ペットって何なの・・
もこもこの空腹を癒している間、ギルディートに精霊獣の詳細を聞いたが、詳しいことはまるでわからなかった。
と、いうのもものすごく抽象的な存在だったからだ。
「精霊は影であり鏡である世界にある」だとか、「精霊が見い出した者の元に肉の器を遣わせる」だとか、「試練を乗り越えた者だけが、精霊の選定の儀を受けることができる」だとか。
話し方がぎこちない事から、借りてきた言葉である事が分かる。
説明してる本人でさえ、よくわかってないだろう。
「うちのペットがそんな大した存在な訳ないだろう。」
というのが俺の感覚だ。
ペットを手に入れるには、ペットにしたいモンスターの討伐数を稼ぐ必要がある。
その後、現れるボスモンスターを倒すと低確率で出てくる、所謂レアドロップの卵を孵すとペットになる。
売却不可で、「ペットは使えない」とされている今、ゴミレア扱いだ。
得た卵から孵るのは、倒したモンスターと同じ外見のペットである為、今まで普通のモンスターだと思ってたくらいだ。
ただ、卵の名称など「そういえば?」と思える事柄があるので、絶対に違う、とは言えないわけだが。
魔族やエルフならこの“精霊”という存在を敏感に感知できるのだという。
「実際に『精霊獣だ』と感じたのは初めてだが、間違いないだろう。
何しろ、魔族とエルフは“精霊樹”を巡って争った仲だからな。」
なんかまた気になる単語が出てきたぞ。
聞き間違いじゃなければ、精霊獣じゃなくて精霊樹って言った。
「精霊樹?」
精霊獣も、精霊樹も、ゲームでは出てきた事が無い。
大樹の町はいくつかあったが、そのどれかが精霊樹なんだろうか?
「精霊樹に触れた事がないのか?」
驚いた顔をするギルディート。
聞くと、精霊樹に触れることで精霊との親和性が高まり、呼びかける事ができるのだという。
精霊獣と一緒にいる俺が見た事も聞いた事もないとは思わなかったらしい。
「まぁ、精霊樹はエルフ・・か魔族が厳重に管理してるからな。そう簡単に触れられるはずもないんだけど・・」
ふむ。
まぁとにかく「ペット=精霊獣」で「精霊樹が関わってるかもしれないが、無関係でもペットにできる」ということか。
いや、ほとんど情報増えてないじゃん!
ものすごく興味ありげだし、ペットを手に入れる方法をレクチャーしてやってもいいかなと思ったが、この世界のフィールドモンスターの“沸き”事情を考えるに、厳しいかもしれない。
レベルも、ペットにしたいモンスター・・じゃなかった、精霊獣もわからないからな。
とか考えているうちに、もこもこの状態が[普通]になっている。
「そうか。じゃ、今日は明日も早いし、今日は寝るぞ。」
ちょっと遅い時間だ。さっさと休もう。
俺は、もこもこを送還してコランダに向かった。
「え?あ、ちょっと!」
もこもこが消えたのを見て驚いたのか、それとも会話を切り上げたのが唐突だったせいか、ギルディートは慌てた様子で俺を追ってくる。
こいつ、割と足が速いんだよなぁ。隠れて何かするとしたら、次はどこまで行けばいいんだ?
町に戻ると、鶏の脚をを掴んで逆さ釣りにした男と数名が、なにやら話し込んでいた。
駄目だのなんだのって、何かトラブルか?
「・・・コケ ェ・・・・。」
鶏は生きているようだ。俺を見て悲しそうな声を搾り出す。
[グリル]
「俺のペットか!」
咄嗟に叫んだのを聞き、男達が振り返る。
ペットじゃなかった、この町の鶏だった。
「やっぱりあの時のコッコ鳥じゃねーか。
ほれ見ろ。リフレのペットだってよ。散った、散った。」
飲んだくれのオッサンに言われ、残念そうに解散していく男達。
ポイっと鶏が放たれ、グリルは全力で俺の脚にしがみ付いて来た。
「え?えっと何かあったんですか?」
俺が問うと、
「持ち主不明のコッコ鳥が、町の中をウロついてるって話でな。
持ち主が現れなかったら食っちまおうって、相談してたところだ。
さっき、塒にしてた壁の穴から引っ張り出して捕まえたんだよ。」
と教えてくれた。
なるほどなぁ。食われるところだったのか、お前。
「名前も[グリル]だしな。気になってしょうがない奴も多かったんだ。」
なんだあれ?と見てみると[グリル]と出るわけか。
それは全力ですまんかった。丸焼きよりはマシかなと思ったんだ。
「まぁ、これに懲りたら、良い名前と・・何か印でも付けてやるこった。」
印か。ちょっと考えておこう。
ちょっと大きい町なら、ペットに付ける目印を売っているらしい。
なるほど。だけど、たかが目印なのに買うのはなぁ。
・・って何で飼う気になってんだ?飼わないよ。
俺の見てないところで適当に丸焼きでもグリルでもしてくれ。
しがみ付くな。情が移ったらどうしてくれるんだ。
飲んだくれのオッサンと別れて宿に向かおうとすると、ギルディートがまたジットリ俺を見上げてるのに気が付く。
なんだよ。
「お前、何でもペットにしちまうんだな。」
何でもはしないよ?
「あとネーミングセンスが酷いな。」
放っておけ。
グリルが宿まで付いて来る。まったく、しょうがないな。
何かこう、格好いい名前をつけてやるとするか。
鳳凰とか朱雀とか?和名はちょっとな。フェニックス・・はこの世界にもいるし。
鳥の幻獣的なやつって他にいたっけな。ああ、ここにスマホがあれば・・・。
片仮名にしてみる。ホウオウ、ホーオー、スザク。
スザク。いいんじゃね?
「よし、これからお前の名前は[スザク]だ。俺の故郷の伝説の鳥だぞ。」
「コケェ!」
こいつ、本当に意味がわかってるのか?あと煩い。
「みんなが寝てる時間だから静かにしろ。」
「・・・。」
マジで言葉がわかるんじゃないか、こいつ。
宿の前に来ても離れようとしないで付いて来る。
さすがに宿に入れるわけには・・。入れちゃう?
「でもお前、ちょっと臭いんだよなぁ。」
「コォォ・・。」
とりあえず、盥にタオルを入れ、スザクを乗せてみた。
大人しくしている。
「うーん、お前が賢くて飼えそうだったら、本気でペットにするわ。」
とりあえず女将さんにスザクを部屋に入れる許可を・・って寝てるかな。寝てるよな。
背後のジト目を無視して、俺は宿へと戻るのだった。