スキルの使い方
「もぉ!」「このっ!」「えい!」
敵が減ってきて、残りは1体だ。
マリッサが何をしてるかって、どうやらスキルを使おうとしてるみたいだ。
ギルディートが呆れた顔でそれを見守る。
さすがに1対1でマッドゴーレムが相手なら、逃げ回らずともその場で回避行動ができるようで、しかも、わりと余裕がある。
「なぁ。もう先に進もうぜ・・。」
ギルディートが言うのも無理はない。
そろそろお昼にしてもいい時間だというのに、昨日の攻略に追い付いていないのだ。
マリッサは、振るい方を変えてみたり、掛け声を変えてみたりと試行錯誤を重ねていたが、さすがに疲れたようで、槌を地面に付けたまま動きを止めた。
「どうして出ないのかしら・・・。」
その様子を見たギルディートが止めを刺す。
ふぅ、と一息吐いたマリッサがアイテムボックスから水筒を出し、一口飲むと、ギルディートもそれに倣った。
そういえば、この世界で鞘というものを見た事がない。
アイテムボックスに仕舞うことができるせいだ。
ギルディートが右手の剣を腰に下げたバッグに入れ、同じところから水筒を取り出す様は、なかなかシュールだ。
「さっき、スキルを発動した時と同じイメージで動くといいよ。
それが難しかったら、似たような状況を再現する、とか。
自分の思ったタイミングで出せるようになるには、それなりに時間がかかるもんだよ。」
ギルディートがアドバイスを入れる。
俺は、リアル化したこの世界においてのスキルの使用感ついては分からないから、こればっかりは助言もできない。
「発動した時のイメージねぇ。」
ブツブツと言いながら思考に没頭するマリッサ。
しっかり者だが、こういう時のマリッサは周囲が見えていない。
隣の部屋に入ろうとするマリッサに、ギルディートは慌てて割って入るのだった。
俺もスキルを掛けなおして、さっきまで2人が戦っていた部屋に入る。
祭壇の部屋は相変わらずだ。
そして、マッドゴーレムが少し多い。
そして・・・
「てい!」スキル:粉砕
いきなりマリッサがスキルを成功させた。
「ていっ!・・てい!」スキル:粉砕
おお、さっき苦戦してたのが嘘みたいだ。
ギルディートのアドバイスのおかげかな?
しかし、スキル使用とはいえ1発なんて、マリッサの成長には目を見張るものがあるな。
「ていっ!」スキル:粉砕
「・・・その掛け声は何とかならないのか?」
ですよね。俺も気になった。
さっきから「てい」ばっかりなんだけど、叫びやすいのか?
まぁ、「もう」よりも叫びやすいとは思うけど。
「スキルのイメージがこんな感じなのよ・・。」
マリッサ自身も不本意そうだった。
いや、どんなイメージだよ。
「じゃぁ、他にも何か違う動きを想像してみたらどうだ?
別のスキルが発動できるかもしれないぞ。」
ギルディートの言葉に、マリッサは難しい顔をした。
なんでちょっと嫌そうなんだ?
マッドゴーレムが減り、掃討に入る。
しばらく、無言で槌を振り回していたマリッサだが・・いや、何か言ってるな。
「・・・ーぁあ」
スキル:殴打
マリッサの振り回した槌が、複数の敵に当たり、ダメージを与える。
おお、範囲攻撃だな。ちょっと範囲がしょっぱいのは仕方ない、槌だからな。
「・・・それって・・。」
「言わないで。」
コアを露出した敵に止めを刺していく。
範囲攻撃を覚えると、狩り効率が増すからな。
ガンガン使って、スキルレベルを上げて欲しいものだ。
2人が敵を倒し終えて戻ってくる。・・やべ。
俺は出口を塞がないようにさっと道を開ける。
「・・・・・。」
なんだよ。
ギルディートがキョロキョロ見回す。
スキルは・・切れてないな。マジで勘なのか?
「どうしたの。早く休憩して攻略を進めるのよ。時間がないわ。」
マリッサにせかされて、2人は最初の部屋に戻った。
なんと2人は最初の部屋で飯を食い始めた。マジかよ!よくこんな所で食えるなぁ。
まぁ、この部屋はモンスターがいなかったけどさ。
でも、ほら、あの土が残ってるんだけど・・・。
2人が質素な飯を食っている間に、外へ出てスキルを掛けなおした。
再度遺跡に入った時、ギルディートが振り向いたのには本気でびびった。
攻略は続く。
「うわーぁ。」スキル:殴打
「わーぁあ。」スキル:殴打
顔を赤くしながらスキルを放つマリッサ。いや、面白いんだけどさ。
一体、それは何の真似だ?
俺の困惑を余所に、順調に狩り進む2人。
そこそこの効率を出せてるのがいいが、ギルディートさんが仕事をしていないんですけど。
「イメージも大事だけど、癖が付くから、声を出さなくてもスキルを放てるようになろうな。」
いや、そうじゃないだろ。
マリッサも深刻な顔して頷いてないで、どうしてそうなったか説明しろよ。
おかしいだろ。
「リフレがこんな感じなのが悪いのよ・・・。」
俺のせいかよ!?