ってる?」


二人に尋ねると、訝しげな表情をされたので、もらった麦粥がめちゃくちゃ不味かった事、かさ増しして、その不味さを和らげて食べたい事、この子らに食べるのを手伝ってもらいたい事を伝える。

そしたら、ギルディートが箱ごと麦を取り出してくれた。


「これを使ってくれよ。

うんうん。不味くて食えないから、子供達に飯を食うのを手伝って貰わないといけないんだな!」


・・・。同情したのか知らんが、そういうツンデレな意味じゃないぞ?

本気で不味いんだ。わかってるのか?わかって無さそうなので、口に麦粥を押し込んでみる。

マリッサも道連れだ。

ギルディートの耳が見る見るうちにしおれていった。・・・わかったならよろしい。


「これは酷いわね。なんだかカビ臭いし、辛うじて食べ物の域だけど、廃棄物寸前なのよ。」


マリッサも麦を提供してくれた。

よし、これだけあれば、だいぶあの酷い味が薄まりそうだ。


一番大きい鍋で、麦粥を作る。

正直、あの麦粥を混ぜるのは食べ物に対する冒涜ぼうとくのような気もしなくもないが、麦に笑うものは麦に泣くのだ。・・多分。

それに、食える物体である以上、粗末にしてはいけないと思うのだ。


で、混ぜ合わせる。

うーん、あの味を知っているせいか、まだほんのりと変な味がしないでもないというか。

味見をした2人も同じ表情をしている。うん、決しておいしくはないよな。


で、俺は伝家の宝刀を抜いた。カレー様の降臨である。

ドバドバと入れたら勿体無いので、適度に入れて、全体に黄色みが付くまで混ぜ入れる。

そして、塩で味を調える。・・・どうだ?


「おいしいのよ。」


「これなら食えるな!」


うん、いけるな。飯にしよう。

男達が用意した器にカレーのリゾットをよそい、子供達にふるまう。

家に皿なんぞ無いとの事だったので、回して使ってもらう。

俺達は俺達で飯にしよう。


と、そこで1人、器を持って駆け出す子供がいた。


ちょっと待った。お前、どこに行くんだ?

病気のお母さんに、飯を食わせに?俺も一緒に行こう。

器を回して食ってるんだ、これで万が一にも「お前らのせいで病気が全員に広まった」とか言われたら困る。


マリッサ達に後を任せて、男の子の後に続く。


確かに、調子の悪そうな女性が横たわっているな。

とりあえず、万能薬を飲ませてみる。


いや、薬だから。大丈夫だから。金?それもとりあえずいいから。


・・・。

調子が良くなった気がする?そりゃ良かった。

うん?他にも診て欲しい人がいるって?俺は医者じゃないんだが・・。


わかった、行こう。泣くな。悪かったよ。


そんなこんなで、病人のいるというテントを回ること数軒。


俺が戻った頃には、カレーのリゾットは食い尽くされていた。

・・・大丈夫、カレーはまだたくさんある。白米もあるし、パンもある。

別に、ここでカレーのリゾットが食えなかったからと言って問題はない。

問題はないのだ。


「リフレの分は取ってあるのよ。」


「!」


マリッサがアイテムボックスから深皿を取り出す。

さすがはマリッサさん!わかってらっしゃる!


うん。美味い。

あの麦粥が嘘みたいだ。カレー様パネェっす。

麦を提供してくれた2人にも感謝だな。

昼食・・にしてはだいぶ遅くなってしまった食事が終える頃には、夜の帳が降り始めていた。

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▽お知らせ▽

◆高頻度で最終ページ《(仮)タイトル》は書き込み中。
加筆・修正により、内容が倍以上増える事があります。
たまに前ページの内容を見て加筆する事もあります。

◆後追い修正の進行状況:現在152ページ。H.30 5/5

◆作者が混乱してきたので、時間がある時にタイトルに日数を入れます。
あとがきに解説も入れていくつもりです。いや、無理かもしれん。
がんばるー(棒読み)

▽ぼやき▽
3月には書き終えるつもりだったのに、5月になってもまだ序盤ってどういう事だ?
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