遺跡に入るのも一苦労
しばらくして、遺跡まで辿り着いた。
地味に足が速くなってきているマリッサ。体力も付いたようで、これまでより元気そうだ。
遺跡は土で埋め、大岩を蓋として乗せている。
中からモンスターが出てくるのを防ぐ為だ。
埋めただけだと、動物とかに掘り返されるかもしれないしな。
それが、今、問題になっていた。
「・・・。動かないのよ。」
「びくともしないな。」
自分の持てる重さまでしかアイテムボックスに入らないそうなんだが、どうも2人のSTR(腕力)が足りないらしい。
ギルディートはいけるんじゃないかと思ったが、そういえば魔法剣士タイプだったな、と思い当たる。
MTL(精神力)に振らなきゃいけない分、どうしてもSTR(腕力)が下がってしまうのだ。
掘り残した土の壁の上からアプローチしたり、スコップを使って梃子の原理で動かそうとしたりしていたが、やがて、2人は岩の前に穴を掘り始めた。
おいおい。それで動かせても、下手すると潰されるぞ。
・・・・。
ハラハラして見ていたが、やがて、2人は岩を押して穴の方向に倒し始めた。
いや、それ深さ足りないだろ。横着し過ぎだ。
グラ、と岩が傾き、穴に嵌る。うん、キレイに嵌ったな。
「・・・ちょっと狭いのよ。」
「まぁ、何とかなるだろ。」
ならねーよ。おい、もうちょっと気にしろ。
掘り進めるな。ああ、掘った土を適当に掻き出すな。
今度はヤキモキしてしまう。
うーん、2人の経験になるんだから、これも有りか。うん。
だから、大丈夫、大丈夫だ。
「・・・扉がほとんど開かないわ。やっぱり狭いのよ。」
だろうね。よくそこまで疑問に思わずに掘ったと思うよ。
ガツガツ岩に扉をぶつけるのをやめなさい。
「ここから侵入するか?」
「どうやって出るつもりかしら。」
ギルディートが、遺跡の上部からの侵入を提案する。
その穴倉みたいな隙間から、よく入ろうなんて思ったな!
本当に危なっかしい奴だ。マリッサが冷静で助かる。いいコンビかもしれない。
結局、また岩の前を掘り始める。
「さっき掘り出した土が邪魔だー。」
うん、そうなるよね。
二度手間っていうかさ・・。
「ああ・・・リフレが来てくれたらなぁ。」
ここにいるけどな。
あ、そろそろスキルかけなおしておこう。
うっかりスキルを切らして姿を晒すのは間抜け過ぎる。
「・・・。なぁ、今、人の気配がしなかったか?」
「黙って掘るのよ。」
クノイチのキャラは、スキルを掛けなおす時にロスタイムが発生する。
補助キャラなどのスキルは、重ね掛けしてもスキルの効果が切れる事はないが、クノイチだけはスキルを使った一瞬、スキル効果が消えるのだ。
それは、敵に発見されないスキルが強力すぎて、修正を食らったせいだと言われている。
攻撃スキルを使ったら、全部の効果が切れる。
そりゃ、PvP(プレイヤーvsプレイヤー)で、見えない相手からバシバシ攻撃食らうのはきつすぎるもんな。
しかし、この一瞬で気配がバレるって、どんな勘してんだ?あいつ。
で、だ。今度は大き目の穴を掘り、そろそろいいんじゃないかって所なんだが。
いや、そこ掘っちゃう?危ないって!
そろそろ動くと思うからどきなって!
突くな!
もういい、もういいよ!ああ、もう・・。
岩の下の地面を抉るように掘るもんだから、気が気じゃない。
2人が移動してホッと胸を撫で下ろした瞬間、ゴロン、と大岩が転がった。
「・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
危ねぇええ!!
ちょっとマジ今のやばかったよ!わかってる?
「いいタイミングだったな!」
「間一髪だった、っていうのよ。」
マリッサさんが正しい。
だから、その耳のピコピコは何なんだ。
2人が残りの土を掻き出し、遺跡に侵入したのを見届け、俺はスキルをかけ直す。
MPポットも使っておこう。
・・・そういえば、HPポットって飲まなくても効果があるみたいだけど、MPポットってどうなんだろう?
飲まずに回復できたら便利だよな!試してみようか。
・・・体が濡れただけだった。ちくせう。
さて、2人の後を尾けるとしますか。
遺跡に入ってみると、右側の部屋から戦闘音が聞こえた。
またマッドゴーレムが復活してたようだ。そっと覗き込む。
ギルディートが引き付けて逃げ回ってるのを、マッドゴーレムが追いかけている。
そのマッドゴーレムを追いかけて、マリッサが叩き潰している。
槌がまた新しくなっていて、重さを増したようだ。
なんだこれ。面白い事になってんな。
「ちょっと、もう少しゆっくり歩きなさいよ!それか減らすの手伝って!」
槌の装備によってAGL(敏捷性)のマイナス補正が付いた文句を言う。
振るうのがちょっときつそうだけど、大丈夫か?
「無理言うなよ!立ち止まったらボコボコにされんだろうが!
リフレのやり方を期待してんなら諦めろ!こっちの方が普通だ。
それより変なところで止まるな。スペースが狭いんだから、逃げ回るルートが限られてんだよ!」
ヘイトを集めたギルディートが逃げ回り、マッドゴーレムがそれを追いかけ、そのマッドゴーレムをマリッサが追いかける。
一体がマリッサの攻撃を受けて振り返り、戦闘になる。
その際、逃げ回るルートで戦闘を始められてしまうと、ギルディートがとても大変なのだ。
入るのが遅くなったせいか、マッドゴーレムがちょっと多めに復活してたみたいだ。
その代わりと言っては何だが、ゴキらしきものは見えない。
ギルディートは牽制程度に剣を振るうが、追い付かれたらタダじゃ済まない。
ほとんど当てずに再び逃げる。
相手をしてられる状況じゃない。それはマリッサもわかってはいるのだろう。
だからと言って苛立ちを抑えるのは難しいみたいだが。
「もう!このぉっ!・・・てい!」
槌を振り上げ、思い切り振り下ろす。
スキル:粉砕
苛立ちを槌に乗せたおかげか、マリッサの放ったスキルは一撃でマッドゴーレムを叩き潰したのだった。