MPKのかほり
気が付くと、草原に横たわっていた。
聞いてみると、俺が倒れた後、ガスカンクは巣に戻って行ったそうな。
何故か俺にタゲが移っていたらしいが、巣から離れたことと、俺もマリッサも攻撃はしていなかったので、攻撃判定から外れたのだろう。
マリッサは、俺があまりの臭さに悶えている間、少し離れた藪の影に息を潜めて隠れていたそうだ。
え、何そのMPK。
説明しよう! M P K とは、モンスターを使用したPKの事だ。
自分を追いかけて来たモンスターを、他人に擦り付けて危機を脱する代わりに、擦り付けられた側が危機に陥る。最悪、死亡するわけだ。
まぁ、今回のKはKILL(殺す)では無く、KIZETSU(気を失わせる)だったけれども。
ただし、死ぬほど臭かった。ってか、今も臭い。
どれくらい臭いって、スザクが近寄ってこない程度には臭い。
「ってかお前らな!ちょっと酷くないか?」
気が付いたら居ないわ、モンスターを擦り付けるわ、どうなってるんだ。
PTメンバーとして、さすがにどうかと思う!
「リフレも充分、酷いのよ。」
はい。先に見捨てようとしたのは俺の方ですけれども。
運んでくれた2人には感謝しているが、同じ香りを漂わせているマリッサはともかく、ギルディート、お前、もうちょっとこっち来いや。
それにしても、どれほどの時間、気絶していたんだろう。
まだ吐き気がするというか、意識がはっきりするほどに気分が悪くなってくる。
「なぁ・・この匂いってどうにかならないのか?」
俺の気分の問題もあるが、このまま町に入るわけにもいくまい。
異臭。悪臭。激臭。とにかく「臭い」としか言いいようの無いこの臭気よ。
鼻が真っ直ぐなのを確認する。まだ曲がってないのが不思議なくらいだ。
「・・ガスカンクの匂いの付いた装備は、捨てる奴がほとんどだ。
稀に、金が無くてそのままの奴がいるけど、そういう奴はPTに誘ってもらえないからな。」
と、ギルディート。なぜ遠い目をしているんだ?
それにしても、なんという酷い話だ。
酷い・・・・・って、え?装備、捨てるの??これを???
それは困る!
ゲームでも100レベル以降の装備はドロップや報酬、プレイヤーの製作がメインで手に入れるのが主流だ。
150レベルくらいまでは店売りで売ってない事も無いが、それでも特殊なクエストが必要だったりする。
それ以降のレベルも報酬として手に入るクエストは存在するが、プレイヤーの作成した装備ほどの補正は付かない。
つまりだ。
「超絶困る。」
語彙の少なさについては勘弁して欲しい。
あと、そこの第一被害者。目を逸らすぐらいなら、俺に擦り付けないで欲しかった。
・・・・・。
うん。普通に困っている。
体に匂いが付いたらどうするか?
まずは拭き取る。それはもうやった。それでこの臭いだ。
その手段が使えない時はどうしている?
デオドラントスプレーみたいなものは、ゲームで必要としないし、存在するのかもわからない。
消臭剤的なものって無いのかな?
剤?・・・薬?
てれれれん♪
「万能薬ぅ~~~。」
ほわんほわんほわわ~~~ん・・
問題はある。これ、いけるのか?
「臭い」って状態異常か?PTメンバーのマリッサのステータスに集中する。
HP残%は満タン、そして、状態異常は・・・・無し、か。
効果は無いかもしれない、だが、これは大事な検証だ。
「・・・・・・。」
サラサラサラ。自分に塗し掛ける。
その際、呼吸で細かいパウダーが鼻から吸い込まれた。
無風状態でやらないとどこかへ飛んで行きそうな気がするほど軽くて細かい粉だが、特に問題も起こらずに全身に行き渡った。
「・・・。俺の鼻がおかしくなってないなら、多分、もう臭いはしないはずだが。」
肩のあたりを嗅いでみたが、消臭に成功したと思う。
ただ、あくまで俺の感覚なので、他人からしたらまだ臭うかもしれない。
ギルディートに確認を取ってみる。
「おい、何故逃げる。」
「だって・・。」
わかる。さっきまで異臭を放っていた人間が近付いてくるんだもの。
そりゃ怖いし、近寄りたくないよね。
「臭いは取れたって。試しにちょっと匂うかどうか見て欲しいだけだから。」
「いや・・それは・・・。」
わかるはわかるんだけど、逃げ回られては確かめる事ができない。
距離は縮まらないし、こうしていても時間の無駄だな。
スキル:疾風
「?!」
ギルディートにヘッドロックをかける。
何をしたかって?ただのスキルですが何か?
どのキャラでも覚えられるやつだ。ある程度AGIが無いとスキルの恩恵は受けられないが。
「~~~~ッ。・・~~~~~ッッ!」
そんなSTRで俺のヘッドロックが解けると思っているのか?甘いな。
無呼吸でいつまでも捕まっている訳にいかず、無理矢理にでも脱しようとしているギルディートの頭を締め上げる。
大丈夫、ちゃんと手加減しているよ。
「~~~んぐおおお!!ギブ!ギブアップ!わかった!降参するから!!
・・・・・・・・あれ?臭くない・・・。」
OK。臭いはどうにかなったようだ。
ギルディートが恨めしそうな顔で首を解したり、摩ったりしているが、俺だって逃げたりしなければ穏便に済ませたさ。
問題は解決したので、マリッサの所に戻ると、やはりキツイ臭いが立ち込めていた。
匂いのきつい女の子とか、人によってはグッと来るかもしれないが、俺にはそういった趣味がないので、サラサラッと万能薬をかけてやる。
うん、臭いがどんどん消えていくな。
「おい、それってもしかして・・・。」
ギルディートが訝しげに瓶を見つめる。
「丁寧に断りたい気持ちもあるけど、このまま町に入るわけにはいかないのよ・・。
リフレだからという理由で見なかったことにするわ・・。」
臭いごときで万能薬ってのは、やっぱ勿体無いのか。
でも、あの臭いは異常だしなぁ。
ギルディートがデオドラントパウダー(仮)の正体に勘付く前にと使い切り、俺達は改めてディアレイへと向かうのであった。