もこもこペット
夕飯を終え、ギルディートが部屋に入ったのを確認して外に出る。
誰も付いてきてないのを入念に確認して、東の森に向かった。
適度に奥に踏み入る。
おし、ここらで良いな。
CC:リーフレッド
召喚:もこもこ
リーフレッドという名の大剣キャラは全部で3体。
メインで252レベルのキャラのペットは“ましゅまる”。
サブ鯖で152レベルのキャラのペットは“もふもふ”。
そして、他のサブ鯖で125レベルのキャラのペット、“もこもこ”である。
「メェー。」
そして羊である。
おいしいサラダを提供したが、目に入っていないようで、その辺の草を食み始める。
そうね、草食の場合は用意する必要無かったね。
[レベル:6 好感度:4 幸福度:9 状態:空腹]
[もっと面倒を見てあげて!]
まさかの1桁である。
サブ鯖キャラは、そのサブ鯖に誘ってくれた人があまりログインしなかったりで、活動がつまらなくなってメイン鯖に戻ってしまった、という経緯を持つ。
もし作ったのが大剣キャラ以外だったらクランに勧誘されて戻れなくなったかもしれない。
ちなみに、その鯖に作った倉庫キャラは勧誘された。
勧誘した奴に「これ倉庫キャラなんです、メインは大剣なんです。」と返事をしたら、曖昧に話を誤魔化して、去って行ったな。
・・・・・。
めったにログインしないから、ペットの状態を示すウインドウが注意喚起してたのも無視していたかもしれない。
ペットの為に餌アイテム用のモンスターを狩るのも面倒だったし。
いや、最後に見た時は2桁あったんだよ!多分。
機嫌を直してもらおうとブラッシングをしたりしたが、草に夢中で気付いてもいない様子だった。
めげずにブラッシングを続けていると、もっさりしていたモコモコが、ふんわりとしたモコモコになる。
さて、食べ終わったら送還しよう。
・・・。
もぎゅもぎゅもぎゅ。
・・・・・。
むしゃむしゃむしゃ。
・・・・・・・・。
・・・。
いつまで待ったら食べ終わるんだ???
[レベル:6 好感度:4 幸福度:11 状態:少し空腹]
「メェ~。」
ゴメンて。
飯を食って、少しだけ幸せを感じてくれたのか、ギリ2桁まで回復していた。
状態が普通以上じゃないと、幸福度って上がらないんじゃなかったっけ?
ともかく、せめて状態が普通になるまで待ってやろうと思った。
・・・・・。
「で、いつからお前はそこにいたんだ?」
またもやギルディートである。
後を尾けられてはいなかったと思うが。
「なんかブラッシングしてたあたりから。」
ふむ。
「今日は火は焚いてないわけだけど、どうやってここまで来たんだ?」
森は広大である。
場所も昨日と違うし、当たりを付けて来られる場所では無いと思う。
その上、今日は目印もない。
「羊の鳴き声がしたから・・。」
あ、なるほど。
確かに、召喚した瞬間に鳴いたわ。
しかし、こう毎回付いてこられると、やりにくくて仕方が無い。
「どうして毎回お前は俺の後をついて来るんだ・・・。」
思わず口を付いて出もするというものだ。
俺にその尖った耳が付いてたら、下を向かせているところだろう。
「昨日は、何ていうかあんまり信用して無かったっていうか・・。今日は、また何か面白い事をしてるんじゃないかと思って。」
面白い事って何だよ。
「昨日は信用してなかったけど、今日は違うんだからね!」とでも取ればいいのか?
鍛冶は何かしら理由が無いとしないし、今後はもっと人の気配のない場所を選ぶつもりだ。
それにしても、同じリーフレッドで良かった。
さすがに何度も別キャラを目撃されたら、阿呆そうなコイツでも気付くことがあるだろう。
「俺を尾けて来ても、面白い事なんて何もないぞ。」
「えっ。」
・・・。何だ今の。
「俺を尾けて来ても、面白い事なんて何もないだろう。」
ふるふるふる。
Not?え、何?なんか面白いの?
その「予測してなかった事を言われた」みたいな跳ね上げる耳の動き、やめてくれません?
「何言ってんだこいつ」みたいな顔で首を横に振るの、やめてくれません???
「大体、これ、精霊獣だよな?」
What?俺は、もこもこを見る。スイープだよな。
あれ?でも、ペットに“フェアリーガーデン”に連れてってもらったりするよな?
フェアリーって精霊??妖精???
え?モンスター=精霊獣???まさか。そんな話は聞いたことがない。
スイープは、通称“牧場”と呼ばれる平原に生息するモンスターの1つだ。その可愛らしい外見に似合わず、不人気なモンスターである。
まず、アクティブモンスターではなく、睡眠の状態異常をかけてくるので、狩り効率がとても悪い事。
そして、ドロップが羊毛なのだが、他にも羊毛を落とすモンスターはいたりするし、レアが所謂ゴミレアというやつなのだ。
レアドロップは、ぬいぐるみ、睡眠薬、安眠枕、夢見の札である。
NPCの出すクエストに「寝つきが悪い子供のために、ぬいぐるみが欲しい」とか、不眠症のNPCが安眠グッズを欲しがったりだとかがあったりするが、「金で済ませられたら買いたい」程度には不人気だ。
で、俺はこの不人気モンスターを狩りまくった。
狩って狩って狩りまくった結果、“不眠症”などという称号をゲットするぐらいには頑張った。
別に夜更かししたわけじゃないよ?そこまでするほど友達の多い鯖でもなかったし・・。
ソロ向けのモンスターだし、競争相手がいないし、仲間もいなくて暇だし、このゴミドロップは高額にはならないものの確実に売れる。
時折、ボスモンスターが出たが、スイープよりちょっと強いだけのスリープというモンスターで、色と強さ以外に大した違いはない。
これを何体か倒して出てきたドロップ品が[夢の卵]・・・つまり、もこもこであった。
・・・ちょっと待てよ?羊が卵から生まれる?
確かにおかしい気がする。
ゲームの事だし、モンスターだからと気にしていなかったが、この世界のモンスターの生態は“元になった生物”に依存する。
鶏に似ているコッコ鳥は卵から生まれるし、フォレビーの生態だって蜂と変わらない。
卵から生まれるタイプの生き物と同じモンスターは、同じように卵から生まれてくるのは間違いないが、それ以外のモンスターはどうなんだろうか?
これを考えるには、この世界での知識も経験も足りない。だが、おそらく、地球上の生物とそう変わらないだろうと予測できる。
なら、羊が卵から生まれるのは、やはり不自然だ。
だいたい、[スイープの卵]や[スリープの卵]では無かった。
他のペットを思い出す。[龍の卵]、[氷河の卵]、[風の卵]・・・。
龍は生まれたペットそのままなんだが、このゲーム中で“龍”という名前のモンスターは確認されていない。
「○○ドラ」「○○リュウ」「○○ゴン」など、ドラゴン系モンスターは存在するが、考えてみると確かにモンスター名を冠した卵は1つも知らないのだ。
「え?何お前、精霊獣なの???」
思わず、もこもこに問うてしまうというものだ。
スイープの現物でも見に行ってみない事には、比べようも無い。
もちろん、もこもこが答えてくれるはずもなく。
「・・ンメェ~。」
もこもこは、「我関せず」といった感じで、忙しく草を食み続けるのであった。