荷馬車に乗って
翌朝。早々に行動開始だ。
俺は朝に目が覚めやすい性質だったが、スザクのおかげで確実に起きれるようになった。
時計らしきものを未だに見ないこの世界で、ありがたいもんである。
身支度を整え、飯を食うやいなや、マリッサは馬車の確保に行き、ギルディートは整備の終わった魔道具を取りに行った。
そして俺はというと、宿の飯と喫茶店の飯の調達をしていた。
いや、大事な事だよ?
特に、この世界じゃ何が起きるかわからないからね。
そう考えてから、帰還の札があれば、そうそう困る事はないと気付く。
ほら、ダンジョンとかに閉じ込められたりするかもしれないし!
まぁそうなれば、まずボス戦だから、暢気に飯なんぞ食ってる場合じゃないんだろうけど。
・・・。
飯のストックってあまり意味ないのか・・・?
いや、帰還の札の高騰とか考えると無意味ではないはずだ!
ギルディートも「飯は大事だよな!」っつってたし。
マリッサは「貴方達がそれでいいならいいのよ・・・。」っつってたけども。
そして、ノルターク側の門で集合する。
ギルディートは既に待っていた。まぁ魔道具を取りに行ってただけだしな。
マリッサは時間がかかっているのか・・・?
・・・・・・ん?
「ちょうど良かったのよ。さぁ、出るわよ。」
ちょいちょいと手招きするマリッサ。
その馬車は集団は一体なんですかね?
商隊のリーダーだという人物が握手を求めてきた。
「破格で護衛を引き受けてくれるそうで、ありがたい。今日はよろしく頼む。」
?????
「コケ。」
何故か俺じゃなくてスザクを見上げて挨拶しなかったか?今。
本体はこっちだよ。
で、どうしてこうなった?
マリッサが向かったのは、このディアレイとノルタークを結ぶ路線を往復する、バス兼タクシーみたいな乗り合い馬車屋だ。
この商隊、その乗り合い馬車屋で待ち伏せしていたらしい。
ギルドで護衛を頼むよりも、乗り合い馬車を使うような懐に余裕のある冒険者に頼んだほうが、色々と都合がいいらしい。
安く済む上に、討伐費用だなんだとごねる事も無く、護衛かと思ったら商隊を襲う盗賊に早変わり、なんて事もないそうで。
「いやー、なんていうか世知辛い世の中ですね。」
俺たちは、その商隊のリーダーと同じ馬車に乗っていた。
この馬車、軽トラックみたいに後ろが荷台になっていて、座席から外に出入りできたりする。
手すりがあるので安心だ。・・・安心だよな?ちょっとボロい。
その荷台で立っているせいか、思っていたよりも揺れは気にならない。
が、ガラガラという車輪の音で時々、会話が聞き取れないのが難点だ。
空は澄んでいて風が心地よく、とても長閑な気分だ。
ギルディートとマリッサの方で、どうして護衛をする事になったかについて何やら話している。
「盗賊に襲われたら襲われたで、いい勉強になるのよ。
リフレは、そういうことを知らな過ぎるわ。」
どうも、襲われるリスクのある護衛を格安で受けた事に、ギルディートは物申しているようだ。
丁度いいタイミングの馬車なので、乗り合い馬車に乗らなくてもすぐ出発できること、料金が掛からない上に、報酬までもらえること、そして、俺の社会勉強までも兼ねているらしい。
確かに、乗合馬車は半数以上が埋まるまで出発しないとか言ってたしな。
・・・・・。
「しかし、馬車の速度ってこんなもんなのか?」
マリッサに問う。
このまま、ただ乗ってればノルタークに着くとはいえ、あまりに長閑過ぎたのだ。
正直、普通に降りて歩いたほうが早い気さえする。
「商隊の馬車とか、乗り合いの馬車とか関係なく、だいたいこの速度なのよ。」
・・・・・マジか。
この速度の為に、金を払って乗るのか?
俺の知ってる馬車はもう少し早いんだが、もっと速度は出ないのか?
この間、森で伝令の男と走ったが、あれよりも遅いぞ。
こんな速度で走って、一体メリットはどこにあるんだろうか。
「ウマなら速度を上げられるんだろうけど、そうすると、この揺れだろ?
すぐに馬車が駄目になっちまうんだ。
それでも、レベルを上げていない人からすれば充分早いんだぜ。」
なるほど。
確かに、馬車と言っても、上から下まで全部木製で、ゴム製のタイヤなんか着けてないから、この揺れがダイレクトに馬車のダメージとして蓄積されるのだろう。
それに、道も土の道で、時々石が転がってたり、退かすのを諦めたらしい岩が露出していたりする。
手抜き工事かよ!
ところでギルディートさんや。
俺の言いたいことが何故わかったのかね?
最近、マリッサさんに似てきてやしませんかね?
いや、俺は外を眺めてるわけだから、表情なんて読めない筈なんだけど。
勘か?勘で俺の言いたい事がわかるのか?恐るべし、だな。
のろのろ、ガタガタと商隊は進んでいく。
もうすぐお昼だというのに、ノルタークまで半分も進んでないんじゃないか?
ふと、馬車を持ち上げてノルタークに向かう俺たちを想像し、頬を緩ませる。
正直、このまま乗っているより絶対に早いが、恐ろしくシュールである。
それに、俺はともかく、他の2人には真似できないだろうし、馬車は他に3台ある。
俺ができるからと言ってやるつもりはない。それだけの常識はあるつもりだ。
うん?
視線を感じて横を見ると、マリッサがこちらを覗き込むように見ていた。
「絶対に今、ろくでもない事を考えていたのよ。」
やめてください、お願いします。
日も真上から少し傾き始めた頃。
俺たちは中間地点へと到着し、休憩の準備を始めた。
スザクは頭の上から飛び降りて、その辺の草を啄ばんでいる。
こいつ、トイレは藪で隠れてするんだよ。
鳥って確か、トイレのしつけができないんじゃなかったっけか?
前世は人間だったりしないか?
全員で焚き火を囲む。
どうやら、昼飯は支給してくれるらしい。
結構な人数だからか、量も少ないし、あまり上等な食事では無い。
旅なんてこんなもんか?
と、思いつつ、せっかくなので頂くとする。・・・ん。不味い。
味も素っ気もない麦粥は、何となく臭い気がするし、宿でこんなのが出た日にゃ、即刻別の宿を探すレベルだ。
そういえば、刑務所に入る「臭い飯を食う」なんて表現したりもするっけ。
・・・監獄レベルかよ。
そう思った時、マリッサとギルディートが臨戦態勢に入っているのに気が付いた。
「・・・・・ん?」
暢気に飯なんか食ってるのは、俺 (とスザク)だけだった。
遠くの岩場から、林の影から、馬に乗った集団がこっちに向かって来ている。
敵襲、か?