遺跡探索 一階層の報酬
残りのゴーレムズだが、思った通りというか、ストーンゴーレムを倒した後に復活する事は無かった。
2人は何故か恨みがましい目をこちらに向けてきているが、ストーンゴーレムを倒したんだから余裕だったろうと思う。
“試練を乗り越えし者よ。来たれ。我に到達せよ。”
祭壇とその向こうの壁が中央まで動いて来た。
すわ押し潰されるか?!と身構えた瞬間、向こう側に向けてゆっくり倒れ、その形が変貌していく。
祭壇と壁が床に吸い込まれるように消え、レリーフの刻まれた丸くて大きな石材と、その中央に宝箱が残された。
そして、壁の向こうには、先へと進む扉が現れていた。
・・・。
すげぇ。何これ。めっちゃびびった。映画みたいじゃね?
マリッサは、身構えたままだ。
ギルディートもしばらく様子を窺っていたが、慎重に宝箱の周りを調べている。
「開けないでござるか?」
2人は何か言いた気な眼差しを送ってくるが、何も言わない。
俺は、宝箱が載っている平たくて丸い石材に近付いた。
「何が仕掛けられてるかわからないぞ、下手に近寄ると・・・」
うーん、その辺に宝箱が転がってたら、さすがに俺だって警戒するけど、これはどう考えても“ボス討伐報酬”だろ。
まぁ、何かあったら嫌なので、もちろん警戒はするんだが・・。
「先ほど聞こえた声を信じるならば、この先に進む“やる気”を出させる為の、いわば報酬みたいなものでござろう。
試練を超えたので、先に進む資格を得たと。おそらく、帰りの扉も開くことが出来る思うでござるよ。」
マリッサが調べると、俺たちを閉じ込めていた扉はあっさり開いた。
空気が弛緩したのがわかる。“閉じ込め”がどれだけのストレスになっていた事か。
色々なゲームをプレイし、そんな“お約束”を知ってる俺だって、緊張したのだ。
一度は死を覚悟した彼らが、どれだけの負担を抱えていたのか言うに及ばな・・・
カサカサ・・・
「?!」
俺は、自然に視界に入り込んできた、その黒い影に凍りつく。
この遺跡の、どこにでもいる、長い触角のあいつだ。
「フカーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
俺の喉から搾り出されたのは、悲鳴ではなく、謎の威嚇音だった。
全身の毛が逆立つのを感じる。耳の先から、尻尾の先まで、全部だ。
空中に小さな結界を張り、飛び乗る。
ブーーーーン
「フシャァァァーーーーーーーーーーッ?!?!」
ただの叫び声なのだが、喉の中で声にならずに音になって出てくる。
なんぞこれ、と気にしている場合では無い。
どうやら、タゲられていたらしい。
こちらに向けて飛んで来やがった。
これ以上距離を詰められて堪るか!
俺がクナイを放つと、なんと避けた?!
いや、AGIもDEXも自信がある。しかも格下の相手だ。
たまたま軌道を変えただけだったのだろう。
そうとわかっていても、俺には余裕が無い。
「ニシャァァアアア!!!」
ストーンゴーレムに放った連続クナイを、何も考えずに叩き込む。
点の攻撃も、集まれば面と同じだ。逃げ場なんぞやらん。
あっという間に壁に吹き飛ばされ、縫い付けられ、ボロボロになって塵のようになっていったクロゴッキーだが、こいつが粉塵になってると思うと嫌だな。
清掃班ーー!ここよーーーー!ここにゴミがいるわーーー!(誰)
結界に乗ったまま、周囲を確認する。
新しく開いた壁の向こうから来たのだと思うが、一匹だけで良かった。
どうやら、他に虫らしきものはいないらしい。
「酷い罠でござった・・・。油断は大敵でござるな!」
ホッとして地面に降りると、様子を窺っていた2人も安心したように溜息を吐いた。
やっぱり気持ち悪いよね!
よかった、虫が苦手なのは俺だけかと思ってた。
「こいつらは、虫にトラウマでもあるのか?どこでどういう育ち方をしたんだ?」
ギルディートが心底不思議そうに言いながら左右の耳を動かす。
こいつらって、どいつらだ?
虫なんてどこへ行っても気持ち悪いだろ?!
「きっと文化の違う場所から来たのよ。
この人に聞いても答えてくれそうにないから、後でリフレに問い詰めるのよ。」
どうしてそうなった??!?
え、このキャラ、リーフレッドとセットの扱いなの?!それ困るんだけど。
「それより、さっさと終わらせて遺跡を出るのよ。外の空気を吸いたいわ。」
「だなぁ。」
おう、早く町に戻ろうぜ。
今日は何だかいつもと違う疲れ方をした。宿でゆっくり休みたい。
2人の視線が宝箱に注がれる。
よし、パパッと開けて中身を見ようぜ。
「でもなぁ・・。」
なんだよ。
「できるなら、リフレの奴と一緒に開けたかったぜ。」
「!」
思ってもみなかった不意打ちに、ジーンとこみ上げるものを感じる。
そうだな、達成感とか、一緒に味わえたもんな。実はここにいるんだけどな!
「そうね。でも、置いておくという手はないのよ。
岩でフタをしていると言っても、確実に侵入を防げるわけじゃないわ。」
「わかってるよ。」
2人が宝箱の周囲と、宝箱を調べている間、俺も床を調べていた。
罠らしきものは他に無いな。
また虫が出て来たらどうしようかと思ったが、そんな事はないようだ。
「さぁ、開けるぞ・・・。」
緊張の瞬間である。
中身は何だろう。
何が入っているのか分からない宝箱ってロマンがあって素晴らしい。宝くじみたいなものだ。
自分だったら何が入っていたら嬉しいかを夢想するのだ。武器?防具?
いや、ここは魔道具だろう。この世界の魔道具は、俺の知らないものである可能性が高い。
乾燥の魔道具、風の魔道具、他に何があるのだろう?
何か、こう、役に立つ・・・それより、ロマンを求めるね。俺は。
武器・防具であっても、ロマンがあるならアリだ。炎の剣とか、呪いの鎧 (ぉぃ)とか。
使い道が分からない謎の物体っていうのもいいな!
そっと開けられた宝箱には・・・
「「「!!」」」
ぎっしりと黄金の金属が詰まっていた。