ディアレイでの買い物は
さて、俺達の臭いがどうにかなったところで、スザクが擦り寄って来た。
本当に、コイツは調子のいい・・・。
ギルディートの腹も治ったし、ここからはペースが上がるだろう。
空気が読めたのか、いそいそと頭の上に乗る。そこ、お前の定位置なのか?
ちょっと動きにくいんだが。
せめて肩に・・・あ、こっちの方が動き難いわ。視界の邪魔だしな。
結局、頭に乗せる事になったが、どうにかならないもんかなぁ。
いいペースで進み、空の色が変わる前に、ディアレイの町が見えてきた。
森と調和する街、ディアレイ。
その門が近付く。
枯れた大樹をそのままオブジェにしたそれには“ディアレイ”と書かれており、不気味さは無く、むしろ温かい感じのする仕上がりだ。
周辺に植えられた木や花を際立たせ、優しく旅人を迎え入れてくれる。
この国では個性の少ない町ではあるが、ここの武器屋に品物を卸す鍛冶屋の腕が良く、ショップがたくさんあり、コランダよりも賑わって見える。
暗黒洞窟というダンジョンの最寄の町である為、中堅クランのたまり場になっている場所でもあった。
そして、俺は、どうしても行きたい場所があった。
「どうしても行きたい場所・・・?」
マリッサ・・いや、2人が興味を持ったようだ。
俺は、前に訪れた時からずっとこの日を待っていたのだ。
「ああ、そこで手に入れたいモノがあるんだ。」
そこの尖がり耳、そっぽを向いて耳だけこっちに向けるのやめろ。
バレバレだから。むしろ恥ずかしくなるからやめろ。
「もしかしたら、交渉に時間がかかるかも知れないから、待ち合わせ場所を決めて、適当に見て回ってくれればいいぞ。宿にでもするか?」
このディアレイには宿が3軒ある。
どの宿に泊まるか、決めてから行った方がいいかもしれない、と思ったが。
ギルディートが声を上げた。
「宿なら、うちのクランが贔屓にしてる宿があるんだ。そこに泊まろう。」
だいたいいつ行っても部屋は空いているとの事だったので、そこに泊まることにした。
で、何故か2人とも付いて来る。
ディアレイで見たいものとか、無いのか?
俺は良かった石鹸を買い足したいし、ふかふかのタオルも増やしておきたい。
これからノルタークに行くわけだし、帰りにもディアレイに寄れるのだから、ここで買う必要性を感じないと言われたが、俺は後で「あ、買い忘れた」ってなるくらいなら先に買っておきたい派だ。
少し品質が悪かろうと、高かろうと、必要な時に無いよりは、あった方がいい。
それに、物ってのは長期的に見たらみんな消耗品だしな。
気に入ったものがあったら、もう1つ買ったっていいのだ。
カラン、コロン。
来客を告げるベルが音を立て、昼過ぎにも拘わらず、店内に漂う魅惑的な香り。
俺は店を切り盛りしている女性の元に真っ直ぐ向かって行き、
「すみません。カレーなんですけど、手持ちの鍋で作ってもらってテイクアウトってできませんか?」
と聞いた。
返ってきたのは、予想と違う返事だった。
「ごめんなさいね、お客さん。注文の前に、テイムされた生物・ペットの店内への連れ込みはできないの。預かり所を使ってもらえるかしら。」
預かり所・・・だと?
あの預かり所か?いや、俺の知っている預かり所に“ペット預かりシステム”なんてモノは無かった。
別物か。
「わかりました、すみません。
とりあえず、可能か不可能かだけでも教えてもらえませんか?」
「もちろん、できるわよ。
ただし、鍋は自分で用意すること、『それなり』の料金を貰う事が条件ね。
容器に臭いや、たまに色が付くこともあるから、文句を言われても困るわ。
ある程度なら、臨機応変にやってるから、他に気になるものがあったら注文してもらって構わないわ。」
そりゃありがたい。
俺が小躍りしながら(比喩的表現です)店を出ると、2人が呆れたような眼差しを送ってきている事に気が付いた。
「どうした?」
「どうした、じゃないわよ。」
じゃないわよ、と言われても、どうした?としか聞きようがない。
俺の代わりにスザクが首を傾げたのだろう。重心が微妙に傾く。
「“どうしても行きたい場所”だの、“手に入れたいモノ”だの、勿体ぶりやがって。
何かと思ったら、食いモンかよ!」
勿体ぶったつもりは無かったんだが・・。
うーん・・言われてみれば、説明は不足していたかもしれん。
だが、俺の頭の中はカレー一色だったんだ・・・。
早く手に入れないとな。
預かり所の場所は門の近くとの事だったので、戻ってみる。
確かに動物を預かってくれる施設のようだが・・・。
「預かりか?発行か?」
やる気の無さそうなオッサンが話しかけてきた。
発行って何だ?
聞くと、攻撃できるペットは武器と近い認識らしく、連れ歩けば捕まるんだそうだ。
銃刀法違反みたいな扱いっぽい。危ねぇ。
更によく聞くと、馬、犬系なんかの人と同格以上の力を持つ生物を連れ歩くことはできないんだそうで。
しかし、スザクはというと・・・。
「・・・ただのコッコ鳥だな。コイツの連れ込みか。」
愛玩用などの戦闘外、しつけ済みで、飼い主以外の言うことも聞ける等、特別に許可の出たペットには“許可証”が発行されるのだそうだ。
“許可証”の発行には登録が必要だ。
発行さえしてもらえば店に連れ込む事もでき、他の町でも通用する上に、時間も大してかからないようなので、お願いした。
スザクは、オッサンの「動くな」「待て」「座れ」という命令をこなし、謎の玉に嘴攻撃を叩き込んで登録を終えた。
ってか、「動くな」も「待て」も「座れ」も、その場で座ってりゃいいだけじゃん!
いいのか、オッサン!それでいいのか?!
俺 (とスザク)はむしろ楽でいいんだが・・・。