川辺で休憩
さて、全身くまなく洗った。軽く鼻うがいにも挑戦した。
鼻、耳は勿論、特に口内は念入りに洗浄した。自分が納得するまで、ちゃんとキレイにしたはずだ。
いつまでこうしていても仕方がない。
俺は、2人が座っている丸い石の転がるスペースに行き、良い感じの石に腰をかける。
「俺ももらってもいいんだよな?」
「当たり前だろ?何言ってんだ?」
なんか元気になったような、不機嫌になったような様子のギルディート。
その片耳ピコピコが何なのか、ホント知りたい。
・・ま、元気そうだから気にしないけどな。
ボス戦もだが、体を洗った時間も結構かかったので、いい時間だ。
日が傾いてきていて、時間的には昼飯というよりも3時のおやつといったところか。
深皿にリゾットをよそう。
飯なんて気分じゃないと思ったが、どうやら腹は減っていたらしい。
リゾットなら胃に優しそうだ。ありがたい。
俺は、ようやく嚥下できるようになった唾液を飲み込み、リゾットの穏やかな味に舌鼓を打った。
・・・・・。
鍋があらかた綺麗になったタイミングで湯を沸かし、茶を配った。
いや、スザクの風呂じゃないから。
井戸の飲める水だし、熱湯だから。・・・湯掻かれたいのか?
何故、茶なんぞを配ったのか?食後の一服、ではない。
それまでの飯って空気から、食事が終わった、という空気にしたかったのだ。
食事が終わったら食休みなどせずに動くのが普通みたいだが、それをしないで茶を飲む、ということは話がある、という事だ。
空気が読める面子で良かった。
「で、今日の成果だが・・・。」
俺が切り出す。一様に暗い表情なのも無理はない。
進んだのはあの部屋だけだ。
そして、ドロップアイテムのほとんどはあの黒い土・・泥ポリームにかっ掠われ、飲み込まれた。
その後、俺との戦闘だ。
粉々どころか焼き付くされて影も形も残ってないのだ。
「ゼロだ。」
いっそ清々しいほどの成果である。
まぁ、虫やカビのドロップアイテムなんて欲しいとは思わないが。
「レベルが上がったわ。」
「俺もだ。」
2人が察して成果を報告する。
しかし、俺はもう決めたんだ。
「・・・探索は、もう終わりにしないか?」
正直、あの遺跡は危険過ぎる。
ゲロ・・・もとい、泥ポリームは、あの遺跡のレベル帯で出てくるようなモンスターとは思えない。
なぜならば、討伐経験値が1000に届かんばかりの勢いだったのだ。
その経験値の一部がギルディートに流れた状態で、である。
と、いうことは、適性レベルは100を超えていた可能性さえある。
・・・・・。
俺が止めると言い出せば、2人だけでの探索は厳しいだろう。
だが、俺が酷い目に遭ったのを見てきた2人は、沈黙を持って俺の提案を受け止め・・・
「明日、もう一日だけ。頼めないか?」
「私も、これで終わりっていうのはちょっと嫌なのよ。」
受け止めてよ?!
ねぇ、俺、割と酷い目に遭ったよね?!君達、見てたよね??
虫に囲まれたし、あの腐ったヘドロみたいなモンスターに2度も飲み込まれたし。
え?明日もあれやんの?もういいじゃん。埋めておこう?!ねぇ、あれ埋めちゃおう?!
「多分、真ん中の部屋が本命なのよ。
あの部屋を見ずに冒険を終えるなんて、あそこまで進んだ甲斐がないのよ。」
う・・・それはそうなんだが。
でもな、あの遺跡、まだ下に階層が広がってるんだよ。
あの部屋が通れるようになると、多分・・いや、間違いなく階段が出現する筈なんだよ。
まぁ、俺は開放された状態のダンジョンしか知らないから、仕掛けを解除して進んでいくのは楽しかったんだが。
トーチ嵌めるだけの簡単なお仕事だけど、罠とか大量に仕掛けられているよりは、それくらいの緩ゲーの方がいいと思うんだ。
「俺もそう思う。ここまでの討伐の成果ではなく、別の成果を得られるはずなんだ。
俺達のわがままだとはわかってるが、明日1日だけ!頼む!」
確か、こいつの所属するクランが資金に困ってるって言ってたか。
風の魔道具でも世話になってるしな・・・あと少しだけ・・か。・・・はぁ・・・。
「やだ。」
「「・・・・・。」」
それでも、だ。
もしレベルが足りなかったら、窒息していたかもしれない。
もし俺が一緒じゃなかったら、2人は死んでいたかもしれない。
もし、俺が遺跡を掘り出さなかったら、こんな酷い目には遭わずに済んだかもしれない。
とにかく、あの遺跡でもう一度楽しく探索できるほど、俺のメンタルは強くない。
「わかった。明日は休むのよ。」
「そうだな。時に休養も必要だな。」
2人が納得してくれたようだ。
理論も何も無い、単なる感情論で納得されるのは、些か腑に落ちない部分もあるが、俺の気持ちを汲んでくれたと思おう。
良かった。
さて、明日はゆっくり休むとして、これからどうしようか?
ギルディートとは模擬戦の約束もあるし、ノルタークに出掛けるとするか。
模擬戦をできる施設もあったはずだし、隣の宿場町を越えると、その先に王都がある。
そこでプレイヤーの情報を集めるのもいいかな・・・。
「私達も、明日1日だけ探索したら休息を入れるわ。」
「コランダのトーチは買い占めたしな。」
・・・・・。
なんですと?
「お前ら、俺抜きで行くつもりなのか?」
それはいくらなんでも許容できないぞ。
真意を確かめるように2人を見るが、動じた様子があるのはギルディートの耳くらいだ。
「ちょっと覗いてみるだけなのよ。厳しいと思ったら退くし、いざという時には帰還の札があるわ。」
「大丈夫、ちょっとだけ。ちょっと入って出てくるだけだから。」
先っちょだけだから、みたいな言い方されてもなぁ。
・・・・本当か?いや、本当だとしても、だ。
俺は目を細めて2人を眺める。
明日1日だけ探索したら休む、ねぇ?
明日1日だけ手伝えば心置きなく休めるよ、という裏の声が見え隠れする。
「べっ、べべ別に、心配させて付いて来てもらおうとか考えてるわけじゃ・・・イタッ」
ギルディートの防具の隙間に、マリッサの鋭い一撃が入っていた。
ふむ。
とりあえず、2人がどの程度本気なのか分からないが、俺がいなかったらどうするつもりなのかも興味がある。
明日は休養日だ。
俺の関わらないところでの、2人の選択がどうなるのか、見せてもらおうじゃないか。