遺跡の攻略 ~二日目 前編~
全員の意見が一致して、このまま進む事になった。
というのも、おそらくこの左側、右側と造りが変わらないはずだ。
本命は中央の部屋と考えるのが自然で、だとすると進むには、こちらの仕掛けも動かしておく必要がある。
昨日、見つけるだけ見つけて放置していた窪みにトーチを差し込む。
カチリ。
扉を開けば戦闘開始だ。
うん?戦闘開始?
暗い部屋。
そもそも、なんで俺ここに来たんだっけ?
遺跡がどうなってるかちょっと確認するつもりで来ただけだったよな?
なんで本気で攻略しようとしてるんだ?
だって、ここでの戦闘って・・・・
「うやぁああああぁぁああぁあああアァアア゛ア゛ア゛!!!」
「馬鹿なのよ・・」
その部屋は虫部屋だった。
マッドゴーレムさんどこ?といった感じの虫部屋だった。
モンハウ?そんな生易しいもんじゃないね。
虫かごに虫を目一杯ぶち込んだらこうなった、そんな感じの部屋だった。
ただし、虫かごに入れたくなるような可愛い虫など一匹も見当たらなかったが。
異臭。ツンとした酸っぱい匂いと、水場で何か有機物的なモノが枯れ腐ったような匂いと、工場とかで感じるオイルのような匂いと、カビの匂いと、残飯の匂いと・・・・・。
とにかく様々な匂いが組み合わさった異様な匂いが、まず俺を襲った。
そして、スザクさんが頭の上から落ちた。
クラポリームというカビ系 (おそらく)モンスターの毒素にやられたのだ。
慌ててスザクさんを抱え、撤退する。
カビが宙を舞い、フシムシ(ムカデ)が身をよじり、クロゴッキー(G)が犇くその部屋でマトモに戦える気がしない。
「うぷ・・ おげ・・」
そして嗅覚と視覚に入ってはいけないモノが「これでもか」と入った為、俺は戦う前から満身創痍だ。
俺の・・恐らく青褪めた顔を見て察したのだろう、2人が気を引き締めた表情をする。
そして、瞬間。
部屋から夥しい数の虫達が飛び出した。
「スザクゥウ!スザクさぁぁん!!」
「なんで『さん』付けなんだよ。」
半泣きの俺に冷静なツッコミが入るがそれどころじゃない。
拾い上げたスザクは、少しの間、痙攣をしていたが、直ぐに動かなくなってしまったのだ。
「ああああああああああ!!」
HP回復薬も効かない、万能薬も効かない、蘇生薬・・おお、生き返った!
「コケェ。」
わかった、わかったから静かにしてろ。
スザクが倒れたのは俺のせいでもある。
部屋に同時に入った俺とスザクに、ヘイト・・つまり敵の視線が分散したのだ。
スザクが倒れた時点で、ヘイトは完全に俺だけに移ったはずだが、毒ガス攻撃ならば周囲も巻き込む。
油断はできない。
左手にスザク、右手に大剣。
片手で持つような剣じゃないので厳しいが、守り抜いて見せよう。
相当な数なので苦戦するかと思いきや、マリッサは武器の持ち替えを使いこなし、クロゴッキーはナイフで次々と引き裂き、フシムシは槌で叩き潰す。
マリッサの戦力化でギルディートが翳んで見えるようだが、ギルディートも相変わらず安定して狩っている。
で、俺だ。片手でも敵が脆いので火力は何とかなっている。が、速度が落ちてしまった。
そもそもこのキャラは単体特化だ。こんな数を相手に立ち回るようにできていない。
スキル:乱舞
だめだ、これ。最初に放ったスキルぐらい酷いかもしれない。
単純に考えて、剣を振り回す速度が半減しているので、集団に対して波状攻撃を仕掛ける間隔が遅く、範囲が狭くなり、結果、殲滅力が落ちてしまったのだ。
そもそも、スキルを使わなくても剣を振るえば、複数を倒す事ができるのだ。
現状、通常攻撃に毛が生えた程度の威力しかない上に、スキル後に体制を整える、所謂「スキル硬直」を考えると、スキルのうまみが全く無い。
「きりがないのよ!」
俺の殲滅力が落ちた上に、数が多過ぎるのである。
マリッサが文句を言うのも無理は無い。
だが、状況が変わった。
俺の腕の中でぐったりしていたスザクが、元気になったのか、俺の頭の上のポジションに戻ったのだ。
よし、押し返すつもりで行くぞ。そう思った時、部屋の扉からゆっくりとクラポリームさんが顔を覗かせたのが見えた。
「退け!クラポリームだ!」
2人を前の部屋・・つまり最初の部屋まで撤退させる。
最後に俺が出る。そして、俺 (達)を追って来るモンスターを入り口で迎え撃った。
こうなれば、昨日と同じパターンである。
俺が殲滅し、2人が取りこぼしを片付ける。
しばらく戦ううちに、最初の部屋まで出てくる虫モンスターは減っていった。
「・・・。山は越えたか。」
俺達は、会話をする余裕ができていた。
そして、スザクをマリッサに預ける。
動きが鈍いとはいえ、クラポリームがこちらの部屋まで出てくるのは時間の問題だろう。
俺がまず先行して・・・。
「いい?ここで大人しくしているのよ。」
ちょっとぉぉおおお?!
何いきなり置いて行こうとしてるんですか、あなたは?!
「・・。どう考えても邪魔なのよ。安全な所で大人しくしていてもらった方がいいわ。」
それはそうなんだけどさ!それはそうなんだけど!
スザクと一緒に待機してて欲しいなって渡したんだよ。
クラポリームは経験値を稼ぐ相手としてはリスクが高過ぎる。
「危なかったら後ろで待ってる、なんて真似は嫌なのよ。
もちろん、逃げるしかない時もあるのだろうけど、倒せる相手を前にいつまでも逃げているのは違うわ。
そんなことをしていたら、いつまで経っても成長できないのよ。」
正論だ。ギルディートも頷いている。
言っている事はわかるが・・・
「相手は毒系って言っても胞子っていうか・・・吸ったら病気になってしまうガスみたいな粉を出すんだ。
できれば戦わない方が良いし、経験値なら他のモンスターでも稼げるじゃないか。」
ゲーム上では単なるの毒の状態異常だったが、現実の世界でどう作用するのか分からない。
レベル的に、俺はクラポリームからの毒は食らう危険性が少ないし、万能薬もある。
が、マリッサの場合は違う。良くて適性レベル、悪ければ・・いや、ほぼ間違いなく格上なのだ。
「成長っていうのは、経験値だけの問題じゃないわ。心の在り方の問題なのよ。
心配しないで。貴方のように珍しい薬はないのだけど、毒消し草と解毒薬を持って来たわ。
毒消し草を噛みながら行けば毒にかからないし、かかっても解毒薬で対処できるわ。」
マリッサがアイテムを見せ付けるように出して見せる。
退く様子がなく、何とかしてくれと抑止力を振り返ると、ギルディートも同じアイテムを持ち、胸を張っていた。