探索者ウォッチング
翌朝。
何やら言いたげに宿を出て行くギルディートを、飯を食いながら見送った。
うん、今日も美味かった。ごちそうさまでしたっと。
部屋に戻り、外の様子を窺う。
2人は合流し、チラチラと宿の様子を窺ってたが、すぐに出発した。
よし、行ったな。
スザクは女将さんに預かってもらった。
足環があるので、他の鶏と区別が付くし、一緒に畑で放し飼いにしてもらう。
さて、2人の様子を見に行きますか。
え?出掛けないとも、見に行かないとも言ってませんけど、何か?
念のため、西の門から出て大きく迂回する。
行き先は一緒なのだ。焦ることはない。
周囲に人がいないのは確認した。
CC:投擲キャラ
ほとんど外見を弄っていないこのキャラは、クノイチだ。
絶対に姿を人に晒したくないが、逆に姿を晒さないのならば、このキャラほど適したキャラは無い。
俺は、キツネの面を被り、顔を隠す。ネタ装備だが、まさか実用品になるとは。
まぁ、最悪見つかった時の為の、念のための装備だ。2人に見つかるつもりはない。
スキル:隠密
スキル:忍び足
スキル:隠れ身
要するに、気配を断って、足音を消して、姿を消したということだ。
それで2人を追ったわけだが、股の間がスースーする。
これは・・ 誰かに会わなくても恥ずかしい!何これ。
どうしてニンジャじゃないんだ?なんでクノイチなんだよ!
運営!運営はどこだ!直訴してやる!どうしてこんなシステムにしたんだーーー!
・・・・・はぁ。不毛だ。
で、マップに2人は表示されない。
気配を察知するスキルがあったような・・。敵じゃなくても表示されるのかな?
遺跡は・・・この辺だったよな???
あれ?こっちかな?マップ的にはこの辺・・・・・。あったあった。
焦った。マリッサ達と来るのとは勝手が違うからな。
2人が来ている様子は、ない。あ、遠くで高めの声が聞こえる。
うーん、このキャラは獣人だから、耳がいいのかな?
正面から行くとバレかねない。
スキルをかけ直しつつ、ちょっと迂回しつつ、声のする方に向かった。
「仕方ないのよ。私たちは頼り過ぎたと思うの。」
声が聞き取れるところまで近づいた。
マリッサの声は高くてハキハキしているので良く通る。
「・・・かってるよ。で・、・・だ・・だで着いて来てくれ・と思ったんだけどなぁ。」
若干、ギルディートの声が聞き取り難いが、近づくにつれてはっきりしてきた。
耳が力なく下がっているので、明るい話題ではないようだ。
「それは私もなのよ。でも、あれだけ酷い目に遭ったら来たくなくなる気持ちも、わかるのよ。」
「・・だなぁ。」
俺の話か?どうもそうらしい。
共通の話題が少ないからってのもあるんだろうが、俺の居ない場所での俺の話題ってのも気になるものである。
悪口とか言われたら泣けるど。
「で、どう思う?」
「多分、あのクラポリーム大量発生の部屋のせいだと思うのよ。あそこまで強力なモンスターになったのは、たまたま運が悪かったのだと思うわ。ただ、そう思ってかかると、違った時に痛い目に遭いそうだから、即時撤退の準備はしておくけど。」
あれっ。俺の話題は終わったようだ。
盗み聞き?ストーカー?
そんなものと一緒にされるのはよろしくない。
俺は保護者として休日参観的なものをしているわけだよ。
「俺もだ。ただ、次の“捧げもの”をどうすればいいのか分からないのと、中央の部屋にはやっぱりボスがいるだろうから、それが気がかりだな。
俺たちだけで戦って手ごたえを確かめたい。まぁ、命あっての物種だ。もし成果が得られなくても、危なかったら引かないとな。」
2人は情報と作戦の擦り合わせを行っているようだ。
これが違うと、いざという時にバラバラに行動してしまい、、PTが分断される事がある。
なかなかしっかりしているし、良い判断だと思う。
それにしても“捧げもの”・・・ね。あの時聞こえた声の事だな。
俺は攻略済みの遺跡しか知らないので、仕掛けとかは分からないんだよなぁ。
「一応、同じ物を求められるという仮定で、コッコ鳥を絞めて持って来たわ。
お小遣いの範囲だから、足りるか分からないし、進めなかったら赤字ね。
・・・まぁ、料理に使えるから良いのだけど。」
鶏さんは犠牲になったのか・・・。
いや、別に命がどうのと言ってるわけじゃないんだ。俺だって肉食うし。
もったいなくね?普通に食えるものをさ。
「・・・。それにしても、遺跡の主に捧げものを求められて、現地調達って・・。
しかも、ほとんど水増しって・・。文字通り水だったぞ?いいのかあれ?」
「リフレのする事は気にしない方がいいのよ。
遺跡の主も受け取ったのだから、文句はリフレに言ってもらいましょ。」
現地調達は基本ですよ!だいたいのRPGってそうなってるし!
え?別にそれっぽかったらそれで良くね?
所詮、ギミックを動かすのに必要なだけでしょ。
大体、血肉って物騒なんだよ!
「それにしても、人の心臓とか捧げなくていいなら良かったな。
代用ができるだけ、他の迷宮を攻略するより楽かもしれない。」
もっと物騒なのいたけど!
それ、いくら何でも死んじゃわないか??
ちょっとマリッサさん何とか言ってやってくださいよ!
「普通、そう思うわよね。古代迷宮で主に求められるものなんて、相場が決まってるし。」
決まっちゃってるの?!そっちが普通なの??!
マジで?この世の中そんなに物騒なの??!
俺にとって衝撃的な内容が、次々と2人の口から飛び出すのであった。