遺跡の攻略 ~二日目準備~
いつも通り、遺跡に向かう。だが、“いつも通り”ではない事もあった。
体感だが、少しだけ早く着いたかな?
「ふふ、レベルが上がったのよ。」
なるほど、AGI(敏捷性)が上がったのか。
そして、マリッサが装備し直したそれは・・・。
「お、槌か。」
「これで、あのマッドゴーレムのコアを砕けるのよ。」
ビュッと振って見せてくれたが、STR(腕力)は充分足りているようだ。
今まで装備してなかったのはAGI(敏捷性)が下がるからか。
よく考えている。
「さて、今日も頼むぜ。」
ギルディートから渡されたのは、風の魔道具だ。
最初の警戒心はどこへやら。尖った感じもなく、マリッサとも仲良くやっている。
話題が「リフレって変な奴」なのは、共通の話題が無いせいだと信じたい。
和気藹々(わきあいあい)としていて、空気がいい感じだ。
で、問題は・・・
「コ、コ、コ?」
こいつなんだよなぁ。
「さすがに遺跡は危ないと思うんだ。ここにいてくれないか?」
移動中、置いて行かれる事を嫌ったこいつは、俺の頭の上を定位置に定めたようだ。
タオルを敷いた桶を置いたが、置いてけぼりにされるとわかるのか、頭の上から降りようとしない。
頭装備のおかげで、しがみ付かれても痛くはないが、戦闘中にまで気を使ってやることはできない。
「遺跡には、毒ガス系と思われるモンスターがいて、物理攻撃を弾くだけじゃ守れないんだよ。」
言い聞かせてみるが。
「さすがに、コッコ鳥には難しいと思うわよ。」
「赤ん坊に数式を語るぐらいの暴挙だな。」
返事をくれたのはマリッサとギルディートだった。
真面目に動物に語りかけてるのを見られるのは、ちょっと恥ずかしい。
しかし、「赤ん坊をダンジョンに連れて行くわけにもいかないだろう?」と言ったら、
「そもそも、コッコ鳥をペットにしてフィールドに連れて来る時点で色々おかしい」と反論された。
・・・そうかもしれない。
2人は、置いて行こうが連れて行こうが、「どちらでも構わないけど早くしろ」といった感じだ。
わかったよ!やってやんよ!スザク、絶対に頭の上から動くなよ?
ともかく、俺たちは遺跡の前までやってきた。
岩と土をどける。面倒な作業だが、スタンピートを引き起こすような遺跡だ。
これぐらいやっておいて困る事は無い。
中に入ると、トーチは灯ったままだった。
燃料ならとっくに切れているはずなので、遺跡の何か不思議力が働いているのだろう(適当)。
「続きからだな!」
いや、その前に、今までクリアした部屋の確認である。
出鼻を挫かれて嫌そうな顔をするギルディートに、「挟み撃ちって言葉を知っているか?」と聞いたら、素直になった。
心当たりでもあったんだろうか。
とはいえ、既にどんな部屋なのか知っているので、俺は先行せずに2人に任せる。
昨日のはハッキリ言ってパワーレベリングだ。
命が懸かっているので仕方ない部分もあるだろうが、長期的に見て2人の為にならない。
だいたい、初心者がパワーレベリングでレベルアップすると、狩りが面白くなくなったり、自分の力で狩るのが面倒になったりしてゲームを止めてしまう。
上級者に頼りきりになるのもまずいし、何よりそれは楽しくない。
適度な緊張感を与えてあげられればと思うよ。
右の部屋。扉は開け放たれている。
どこに隠れていたのか、数体のGさんと、マッドゴーレムが半数も無いほど復活していた。
俺抜きで2人が対処した。
マリッサはGを叩き潰すと共に、マッドゴーレムとも戦った。
粉砕とはいかなかったが、まるで餅つきのようにペッタンペッタンと叩きまくり、変形して露出したコアを地面に叩き落して破壊していた。
昨日よりも戦えているな。
ギルディートは安定している。ちゃんとマリッサのフォローも出来ていたし、言う事なしだ。
「モンスターが少なくて物足りないくらいだ」などとほざいたので、「俺のポジションで未踏の部屋を先行してみるか?」と聞いてみた。
色々危ないとは思うが、もしやるとなればフォローぐらいはしてやろう。
俺だって好き好んでやっているわけでは無い。代打が居るなら代わって欲しい部分だ。
無言で首を左右に振られた。・・ですよね。まぁ高慢になったり油断したりしているわけでは無さそうなので問題ないな。
「前哨戦としてはまずまずね。」
成果を上げたマリッサが、満足そうな顔をしている。
いや、そうなんだけど、その・・槌が大変な事になってるよ。
謎の固体とか液体とか・・・。ちょっと近寄って欲しくないなぁ。
そしてスザクさん、頭の上から降りない!Gは食べ物じゃありません!
突くな!・・うわぁ・・・。いや、もう戻って来なくていいよ。
いいから!もう、だから留守番してって言ったじゃないか!
奥に進み、祭壇の前でも戦った。内容は前の部屋と同じ。Gさんがいて、マッドゴーレムがいて。
あ、カフ(アンデッド)は出なかったな。
昨日のように声が聞こえるでもなく、トラブルもなく、順調だ。
相談と雑談をしながら最初の部屋に戻る。
中央の部屋は、Gさんの卵を焼き払う為にトーチを置いて扉を閉めている。
おそらく燃料が尽き、トーチは消えているだろうが、どうなっていることか。
左の部屋は奥の扉を前にして引き返したので、まず、昨日行ったところまで行こう、という話だ。
先行した2人に続いて、俺も部屋に入る。
左の部屋は・・・汚ったないな!
カビのしみだらけで、なんか臭いし、じめっとしている。
風の魔道具さんが仕事をしてくれているので幾分マシだが、これが無ければどれだけ空気が歪んでいたことか。
「・・・コゥ・・。」
動物にもこの不快感は伝わるらしい。
嫌そうな声を出している。
「ここからが本番だぞ。本当に大丈夫なのか?」
スザクは答えないが、頭の上で身じろぎしたのがわかった。
本当に、こいつはどの程度まで人の言葉がわかるんだろうか?
さて、この部屋に残党のモンスターも、復活した守護者も倒し終えた。
あとは中央の部屋に行くか、このまま進むか、だ。