2日目:アイテムボックスは持ち物
さて、問題ができた。
今までアイテムボックスに放り込みまくっていた死骸。ドロップアイテム?素材?
ともかく、今まで適当に放り込んでいたわけだが、フォレベアをどうするべきだろうか。
とりあえず入れておけとばかりに蜂の死骸が入れてあるが、蜂の死骸なんかよりもよっぽど価値がありそうだ。
いや、どう考えてもあるだろう。そうに決まっている。
普通に放り込めばいいんだけど、問題は、マリッサの目があることだ。
というか、アイテムボックスの扱いををどうするべきだろうか。
前に読んだ異世界系の物語では、レアな魔法やスキルという扱いで、アイテムボックスが使えることを隠したりするわけだが。
やはり隠していく方針か?こんな便利過ぎるものをいつまでもコソコソ使っていく自信が無いんだが。
いっそここで打ち明けるか?どうしたらいいんだ??
と、思っていたら、マリッサがアイテムを次々と出し始めた。
回復薬(小)×18…これはポットより安いが重量が倍あるやつだ。
マナ草(劣)×26…これはポットと同じ重量だがほとんど回復しないやつだ。しかも(劣)ってはじめて見た。
栄養ドリンク×2…見た事のないアイテムだ。
グミーのかけら…5個くらい?グミーを倒すと手には入るドロップアイテムだ。
ポイズングミーのかけら…3個・・かな?ポイズングミーを倒すと(以下略)
どう見てもマリッサのショルダーバックに入る量じゃない。
「…私の捨てられそうなアイテムはこれぐらいしかないけど、重量の空きはできたから少しは持てるわよ!」
断腸の思い、と言った感じでアイテムの破棄を宣言するマリッサ。
体積のおかしな荷物に、重量の空き。
・・・うん?
これってつまりは・・・
「アイテムボックス持ってるの?」
ってことだよね?
普通なら「軽くなったから」とか「空きができたから」と言うはずで、「重量の空きができたから」と言うのはおかしい。
と、いうことは、重量制限のあるアイテムボックスを持っている、という事では無いだろうか。
そうとしか考えられない。
で、その答えは・・・
「アイテムボックス?・・私の持ち物の中にはないわ。」
そうだった。
アイテムボックスは俺が勝手に呼称しているだけで、正式名称じゃなかった。
[アイテム]ボタンを押すと出てくるやつ?
アイテムウインドウ?これも正式名称じゃなさそうなんだよなぁ。
むしろ、なんて呼ばれてるんだ?何て説明したらいいんだよ?
「って“持ち物”?・・・持ち物って30レベルまでは30種類の荷物を持てて、そこからはレベルが上がるごとに持てる数が増えていく、そういう持ち物?」
ちなみにこれ、アイテムボックスの仕様である。
種類はレベルと同じだけ持てる。俺のこのキャラの場合は252種類。
持てるアイテムの種類や重さは、30レベルまでは補正が付いたけど、レベルとSTR依存だったと思う。
それでもメインキャラでは預かり所の容量を合わせても持ち切れないアイテムが出てくるので、倉庫キャラは必須なのだが。
「・・・そういう仕組みなのかどうかは分からないけれど、多分、そう・・じゃないかしら。」
マリッサさん18レベルでした(テヘペロ)。
そりゃ分からないよね。
そうか、アイテムボックスあるのか。
「ちょっと聞きたいことがあるのだけど?」
「奇遇だな。俺もだ。」
マリッサは俺に観察するような視線を送ってくる。
俺も同じような顔をしてるのかもしれない。
何しろ同じ冒険者。アイテムボックス持ち。そこから推測して得られる結論。
「何でも聞いたらいいのよ。私の質問には・・・答えたくなかったら答えなくてもいいのだけれど。」
そこで言葉を切ると気になるじゃないか。
何を聞かれるんだ?ちょっと緊張してしまう。
俺、このゲームの事情にあんまし詳しくないよ?
「あなたのレベルはいくつなのかしら?」
あー、そこか。そこが気になるのはわかるけど、そんなに溜めいらなかったよね。
初心者じゃ装備品でレベルを区別する事もできないだろうけど、普通に聞いたらいいんよ。
「252だよ。マリッサはプレイヤーなの?」
・・・・・。
あ、黙った。さらっと聞いちゃまずかったかな?
隠した方がいい系?でも情報求む!Plz!
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
うん?
「・・・ごめんなさい。252っていうのは冗談・・ではなさそうね。
あと、その、プレイヤ?っていうのは、私にはわからないわ。」
まさかの反応だった。
プレイヤーというのを半ば確信していただけに、動揺を隠せない。
プレイヤーなら、“プレイヤー”が分からない筈はないもんな。
「あ、すまん。えっと出身はどこかな?」
ゲームを始めたばかりで、用語をよく知らないうちにこの世界に迷い込んだのかもしれない。
そういう淡い期待のようなものを込めて、聞いてみた。
日本、とか、青森、とか言ってくれたらそれだけで安心できる。
「私の出身はコランダよ。一族はアズルビア出身だけれど、私はエルフォルレの生まれなの。あなたは?」
コランダは俺が迷い込んだ、あの町だ。
アズルビアってのはドワーフや人間の多い大陸で、エルフォルレはエルフや魔族が多いと言われている。
この世界の地理についてはとりあえず置いておこう。
出身がこの世界ということは、プレイヤーではない、ということだ。
……。
切り替えよう。
仲間を見つけたと思ったが、まぁ、なんだ。
同伴者が見つかったのだから良しとしよう。
「そのキャラはソロ向きだからPTはちょっと・・」とか言われたら泣くよ、俺。
で、アイテムボックス。
これは誰でも持っているものなのか?
「持ち物」とか言ってたけど、“当たり前”そうな雰囲気だった。
「どうかしたのかしら?」
怪訝な顔をしているマリッサ。
「うん?何が?」
何の話だっけか?そうそう、アイテムボックス。
普通に使われてるなら問題ない。
「とりあえず、今、広げたものは仕舞っておくといいよ。俺が持てるから。」
俺はフォレベアの・・・ドロップアイテムではなく、まるごと死骸というか死体?をアイテムボックスに放り込んだ。
ついでに、蜂の巣のかけらを紐でまとめた物体もぶち込む。
うん、これで楽に移動できるぞ。
そう思ったら、マリッサが目を丸くしてこちらを見ていた。
「え?入っちゃうの?」
入っちゃいますが何か?
レベル252を舐めないで欲しい。
さっきまで隠そうとしてたから変に思われるかもしれないけど、重量も種類もまだまだ余裕があったりする。
案の定、持ち物に空きがあるのに、何故さっきまで入れなかったのかと聞かれた。
虫は嫌というほど見たからもういらないし、蜂の巣は「クマでも釣るのかと思って」と冗談めかして言ったが、冗談と取ってくれなかったようだ。
まぁ、実際、釣れてしまったしな。
「このお金持ちめぇえ!!」
マリッサはマナ草(劣)を勢い良く地面に叩きつけ、……しばらくするとそっと回収していた。
微笑ましく見守っていたら、追加の蜂の巣と、さっき倒したフォレビーの死骸を収納する羽目になった。
虫は動かなくなってもやっぱり気持ちが悪かったし、正直、これ以上いらないんだけど・・。
それに蜂の巣はもう充分じゃない・・・・・。もう勘弁してください。
ほら、また巣を作ってもらったら採取できるじゃない?生態系とかの問題もあるし。環境保全だよ!
-解説- 超説明会です!読み飛ばしOK!
マナ草って?:序盤の激安回復アイテム。ただし、回復量はスズメの涙。素材としての価値がある。
栄養ドリンクって?:スタミナを回復する飲み物。自家製。
アズルビアって?:3大大陸の1つ。ヒューマン族が多く、ドワーフ族も暮らしている。さまざまな道具を使った文化が根付いている。
エルフォルレって?:3大大陸の1つで、現在地がこちら。エルフ族が多く、多様な移民が暮らしている。自然を大切にする文化が根付いている。
「え?入っちゃうの?」:容量に驚いたのではなく、空きがあるのに担いで行く気だった事に対する驚き。手は塞がるし、蜂蜜は零れるし、しまいには熊が釣れて何も良い事が無い。