遺跡の攻略 ~二日目 ボス戦・下~
「・・・・・っぷはっ。」
体にへばり付いていた泥が乾いて、ポロポロと落ちていく。
拭っても綺麗には取れなかった泥だが、こうなってしまえば取るのも容易い。
俺は、頃合いを見てブレスから脱出した。
ブレスの中で息をしたら不味いと思ったので息を止めてたんだけど、ちょっと限界だったんだよね。
ブレスも息の一種だと思うんだが、よく炎を吐き続けて息が持つよなぁ。
パンパンと体を叩き、土を落とす。まぁ、完全に綺麗になるわけじゃないんだけどね。
状態異常:やけど
「ちょ・・ やりすぎだろ!」
ましゅまるは「ふん」といった感じで泥ポリーム(暫定)を見ている。
こっちを向け、こっちを。
耳の奥まではさすがに乾いていないが、耳を引っ張ったり、軽く揉んだり叩いたりしたら多少取れたようだ。
しかし、まだ音が篭って聞こえる。さっきよりはマシか。
泥ポリーム(暫定)は、ましゅまるを召喚するまでは再びこちらに飛び掛って来そうな気配をさせていたが、いきなり俺が炎に包まれたので様子を見ていたようだ。
意外と賢いぞ、こいつ。
さて。ある程度の泥なら、ましゅまるのブレスでなんとかなる事がわかったが。
問題はタイミングと、ましゅまるのやる気だ。
どう見ても、「めんどくせぇなぁ~」って態度だ。まぁ俺のせいでもあるわけだが。
剣を構える。
熱を帯びているが、赤くなるほどじゃないので、果たして効果といえる効果があるのかは不明だ。
「ミ;!ュ%=■↑◎&ナ”#ォj」
来るか?!
・・・・・。
「なっ」
俺をタゲってたんじゃないのか?
扉の外へとぬるぬる抜けていく。
まずい!
何がマズイって、ヘイトコントロールできない敵ってのがマズイ。
俺だけタゲっててくれればやり易いのだが、そうでないなら、どう動くか予測できないのだ。
2人をタゲられるのは相当まずい。
正直、こいつは2人の手に負える相手では無い。吹き飛ばせるだけの火力が無ければ、覆い被さられて窒息死しかねない。
俺は、慌てて追いかけて、
「・・んぐぅ」
黒くて臭い泥を思いっきり被った。ちくせう。
スキル:乱舞!
炎が扉の向こうからから噴き出す。いいタイミングだ。
おかげで、今度は耳に侵入してくる前に動きが止まったようだ。
さっきの渇きかけの泥が、逆に蓋になったのかも?
泥ポリーム(暫定)はスキルで粉々に飛び散り、炎に身を灼かれる。
ボトボトと落ちた土は水気を失い、蠢いて元に戻ることは無く・・。
最高のタイミングで、会心の攻撃を命中させることに成功した。
ただ、俺は最悪な気分だ。
「ぺっ、ぺっ・・・・。ぉぇぇ・・・・・。」
・・・・・察してくれ。
そうだよ。入ったんだよ、口に!!!
こうなれば、口に含んでいた解毒草も役には立つまい。泥と一緒に吐き出す。
味?土なだけあって、そこまで味はしないんだけど、青臭いような、酸っぱいような、苦いような、それでいてミネラル感のある・・・そんな事はどうだっていいだろう、今は。
しばらく、唾液は飲み込めそうにない。
泥ポリーム(暫定)は殺ったか?!というと、殺れていない。だいぶ弱体化はしていたが。
大部分がただの土くれと化し、渇きかけて動きが鈍くなっているようだ。
炎を免れた部分が、まだ蠢いてはいるが。
「おげぇ・・・ろろろろ(大変な事になっているよ!)」
ちなみに俺も相当、弱体化していた。
さて、止めを刺そう。
ましゅまる!ましゅまるおいで!おい、ましゅまる!?
・・・・・。だめだ。
頼みの綱のましゅまるは、扉の向こうから冷ややかにこちらを見ている。
手伝ってくれる気はないのかい?!ない?・・・ですよねー。
俺が扉の向こうに気を取られた隙を突いて、泥ポリーム(暫定)が襲い掛かってきた。
早い!?身が軽くなったからか!
「?!」
俺は、とっさに距離を取った。奴は、あろうことかそれに飛び込んだのだ。
泥ポリーム(暫定)は、ゲロポリームに進化したよ!
・・・・・・・。嫌過ぎる!!!!!
やるしかないと気合を入れ、俺は身構えた。剣の熱はもう残っていないようだが、あと少しで倒せるはずだ。
しかし、距離を取ったのが災いした。
俺を嘲笑うように、隣の部屋から覗いていたマリッサ達に飛び掛ったのだ。
だが。
スキル:焔華咲刃!
炎の斬撃が、ゲロポリームを迎え撃つ。
ゲロポリームは、今度こそ跡形もなく吹き飛んだのだった。
・・・・・。
「・・・・・・・・。」
悲しそうに剣を見つめるギルディート。
あのスキルこそが、ギルディートの切り札であった。
そりゃ、そんな空気にもなるよね。
敵は酷いものに進化してしまったもんだ。
出番が来たかと思ったら、倒した相手が汚物だもん。切り札のお披露目がゲロだもん。
いや、なんか、すまん。
「・・・レベルが、上がった。」
そう言ったギルディートの耳は、肩に付くんじゃないかというくらい、下を向いていた。
まぁ、奴の耳はそんなに長くはないんだが。
レベルが上がってよかったじゃないか。
げ、元気出せ。
「ぅぉえ゛っ。」
俺も、元気出すからさ。
さて、ウチのましゅまるが仲間を攻撃したらマズいので即急に帰っていただいた。
送還:ましゅまる
今回は素直に帰って行ったな。
俺が近付いたら嫌そうな顔しやがって。
まぁ、好感度を下げ過ぎた俺のせいなんだが。
で、今日はこれ以上、探索する元気が無いので、また水浴びして帰る事になった。
その足取りは、とてもじゃないけど軽いとは言えない。
シャコシャコシャコシャコ・・・・。ガラガラガラガラ・・。ぐちゅぐちゅ・・・ペッ!!!
ジャバジャバジャバ・・・・。シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ・・・・・・。
俺が何をしているのかというと、もちろん、歯磨きだ。あれから、一度も唾を飲んでいない。
遺跡から、川に着くまでは磨き続けるつもりだ。
で、体を清潔にしてから、仕上げにもう一度、今度は別の歯ブラシで磨くんだ。
手と顔ぐらいはタオルで拭いたが、色々と酷い事になっている。早く身奇麗にして、着替えたい。
ギルディートは何やら物思いに耽っている。
いや、そこまで落ち込むほどの事だったか?
マリッサは、器用に木の枝を加工しながら歩いている。
俺の為に、耳かきを作ってくれると言っていた。ポキッ「あっ。」
・・・見なかった事にしよう。
そんな感じなので、スザクも走って付いて来れるようだ。
一応、桶はギルディートが持ってくれている為、走るのがきつくなってきたら休むことが出来る。
俺の頭の上?泥のせいで酷い事になってますけど、何か?
ゆっくりとした速度ではあったが、何事も無く川に着く事ができた。