水浴び
※サービス回ではありません。
前回2人に貸した石鹸を、再び貸している。
俺は、スザクを洗った時に使った、あの石鹸だ。
スザクが桶に入って目を閉じてみたり、桶に体を摺り寄せてみたりと何やらアピールしている。
が、俺はそれどころじゃないし、犬猫をあんまり風呂に入れすぎるのも良くないって聞いた事がある。
風呂はお預けだ。
それはさておき。
俺はマリッサに耳かきをしてもらっている。
膝枕?まさか。そんな事をしたら、土が耳の奥に入って来ちゃうだろ。
正座している俺の横で、恐々とつんつくやっている。
ちなみに、先ほどまで逆側の耳をギルディートが突いていたのだが、雑過ぎて痛いし、逆に土が奥まで入ってきそうなので止めてもらった。
痛いっつってんのに、楽しそうにしやがって。これは遊びじゃないんだぞ。
得体の知れない泥が耳に詰まるなど、初めての体験だ。見えない耳を掘るなんて怖すぎる。
とはいえ、俺自身でやった方がマシな場合もあるということだ。
なので、そちらは自分で掘っている。よし、なんとか取れたな。
まだ砂っぽい気がするが、入浴している間に「綿棒っぽいもの」を作ってくれるそうなので、期待しようと思う。
俺は全身をくまなく洗う。スザクを洗った石鹸と同じものを使っているのには理由がある。
本当は違うのを使いたいが、今日は俺の汚れが酷過ぎる。単純にいいものを使うのが勿体無いのだ。
体を傾けると、土が耳の奥に入って来そうなので極力傾けないように気を付けた。
耳の土が取れたので、音の聞こえ方が全く違う。改めて濡れたタオルで拭くと、タオルが土色に汚れた。
早く体を洗ってしまわないとな。
何度も水に潜って、頭の砂っぽさを落とす。時々少し耳に水が入るが、タオルで取れる程度だ。
むしろ耳の掃除にもなり、一石二鳥だ。
鼻がやばい。めっちゃ洗浄する。自分に着いた臭いなのか、鼻に着いた臭いなのか判別できないし、臭いはずなんだか、麻痺してるっぽい。
それでも臭いのは、それだけの相手だったからだろう。
しっかし、髪に絡んだ砂ってのは簡単には落ちないんだなぁ。
綺麗になったところで装備品だ。この辺は前回と同じ。
服は完全に綺麗にはならなかった。髪の毛よりも酷く土を噛んでるみたいだ。
着替えてから、マリッサから綿棒のようなものを2本もらう。
耳かきに使った枝と同じ感じに削ったものに、タオルから取った布と糸が巻かれている。
ちょっとデカイが、耳にはちゃんと入るな。ありがたく使わせてもらう。
・・・きったな!!!耳の中、すんごい汚い!
これ、もっと無いの?と聞いたら、無いって言われた。
1つをどろどろになるまで使って、もう1つを仕上げ用だな。
水に付けて綿棒(仮)の汚れを少し落としながら何度も使う。
なんとか爽快感を得ることができた。
俺が綿棒で必死に耳掃除をしている間に、マリッサは水浴びを済ませ、ギルディートは手の離せない俺のアイテムボックスからスープを取り出して温めていた。
まさか、他人のアイテムボックスからものが取り出せるとは思わず、めちゃくちゃ驚いた。
各自で食事を持ち寄り、俺はスープを提供する、という約束だったが、2人は麦を持ち込んだらしい。
なんでも、リゾットを作るのだとか。
余談だが、ゲームでは割りとあった辻ヒールや辻蘇生は、基本、無い事がわかった。
石化した人と遭遇した時に、その人のアイテムボックスに石化から回復できるアイテムがあれば使ってあげる、という事はあるらしいが、ほとんどの場合、中身を取られてしまうのだという。
ましてや、自分のアイテムを使ってまで助けてあげよう、なんて事はないらしい。
マジか!殺伐としてんな。
逆に、助けてあげた相手が善人とは限らないので、知らない人を助けると面倒ごとになったり、命に関わることさえあるからと注意された。
「辻、蘇生・・・?」
ギルディートが難しい顔をしているが、ゲームの中の話だ。気にしないでもらえるとありがたい。
スザクは、風呂に入ることができないと察したのか、離れたところでこちらの様子を見つつ、地面を突いている。
餌でも探しているのかな。
シャコシャコシャコシャコ・・・・・シャカシャカシャカシャカシャカ・・・ガシガシガシガシ・・・・
「もういいんじゃないかしら・・・。」
鍋のリゾットの話かと思ったら、俺の歯磨きに対してだった。
体を清潔にした俺は、川で何度も口を濯ぎ、新しい歯ブラシで歯を磨いている。
古い歯ブラシはもちろん捨てるつもりだ。
「何を言ってるんだ。こういうところで気を抜くと病気になるんだからな!
相手はカビなんだぞ?体内で繁殖したりとか、考えただけでもゾッとする!」
気持ちの問題だと思うが、まだ鼻の奥が臭いような気がするのだ。
鼻うがいってやつをやってみるか?いや、下手にやって気管に水が入っても怖い。
リゾットはもう完成してるみたいなので、俺のウエストバッグから皿やらスプーンやらを出してもらう。
先に食べててくれ。俺は“食事ができる状態”にならなきゃいけない。まずはそこからだ。