買い物マラソン
俺たちは、スザクの連れ歩き“許可証”を手に入れ、目印をスザクの首にかけていた。
目印というのが、犬や猫用の首輪である。
当然、スザクは迷惑そうにしていたが、大人しくしているので助かっている。
普通は、こんなの付けられたら、暴れたり抜け出したりしそうなものだが。
鳥用の足環もあるのだが、ずっと在庫を切らしているらしい。
いや、補充しておけよ。
首輪に付いている赤い石だけあればいいらしいので、後で改造してやろうと思うよ。
で、飯も食える例の喫茶店で、カレーの予約をしておいた。
もっちりしたパン(ナン?)とご飯を安く付けてくれるというので、そちらもお願いした。
まぁ「安く」付けてくれるってあたり、さすがに商売なんだが、ホイホイと買う俺に呆れた眼差しを送ってくる2人に気圧されそうになった。
でも負けない!アウトドアにカレーは必須でしょう?!
ちなみに、首輪のおかげでスザクはあっさり入店を許可された。
桶に入れて外に置いておくつもりだったので助かった。“ペットお断り!”ってわけじゃないみたいだ。
鍋と石鹸を買い足しに行ったら、雑貨屋に顔を覚えられていた。
一度しか訪れた事の無い客の顔を覚えているなんて、ものすごい上昇志向の持ち主なのではないだろうか。
水のタンクも2つ仕入れたというので、買い占めた。
歯ブラシ、剃刀も少しだけ買っておいた。わりと消耗品だ。
食器を勧められたが、前回買った量が結構多かったので、今のところ大丈夫だ・・・・った筈なのだが、店員の勢いに押されて、気が付いたら買っていた。
これが軽いから普通の食器の倍は持てるだの、これが丈夫だから1つあれば買いなおす必要がないだの、このデザインでこの価格はなかなか無いので今後値上がり必須だの、よくもまぁこんなにも売り文句が出てくるもんだ。
いや、買ってしまった俺も俺か。
服屋に入り、少し買い足す。タオルもだ。
やはり良い感じのジャケットは無かった。
寒さに強くなっているから、平気か・・・?いや、あるに越したことはないな。
武器屋も覗いたが、こっちにも良い防寒具は無かった。
マリッサが店主にせがんでナイフを見せてもらっていた。
目当てのナイフとは違ったようだ。
ギルディートが横目でこちらを見ている。・・・何か揉めているのか?
「こんなナイフなのよ。知らないかしら。」
「・・・確かに、うちで扱っているナイフと同じもののようだが、+4にまで鍛え上げたものは扱ってない。
あと、うち以外で刀剣の扱いをしている所はもう一軒あるが、そこでも同じだと思うぞ。
この町で買ったんてんなら、ドゥクツェ工房の試作品がどこかから出回ったか、直接、交渉して作らせたか。そのどちらかじゃないか?」
あ。やべ。
そういえば、ここで買ったって話したもんな。
直接確認されたらまずい。
「ドゥクツェ工房。ギル、どこにあるか知っているかしら。」
ギルディートに振り返ったマリッサが、ギルディートの視線を追ってこちらを見た。
おい、お前!その態度をなんとかしろ!今すぐにだ。
「・・・・・・。」
そっ、と目を逸らす。
「リフレ、このナイフ、ディアレイで買ったのよね?
どこで買ったか覚えているかしら?」
「・・・・・記憶に、ございません。」
マリッサさん目を細めないでください。怖いです。
・・・どうしよう?
鍛冶スキルは俺の秘密・・CCと直結しているのだ。
こればっかりは誤魔化すしかない。
別に、俺が+4にしたとか、そういうことがバレたら困るわけじゃない。
鍛冶キャラが女性なので、じゃぁ証明して見ろとか言われた時に困るのだ。
だったら、ややこしい話になる前に、口を噤んでおいた方がいい。
「・・・そう。わかったわ。」
絶対にわかってない!
・・にも拘らず、その後、問い詰められるようなことは無かった。
この間から、一体何なんだ?
冒険者の間では「仲間の秘密に無闇に触れない」という暗黙の了解があると聞いたが、あからさま過ぎないか?
触れずにいるうちに都合よく忘れてくれたりしたら楽でいいのだが、それが期待できるほど、2人の頭の出来は悪くない。
もしや、秘密の重みに耐えかねて、俺から話すのを待っているとか・・?
いや、それはないな。
ボロを出すのを待っている。それが正解だ。
堪え性の無さそうなギルディートはそわそわとしているから、本当は色々問い詰めたいんだろう。
背中に汗を滲ませながら、宿に向かう提案をすると、先に魔道具屋に寄ってから、との事だった。
魔道具屋では、風の魔道具の整備をしてもらうのだそうだ。常連なので割引価格でできるとか。
「あ、この間のお兄さんじゃないのかい?
いいもの仕入れたんだよ!見て行っておくれ。」
店主が、何となく仕入れてしまったものの、買ってもらえる見込みが無くて困っていたというペンを差し出した。
「?!」
ペンだ!羽ペンとか、そういうペンじゃない。
もしやと思い、フタを取る。やはり・・・。
「ボールペンだ。」
ちょっとペン先は太いようだが、ボールペンで間違いない。
この世界にもあったのか。
書き味はどうだろう?
とりあえず、購入層がない事には衰退してしまうかもしれない。
店主も、もう二度と仕入れなくなってしまうだろう。
書き味はともかく、売れていないとすれば買うしかない。
「知っていたのかい。そりゃ良かった。ホント売れなくて困っていたんだよ。よかったら・・。」
「全部くれ。で、メモ用紙なんだが・・・。」
無かった。そりゃ売れねーわ!!!
紙とペンはセットだろ。何故ペンだけ仕入れたし。
話を聞くと、異郷から来たという魔術師が開発したアイテムで、他にも色々と珍しいものを開発しているのだという。
異郷・・?まさか、プレイヤーか・・?
紙も低コストのものが開発され、販売もされているらしいのだが、ディアレイまで回って来ないんだとか。
「田舎だからねぇ。」
とりあえず、紙が無ければペンが売れるわけがない。
くれぐれも仕入れはよく考えて行うように、としっかり釘を刺した。
魔道具の整備は明日の朝には済ませておくとの事だったので、俺たちは宿に向かうことにしたのだった。