諦め
ここへ来て、ようやくマリッサも冷静さを取り戻したようだ。
「ギルディート!・・き、帰還の札を使うわ。町に戻るのよ。」
ギルディートは苦悶の表情を浮かべながらも安堵したようだ。
帰還の札を取り出す。しかし・・・
「きゃぁっ?!」
帰還の札を出した瞬間、燃え上がって無くなってしまったのだ。
ギルディートも同じみたいだ。
ただ、反応をするだけの余裕はないらしく、直ぐに回復アイテムを取り出し、半分を肩にかけて、もう半分を口に含む。
・・。あんまり回復してないみたいだが。
くそっ。
俺はHPポット(大)を取り出して、ギルディートの肩にかける。
うん、さっきよりはマシみたいだな。
痛みが薄れたのか、怪訝そうな顔をしたギルディートだが、疑問に思う時間もない。
ゴーレムズが2人を包囲して腕を振り上げているからだ。
「いやぁっ、もう!どうしたらいいのよ?!」
マリッサは半分パニックだ。
しかし、ここでパニックを起こせば事態が最悪に向かってしまう、とも感じているのだろう。
かろうじて、冷静な部分も残っている、といった感じだ。
ギルディートは、マリッサをタゲっているゴーレムを地道に狙っていく。
怪我をした時も悪態の1つも言わなかったし、逆境に強いのかもしれない。
「スキルを使え。範囲を狙うな。1体ずつ対処しろ。
敵の攻撃はデカブツのだけ気を付けてくれ。あとは俺がフォローを入れる。」
「スキルが出ないわ!」
半泣きのマリッサ。
無理もないが、こういう時にギルディートが冷静なのは凄く助かる。
いざって時に喧嘩をし出す奴ってのは結構多いからな。
「深呼吸しろ。イメージだ。
スキルは勝手に出るもんじゃない。使うことを意識するんだ。」
マリッサに攻撃しようとしたサンドゴーレムが体に行く筋もの切れ込みを入れてよろめく。
コアに攻撃が当たらなかったようで、再生されてしまったが、そこにマリッサの攻撃が降って来た。
「ていっ!!」スキル:粉砕
うん、筋がいいと褒めればいいのか、その掛け声を何とかしろとツッコめばいいのか困るところだ。
ギルディートも同じ気持ちなのか、耳がヘニャリと垂れた。
スキル:凍華咲刃
ギルディートもスキルを放つ。
マッドゴーレムには効果が覿面だ。
コアには当たらなかったものの、動きを止めたマッドゴーレムをマリッサが叩き潰す。
うん、足並みも揃ってきたな。
「避けるぞ!」
「!」
攻撃をするのに夢中だったマリッサが、ギルディートの声に反応して戦況を把握し、動く。
ストーンゴーレムの攻撃が床を割らんばかりの音を立てて炸裂する。
お、あいつ、味方を潰しやがったぞ。
「私の経験値が!」
「言ってる場合か!」
ちょっと余裕が出てきたらしく、2人の会話に冗談が混じる。
・・冗談、だよな?
そして、マリッサをタゲっている敵がほぼ壊滅、マッドゴーレムが片付いた時、それは起こった。
祭壇の上から、何か丸い・・実体の無い粒のようなものが落ちてきて、マッドゴーレムだった土の塊に落ちたのだ。
そして、|マッドゴーレムが復活した《・・・・・・・・・・・・》。
こりゃダメだ。
「ふざけんなよ!」
さすがのギルディートも悪態をつく。
「このままじゃジリ貧なのよ!」
疲れの見えるマリッサが嘆く。
スキル:閃華咲刃
ギルディートの範囲攻撃が、ゴーレムズを切り刻む。
「うわぁーーー!」スキル:殴打
マリッサの追撃で、露出したコアがいくつも砕かれた。
そして、アースゴーレムが全滅、しかし、再び祭壇から丸い靄の粒が落ちてくる。
「またあれなのよ!」
「任せろ!」
ギルディートがその丸いものを一閃したが・・
何事も無かったように土くれに吸い込まれて、アースゴーレムが復活した。
「なんなんだこれ!攻撃が効かないぞ!」
うん、多分あの“実体の無い丸い粒”は、魔法効果とかそういうやつなんだろう。
普通の物理攻撃でどうにかなるものじゃないっぽい。
「やっぱり、一番強いのを倒すしかないのよ!」
それはそうなんだが、それができる状態じゃないだろ。
「どうやってだよ!これだけ壁が立ち塞がってるんだぞ!
しかも復活しやがる!それに、あれに攻撃が通ると思うか?」
いや、ギルディート、お前が冷静さを失ってどうする。
いや、かろうじて冷静だ。ちょっとイラッとしてるだけだ。多分。
「でも、このまま何度も復活する壁と戦ってても意味がないのよ!」
「くそっ・・どうすれば・・・。」
ギルディートが絶望した顔をした。おいおい。もっと考えろ。まだいけるはずだ。
マリッサが、決意したような顔で槌を握り締める。よし、がんばれマリッサ!
「死ぬ時は一矢報いてから死ぬのよ・・・。」
物騒だな、おい!違う違う!そうじゃないって!
「だな。まだ回復アイテムも残ってる。
死ぬのは全ての打つ手を失ってからだ。」
おぃぃぃいいい?!?違うからね?!ちゃんと攻略できるからね?
だめだ、2人の眼が据わってる。
死ぬつもりになってちゃ見えるものも見えんわ。
仕方ない、出るか。
姿を見せるのはちょっと・・いや、かなり嫌だけど、変にトラウマを背負われても困る。
死なれるのはもっと困るしな。
「助太刀をする。ただし、絶対に振り返るな。」
背後に回り、2人に声をかけた。
「「??!?」」
「だから振り返るなってぇ!」
声を出した時点で、隠蔽系の効果は全て消えてしまった。
なので、俺はこの姿を晒してしまった事になる。
忍んでるつもりがあるのか?と疑問の声が上がりそうなくらい挑戦的な忍び装束。
小柄なボディに似合わない、さらしを巻いているのにはち切れそうな胸に、細い肢体。
くそ!マジかよ。
思わず、手で顔を覆う。・・大丈夫だ。俺にはまだ仮面がある。
「「誰」だ?」
ですよね。
女性キャラにCCして声を出したのは初めてだが、声が高くなっている。
顔もばれてない。
これは・・白を切り通すしかない。
「ゆ、故あって助太刀する。せ、拙者の事はあまり詮索しないでくれるとありがたい・・。」
「「・・・・・。」」
その胡散臭げな目をヤメロ。