襲撃の対処
空気を察したらしいスザクが俺の頭の上に戻ってきたので、マリッサに質問する。
「敵襲か?」
対するマリッサが呆れた顔をこちらに向けた。
やばい、あまりの不味さに、木でできた匙を味わっていた。
正直、匙の方が美味いんだから驚きだ。
いや、匙が美味いわけじゃないよ。料理が不味すぎるんだよ。
俺は、慌てて咥えていた匙と皿を焚き火の場所に戻した。
他のと混ざってわからなくならないよう、匙を伏せて目印にする。OK。
できるだけキリッとした表情を作る。さて、テイク2行ってみようか。
「敵襲か?」
「そういう問題じゃないのよ。」
はて。
「冒険者を狙った盗賊だ。冒険者稼業は、突然行方不明になっても調査が甘いからな。
冒険者を狙うって事は、向こうも手練かもしれない。」
ほほぅ?あんなに遠くにいるのに、よくそこまでわかるな。
商隊狙いじゃないのか?
・・・しかし、盗賊とは面倒だな。正直、人と戦いたくはない。
「戦闘になりそうか?」
今度はギルディートに呆れた顔をされた。
耳がピンと立っていて、その先がピクピクしている。
それだけ見てると、神経質な男の眉間みたいな印象を受ける。
こういう時、表情だけは変えないんだよな、こいつ。
それはともかく、やばい。このままだと、また何か説教をされる。
「昼飯時に不躾な奴らだな。よし、俺が蹴散らして来よう。」
要するに、ちょっと脅して退いてもらえばいいんだから、簡単だ。
相手がこちらに到着するまでが勝負だ。急ごう。
別に、逃げているわけじゃないぞ。緊急事態だからな。
俺は駆け出して銃キャラにCCする。
味方の視線がマントで遮られるこの向きなら、そんなに変化はわかるまい。
マントの色が変わったな~、くらいしか・・・。う~む。ちょっと大きめな問題かもしれない。
大剣は銃に変化し、自然に握り込んでいる。
遠距離職なので、さほど大きく移動する必要はない。味方が前方に居なければ、それでいいのだ。
「コケ?!」
装備が変わり、急に足場が変化したスザクが驚きの声を上げる。
すまん、お前を忘れてた。
「とりあえず、あの男からだ!殺っちまえ!」
戦闘の男が、後ろから続く男達に出した指示が聞こえる。
「おおー」と剣を振り翳したのを見れば、向こうがどういうつもりなのか分かるというものだ。
俺と馬集団の中間地点、地面に向けて銃を構える。
スキル:弾丸嵐
リボルバーのギミックが動き、一瞬で銃の形状が変化した。
この間、スキルを使ったときにも思ったが、俺の知っている銃と全然違うが格好いい。
シリンダーが発射口にせり出して、まるで違った印象になるのだ。
ああ、弾が無限の世界におけるシリンダーってのは、弾倉ではないのか。
だから、コイツも正確にはリボルバーではないんだろうけど。
俺が余計な事を考えている間に、銃口から、文字通り弾丸の嵐が吹き荒れた。
連射性能はもちろんだが、一度に発射される弾数も多く、それが複数に分裂して炸裂するのだから、堪ったもんじゃないだろう。
地面が吹き飛び、草に覆われていた土がめくれ上がる。
散弾?ってやつは弾の散る仕組みが何か違ったと思うから、この世界の“スキル”ならではの仕様なのだと思う。
「うわぁっ」「ぬわぁ~?!」「ぎゃぁぁっ!」
「ヒヒィン?!?」「~~ン、ブルルッ」
馬が驚き、前足を大きく上げた。全体にブレーキがかかる。
よし、とりあえずの牽制にはなったようだな。
リーフレッドにCCして、逆側の集団に向かう。
ちゃんと戻っておかないと、俺達の商隊を突っ切るからな。
顔が同じだから「誰だお前」って事にはならないんだろうけども、バレ要素を減らしておくに越した事は無い。
もう1つの集団は、だいぶ近くまで来ていたが、俺が牽制したのを見ていたのだろう。
先頭の男が身構えたのがわかった。
しかし、だからと言ってやる事は変わらない。
再び銃キャラにCCからの
スキル:弾丸嵐!
とりあえず、脅しておくのが一番だ。
遠くから見るのと、肌で感じるのとは全く違うからな。
「ひぃっ!」「うぉぉっ?!」「ぁわわ・・」
「ヒヒヒーーーーーーン!」「ブヒヒーーン!」
仰け反った馬がひっくり返る。
牽制はこれくらいでO・・・K・・・・・?
馬達が興奮して、乗っていた盗賊を振り落とし、暴れまくる。
様子を見ようと思ったが、まさに阿鼻叫喚であった。
落馬、昏倒、混乱。いや、俺のスキルに状態異常は付いてないよ?
地面に落ちてピクリとも動かない奴がいる。
地面を這って逃げ出そうとする奴も・・・あ、馬に蹴られた。
大パニックである。
事態が落ち着く頃には、わりと酷い地獄絵図になっていた。
俺は、とりあえずCCしてリーフレッドに戻る。
恐る恐る振り返ると、向こう側の集団も似たような状態だった。
そして、商隊の面々が口を半開きにしてこちらを見ている。
その中にはマリッサとギルディートも含まれる。
・・・・・。
ちょっとやり過ぎたかなぁ・・。
見た感じ、死者はいな・・ いなかった事にした。
重傷者もいな・・・かった事にした。
中にはちょっとグロい人もいたが、頭蓋骨の陥没が盛り上がっていく様子とか見れた。
う、うん。貴重な経験だったかな。そう思おう。
いい機会なので、検証がてら相当ケチって薬を使ったが、ある程度は回復するらしい。
スザクが、俺の頭の上で腰を落ち着けたらしい気配を感じながら、逆側にも行ってみる。
よし、死者・重傷者はいないな!(出てないとは言っていない。)
俺は安心して焚き火の方に戻るのだった。
さて、折角の好意の麦粥だが、どうしたもんか・・・・・。
正直、無理矢理腹に流し込んでも吐く自信がある。
冷凍庫で長いこと放ったらかしにしていたものを食ったことがあるだろうか?
あれなんてイージーモードだ。それぐらいには不味い。
量が少ないのが救いだが、これをどうやっておいしく食べればいいんだろうか。
「って普通に飯にしようとするなよ!」
怒られた。
いや、こっちの法律とか全然わからないし。
普通にギルディートのアイテムボックスからロープが出てきた。
思わず引いてしまったが、ダンジョン攻略用だった。
クランの荷物持ちなんだっけ。なるほど、岩場用の命綱ね。
盗賊たちが捕縛されていく。
そして、俺達が護衛していた商隊の男達も、大人しくお縄に付いた。
「え???どゆこと????」
なんと、商隊と盗賊はグルだったのだ! ・・・・・って。え、マジで?