現実の重み
様子を見られている。
奴らは、俺がボロを出すのを待っている。
それをヒシヒシと感じる。
俺がポロッと情報を漏らすのを、踏み込んでくるきっかけを探している。
こうなったら、絶対に触れまいと誓う。
「で、何故3等分なんだ?」
ここは宿。そしてギルディートの部屋である。
俺、ギルディート、マリッサの3人で、分配について話し合いをしていたところだ。
ちなみに、女将さんにも来てもらっている。
男2人の部屋で、女性1人とか、色々問題がありそうだからな。
2人は落ち着かなそうにしていたが、大した問題じゃないだろう。
金塊は全部でなんと36本。丁度3ダースあった。
俺は、何故かワープポイントの権利を獲得した上で、12本の金塊を受け取ることになった。
「お前が納得しなかったからだろ。」
「私たちは、むしろ、こんな大金困るくらいなのよ。」
この金塊を前にして、何故か押し付けあう事になった俺達だが、一番納得のいく分け方が3等分だった。
攻略したのはお前らだろう、という俺に対して、俺がいなかったら攻略出来なかったと言うのが彼らの言い分だ。
あと、ワープポイントみたいな石の板に価値を感じないし、価値があったとしても持ち帰れないので、欲しいなら持って行けばいいと言うので、これは確保させてもらった。
「困るっつってもなぁ・・・。」
この金塊、1本が70万~100万Dだそうで、これが12本あれば840万~1,200万D、宝箱全体だと2,520万~3,600万Dという金額になる。
確かにすごい金額・・・だとは思うが、250レベルを超えてくると、装備1つ買えるかどうかという金額だったりする。全部合わせて、だ。
だから、取っておいたらそのうち使う金額だと思うのだ。
預かり所や倉庫キャラが無い彼らが、「困る」という気持ちもわからないではないのだが。
「だいたい、そっちにはもう1人・・・うっ。」
ギルディートが何か言おうとしてマリッサに肘鉄を食らう。
脇腹にヒットしていたが、結構痛そうだ。
俺が言い出すまで粘ろうってんだな。だが、俺はその件に絶対に触れないぞ。
「じゃ、それぞれ持ち帰るとしようか。」
と、いう事で、マリッサと女将さんがマリッサの分を運んでいく。
ギルディートも自分の分を・・・。
「・・・・・。」
「どうした。」
残り2本、というところで、1本を手に取り、固まっている。
「重量限界だ・・。」
マジかよ。
もしかしてコイツ、俺が思ってる以上にSTRが低いんじゃなかろうか?
「まぁ、堂々と持ち帰ったらいいんじゃないか?」
適当に言ってみたら、ギルディートに目を剝いて怒られた。
「んな事したら、見ず知らずの連中が四六時中襲ってくるようになるじゃねぇか!
これいくらすると思ってんだよ!」
なんか最近怒ってばっかだな。こいつ。
1本70万~100万だろ?知ってる知ってる。
「これだけあれば豪邸が建つし、その上しばらくは遊んで暮らせる金額なんだ。
本当にやばいんだぞ?わかってねぇだろ?」
・・・・・。
豪邸・・だと・・・・・?
俺が固まってるのを見て、ギルディートが深い溜息を吐く。
「まさかと思うが、金の価値をわかってねぇとか言わないよな?」
いや、わかってる。少なくともわかっているつもりだった。
めちゃくちゃ高いことも知ってたし、金さえあれば高額アイテムを買えることも知っていた。
ただ、俺はまだゲーム内通貨として考えていたのだ。
そして、そんな自分に驚いてしまった。
ゲームのアイテムや仕組みに“家”なんて無かった。
クランハウスはあったが、“家を建てる”のとはまた違ったのだ。
そう、もう何度も、何度も確認しているが、これはゲームじゃない。
だから、通貨で何でも買える。
何気なく使っていた通貨は、金なのだ。キャッシュ、現金なのだ。
俺は、生々しい現実の感触に、ゾクリと身を震わせた。
・・・・・。
なんでこんなモンが一階層の報酬で転がってんだよ?!
胡散臭いにも程があるだろう?!?
目の色変えて最下層まで来いって?
俺の知ってるレベル30~50の“風の遺跡ダンジョン”とは違う。
あのダンジョンは、すでに発掘が終わり、調査が終わり、一般開放された、所謂「攻略済み」ダンジョンだったのだ。
未発掘だったこの遺跡には、何かあった・・・。いや、“ある”のだろう。
ゲームとこの世界が、どれだけ同じで、どれほど違うのかは分からないが、槌キャラと、彼女が住む町をを襲った悲劇の一端がここにある。
俺は、それに立ち向かうべきなのか、堅く閉じて封じるべきなのか、それとも他に何か手があるのか・・。
黒い予感に胸をざわめかせ、悩むのであった。
「とりあえず、置いとくのも無用心だし、持っててくれ。
お前なら多少の荷物があっても困らないだろ?」
ギルディート・・・・。
俺はお前の倉庫キャラか!
いや、持つけどさ。
お前、空気読めって言われたことない?
え、何故そんな事を言われるのかわからないし、俺に言われるのは心外?
そんな馬鹿な。