遺跡の攻略 ~二日目 ボス戦・上~
戦略の見込みを付けたところで、魔法剣士の素質があるはずの双剣士に問う。
「ところでギルディート、お前は炎系の攻撃は何か持ってないのか?」
正直、魔法剣士のステータス配分は難しいので、俺は物理特化だ。
使えない、という訳ではないが、MTL(精神力)を上げてないので驚くほど弱い。
ギルディートは通常攻撃以外を使っている様子がないので、どういったタイプなのかも分からないのだ。
「・・・・・・。」
なんだ?持ってるか、持ってないかで答えてくれればいいんだぞ。
ギルディートはそこそこ強いからな。
もし魔法剣士タイプなら、俺の弱すぎるスキルよりも断然、期待できる。
「冒険者にとってレベルやスキルは、弱点にもなれば切り札にもなるものなのよ。
そう簡単にホイホイ明かせるものじゃないわ。」
と呆れたように言うのはマリッサだ。
そういえば、たまにそんな事を言っていたな。
「あ、ああ。これから模擬線をする相手に見せたくない切り札の1つや2つ、あるというもんだ。」
持ってるんだな。「じゃぁ使えよ」と言いたい所だが、見せたくない切り札なら、俺にだってある。
「使えよ」と言われても、絶対に拒否する。そんなレベルだ。
自分がやれと言われてできない事を、他人に求めるのは好きじゃない。
「なら仕方がないな・・・。」
俺は考える。
あのモンスターはどうすれば倒れるのか?爆発させれば倒れる。
何故か?粉々になったモンスターの体が焼けて消し飛ぶから。
焼けて消し飛ぶなら、爆発ではなくてもいいはず。
炎の剣撃。これがあれば倒すこともできるかと考えたが、使えないのならば仕方がない。
それに、ギルディートのMPだって無限では無い。
「失敗しました。」で済めばいいが、下手をしたら死なせてしまうかもしれない。
相性の問題かもしれないが、俺のレベルで歯が立たなかった相手だ。
どれだけのポテンシャルを秘めているのか、想像も付かない。
相手はカビのモンスターだ。
土が渇ききるまで、切り刻み、炎を当てていれば、いずれ倒せるだろう。
「よし。これでいこう。」
と剣を握り締めると、ピコピコと落ち着きなく動いていたギルディートの耳が、へにゃっと下がった。
どうした。
「実は張り切っていたみたいよ。
勿体ぶってみせたら、別の方法になりそうだから残念がっているのよ。」
「ち、違っ」
マリッサに言われ、ギルディートは片耳を震わせる。
未だにその耳のパターンが読めないんだ。わかったら面白そうなんだけどな。
「でも、ごり押しするほど自信もないから、リフレが決めたやり方の方がきっと確実なのよ。
だから、残念がってはいるけど、ホッとしてたりもするのよ。」
目を白黒させているギルディート。
その気持ちはわかる。俺もよく読まれるんだ。
「確実かどうかは終わってからわかることだ。やる前からの確実なんてない。
だから、切り札を晒したくない気持ちはわかるが、準備だけはしておいてくれないか。
俺は、魔法剣士タイプじゃない。
魔法系のスキル攻撃をするくらいだったら、物理の通常攻撃をした方がマシなくらいだ。
だから、いざという時は、頼む。」
ギルディートは真剣な顔になって頷いた。うん、ちゃんと耳も立っているな。
本当にいざという時は、俺も切り札を使わないといけないんだろうか。
俺の作戦、ギルディートの切り札、それでもダメなら・・・・・。
俺の作戦を話すと、2人は顔をしかめた。
あまりに場当たり的な作戦だからか。運の要素もある。
しかし、他に案がないので反対意見もない。
「じゃぁ、スザクのいる部屋で待機していてくれ。」
2人は神妙な顔で頷いた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・。
俺が、泥ポリーム(暫定)のいる部屋の扉を、そっと開く。
いきなり全開にしたりしない。5cm、10cm。そんな感じで、そっとだ。
そして覗き込む。
「・・・・・。」
いない?
扉にへばり付いてたりしそうだと思っていたが、あっさりと開いたので拍子抜けする。
設置したトーチに照らされた部屋の異常は、特に見られない。
もっとよく見るために、身を乗り出す。
壁、床、天井も・・・異常は・・・
「んぐっ・・・・・!!!」
俺は、突如として湿った土・・いや汚泥に捕らわれた。
一体何処から!?
スキル:乱舞!
泥ポリーム(暫定)を吹き飛ばすが、体に絡み付いてやがる。
ローリング。床を転がり、位置を変える。床との摩擦と遠心力で、少しだけ泥が取れる。
見ると、奴は扉側の壁に張り付いてやがった。最悪だ。
「ふん!」
鼻に進入してきた泥を、鼻息で吹き飛ばし、できるだけ五感に関係のある場所を拭ってキレイにする。
目と口は何とかなった、鼻もいける。問題は耳だ。
まだグズグズと俺の体内に侵入しようとするそれをほじくり出す。
動ける大きさとかがあるんだろう、動きは無くなったが、まだ完全に取り出せてはおらず、聴覚が怪しい。
これ以上下手にいじっても、逆に耳の奥に泥が入って仕舞うかもしれない。それは怖い。
何が最悪って衛生状態だ。相手はカビな上に、アンデッドエキス入りだ。
エキスどころか、そのものが入ってるわけだが。・・・うう、込み上げる程度には臭い。気分も最悪だ。
召喚:ましゅまる
「グエエエエエ・・・・・・・・・ェ?」
なんだ、その反応は。俺が泥だらけだからか?
ドラゴンの“きょとん”とした顔なんてレアかもしれない。
さて、久しぶりの戦闘だ。ほら、お前の炎が頼りなんだ。いいから炎を吐けよ。
状況を把握しようとしているのか、挙動不審に俺と泥ポリーム(暫定)を見比べるましゅまる。
なんだ?腹でも減ってるのか?
戦闘をする態勢になってもらわないと困る。俺は、ましゅまるに近付いた。
瞬間、炎のブレスが炸裂した。
・・・・・・俺に、だ。
汚物は消毒されます。