心配な奴
さて、俺は2人を置いてコランダの方に向かっていた。
2人は心配だが、もっと心配な奴がいる。
「コココ・・・・」
ああ、俺の頭の上に陣取っている、スザクだ。
食われそうになった事、俺が間に入った事で免れたことを、何となくでも理解しているのだろう。
人懐っこいところはあったが、俺からあまり離れたがらない。
今のうちにやれることはやっておいた方がいい。
クラポリームから毒を食らって一撃死、というのは衝撃的だった。
毒は直接攻撃と比べ厄介ではある。が、被ダメ自体はそこまできつくなかったはず。
できる事なら、持ちこたえて治療待ちくらい出来て欲しい。
そう、レベル上げだ。
西の平原に生息するグミー、フラウワなんかと戦わせるのが良いだろう。
他にポイズングミー、アーシーグミー、なんかも生息しているが、グミーで苦戦しているうちは、まだ早い。
コランダの麦畑と町並みを遠くに見ながら、コランダの南を通り過ぎる。
そして、街道や町とはだいぶ離れた、人気の全く無い場所に来る。
ここへ来ると、平原と名がついているにも拘らず、東の森とほとんど変わらない。
変わるのは、生息モンスターぐらいだ。
「いたいた。」
目当てのモンスター、フラウワを見つける。
このモンスター、被アクティブで、経験値は全くおいしくないが、とても弱い。
チュートリアルで出てくるようなモンスターなのだ。
「スザク。お前はいくら何でも弱過ぎる。一撃死亡ではさすがに連れ歩けない。
だから、レベル上げだ。強くなれよ。」
スザクは、よくわかっていないようだったが、フラウワの近くに誘導すると、猛然とアタックをはじめた。
うんうん。戦えているな。
この辺にはフラウワが多い。人の気配もない。
CC:鍛冶キャラ《ディナフェイル》
俺はCCに戸惑うスザクに指示を出しながら、アイテムの製作を始めた。
・・・・・。
「できたぞ。」
抗毒のバードリング(+6)
作ったのは、鳥の脚によく着いてる輪っかだ。
指輪くらいの補正なら付けられるだろうと思ったが、小さいのでわりと精巧な作業だった。
それに、初心者用なので、頑張っても補正が乗らず、下手に凝るとレベル制限が付いてしまい、非常に難しかった。
+6にもなると成功率は半分を切るが、何しろ小さいので製作時間がそれほどいらない。
いくつも作っては素材に戻し、出来た渾身の作品だ。武器では絶対にやらない。
手間がものすごくかかるからな!
さっそくスザクの脚に付けてやる。・・・付けてやるって。
・・・いや、俺だから。捕って食やしないから。
CC:大剣キャラ
STRとAGIに3(+1)づつ、DEFとDEXに1づつの補正と、ささやかなものではあるが、雑魚モンスターを相手になら多少の効果はあるようだ。
+6までしてもSTRとAGIが1ずつ増えただけなのは悲しいが、50%増ならおいしいのかな?
一応、毒の耐性も付いているが、毒のステータス以上からの自然回復が早くなり、毒にかかる確率が若干減るだけなので、食らう時は食らう。
付いてないよりマシ程度のものだ。
スザクは、フラウワをボロボロにして・・・食ってる?!おいしいのか?
周辺にフラウワが見当たらなくなったので、グミーとも戦わせる。
うんうん、ちゃんと戦えてるな。フラウワと戦ってレベルアップもしたのかな?
・・・倒したら、啄ばんでるな。鶏って獰猛だっていうけど、こんな狩りをする鳥だっけ?
さて格上かもしれないが、そこにいるアーシーグミーと戦ってみようか?
あとは自分で出来る回復手段があればいいんだが、アイテムボックスの無いスザクでは無理か。
…無理なのかな?
そもそも、アイテムボックスって人間だけのシステムなのか?
後でマリッサ達に聞いてみるとしよう。
ちなみに、アーシーグミーはちょっと突いただけで、食べた様子は無かった。
好みではなかったらしい。まぁ土っぽいモンスターだしな。
ちびちびと回復アイテムを使いながらレベル上げに勤しむことしばし。
空の色が赤くなってきた。さて、そろそろ帰ろうか。
平原をコランダの方向に向かって行くと、こちらに向かってくるギルディートと遭遇した。
毎回、どうやって俺の行く方向を感知してるんだ?
「PTメンバーの位置って、だいたいわかるんだ・・・。」
ああ、そうか。今日はPT組んだままだったし、そうだったね。
そんなシステムだったよ!意識しないと出てこないから忘れるんだ。
モニタの隅でそっと自己主張をしている機能と違って、使いにくい。
しかし、それでも簡単にはいかない筈と思ったら、マップの範囲を使って何度も往復し、くまなく探せば見つけるのは時間の問題とか。
ギルディートは足が速いもんな。
PTを解散する。
マップの機能を使ってたらしいギルディートの耳が反応した。
この間見つかった時はPTを組んでなかった。
炎の光を頼りに、羊の泣き声を頼りに、なんて言うけど、マップの機能に乗ってないPT外の人物をこの広大なフィールドから探すのは大変な作業だ。
何か裏技があるに違いない。
問い詰めたが「勘。」というギルディートの耳はピンと上を向いていて、その言葉に嘘は感じられないのであった。