遺跡の攻略 ~二日目 後編~
扉を開けると、そこは暗い部屋だった。
侵入して様子を見る。
・・・何もいない、のか?
祭壇のようなものがある。
「・・・・・。」
また何か、声が聞こえるかと思ったが、何も聞こえなかった。
爆発の勢いで壊れた・・のかな?
粉塵爆発は最高の条件で起こったのだろう。
地の見えなかった天井や壁が、ちゃんと石の色をしている。
あのモッサリした物体はどこにも残っていないように見えるし、あれだけした臭いも、今は控えめに残っている程度だ。
いや、爆発しても臭ってくるだけ、しつこい発生源でもあるのか?
俺は、爆発の勢いで火が消えたと思われるトーチを拾い上げた。
何も起こらない。
異常なし、と2人を呼ぼうとした時、部屋の4隅にある穴から黒い土が放出され、祭壇の下から真っ黒なカフが現れた。
土が人の形に変わっていく。マッドゴーレムだ。
そういえば守護者がいたか!
俺はトーチを片付け、大剣を構える。
「やるぞ!」
声をかけると、2人は待ってましたとばかりに部屋に飛び込んできた。
その守護者・・カフとマッドゴーレムは、他のと様子が違った。
「固いわ?!」
ペタン、という音が鈍く響き、マリッサの鎚がマッドゴーレムの胸部に当たる。
しかし、これまでのような手ごたえは無く、浅く窪んだダメージの痕跡さえもすぐに再生する。
「重いっ」
ギルディートも違和感を感じたようだ。
いつもなら切り裂いている筈の剣がマッドゴーレムの胴体に食い込んで止まっている。
舌打ちをして引き抜いた。
そして俺も・・・。
「何だ、こいつ!臭っ?!」
俺が戦っているカフはアンデッドモンスターである。
右の部屋のアンデッドは、乾いた感じ・・どちらかというとスケルトン寄り?だったのだが、こいつは湿ってる。
言うなればゾンビ寄りだ。こいつから凄まじい異臭が漂ってきている。
コイツラの謎強化は、おそらくクラポリームの仕業だ。
カビた食べ物ってだいたい柔らかくなると思うんだけど、土が相手だと違うのか?
カビがつなぎになる、なんて聞いたことも無ぇぞ?!
「腐ってやがる・・。カビ過ぎたんだ!」
2人の反応は・・無い。
戦闘に一杯一杯だし、臭気は俺だけじゃなく2人にも届いているはずだ。口を開きたくないのもわかる。
そもそもネタを知らないのだから仕方が無い。
何と例えればいいのか分からない臭い。嗅いだだけで鼻から腐っていきそうだ。
こんなのはさっさと倒してしまうに限る。俺は自棄気味にカフを切り倒す。
お、こっちは堅くなっているということも無かったみたいだ。むしろ、気持ちが悪いくらいに柔らかい。
頭が吹き飛んでも動きを止めなかったカフを、輪切りにしてやった。
大きな断面をいくつも晒して倒れたカフの死骸は、異臭を超えて激臭である。
ただでさえも臭い部屋が、半分溶けたような死体のせいで異空間だ。
「うぶぉぇっ」
今、嘔吐いたのはギルディートだ。決して俺じゃない。
わかるよ。俺も吐きそうだ。
この異臭はおそらく、切り刻んだ俺のせいなので、消臭になればと教会で仕入れた聖水をかけてみた。
うーん?効果はいまひとつのようだ。
正直、この部屋から出て戦いたいが、それはできない。
こいつら、隣の部屋まで追って来ないのだ。
さっさと倒してしまうに限ると思い、残りのマッドゴーレムを倒していく。
そろそろ休憩を入れてもいい頃だろう。了解を取って、2人と戦っているマッドゴーレムも横からかっ攫った。
残念なお知らせがある。
それで終わらなかった。
「$◇ロロ|ァ▼*@ヲ→□○?#リ」
黒い床の土が盛り上がり、今倒したマッドゴーレム達を飲み込む。
現れたのは、黒い土の塊としか言いようの無い、不気味なモンスターだった。救いなのは、ちょっと匂いがマシになった・・ような気がすることだ。
鼻が麻痺しただけかもしれないが、あの腐った死体が土に埋もれた分、戦い易くなった。
と思った時期が俺にもありました。
「退くぞ!」
土が厚過ぎる。
刺しても斬っても潰してもダメージらしきダメージが通ってない。
それで、どこかにコアがあるタイプだと思ったが、大き過ぎて弱点が見つけられない。
弱点ごとすり潰してしまえば問題ない、と思ったのだが、俺のスキルでも倒す事ができなかったのだ。
隣の部屋まで出て、驚愕した。
追って来やがった。
「次の部屋で扉を閉めるぞ!」
退いてばかりな気がするが、打つ手が無い以上、仕方が無い。
再び、俺達は最初の部屋まで戻る事になるのだった。
・・・・・・・・。
「コケ。」
スザクが「お帰り」とばかりに挨拶してくる。
ごめんよ、次は多分、ここが戦場だから遺跡の外に居てくれるか?
うん?そっちの部屋で待つのか?
何かあったら逃げ道が無いんだぞ。隙を突いて逃げられるか?
さて、手も足も出なかった俺たちの間に流れる空気は、重い。
しかし、そんな重苦しい空気は長く続かなかった。
「・・・どうする?」
そりゃ、黙ってる間に事態が改善するなら、冒険者なんぞ易いもんだ。
ギルディートはそれがよくわかってる。
しかし、どうする、っつってもなぁ。
「そもそも、奴に弱点はあると思うか?」
俺が聞くと、2人は黙り込んだ。
何度かスキルを叩き込んだが、それらしき物は見当たらず、ダメージ効果の程は疑問であった。
奴は、クラポリームが土と混ざったようなモンスターだ。少なくとも俺はそう思う。
クラポリームは、マッドゴーレムと違ってコアを潰せば倒せる、というタイプでは無い。
全身を叩き潰すか、燃やす事で倒す事ができる。
しかし、あの湿った土は火に強い。弱点の1つが無くなった事になる。
じゃぁ、粉々に粉砕する?それはもう試した。
範囲攻撃スキル:乱舞も、単体攻撃スキル:千斬乱衝もだ。
それは、あの巨体を持ってどんどん回復してしまうのだ。
斬った土くれが、地面に落ちるだけで再びくっつき、戻っていく様子は、見ていて物悲しいものがあった。
「さっきやった粉塵爆発は?使えないのか?」
ギルディートが聞いて来るが、そのダメ元で聞きましたって耳をやめろ。まぁ無理なんだけどさ。
「使えないな。理由は色々あるが、分かり易く説明すると・・。
あいつは湿った土の塊だ。可燃性の粉塵じゃないと粉塵爆発は起きないんだ。
で、仮に起こったとして、粉塵にするまで斬り刻むのは不可能だし、誰がやるんだ?
俺だって、巻き込まれたらタダじゃ済まないだろうしな・・・。」
粉塵爆発は無理として、だ。
爆発、か。
確かに、クラポリームには炎が効果的だった。
粉々にして、炎を当てれば、爆破とはいかないまでも、それなりのダメージが与えられるんじゃなかろうか?
「「え、リフレってダメージ食らうの」か?」
お前らは、一体俺を何だと思っているんだ?