モンスターハウス
虫注意。
二人は喜んで遺跡内を調べ始めている。
そんなに広いスペースではないので、2人が全ての扉を触ったり叩いたり、タックルしたりして先に進めないか調べている様子が見える。
俺はその間、手持ち無沙汰である。
手持ち無沙汰と言えば、トーチが邪魔だ。
あの劣化したフックに引っ掛けるの嫌だし、燭台?何かマイクスタンド的なものはないかな。
立てておけるようなやつ。
お。いい感じの窪みがある。刺さらないかな?
トーチを置くと、カチッとセットされたような音がして綺麗に嵌る。
まるで誂えたようだ。というか、トーチ用の窪みだったのだろう。
いい感じに遺跡内が照らし出された。
なるほど。
同じように、マリッサの置いたトーチも、入り口付近の窪みに挿しておいた。
どういう仕組みか知らないが、手に持った時よりもだいぶ明るくなった。
後は、扉を開く為の、何か道具とか仕掛けとかがあるはずなので、それを探さないとな。
そして、中央。入り口に一番近い扉の前のスペースに集合する。
2人とも、手掛かりは得られなかったみたいだが、よく調べて満足したらしい。
多少の落胆もあるのかもしれないが、いくぶん落ち着いたようで良かった。
こういうのは扉の模様が仕組みになってたりヒントになってたりするんだろうな。
俺よりも、この世界に詳しい2人の方が解き明かすのには向いているはずだ。
何か動かせるギミックや、魔法的な仕組みがないか、集中して見たり触って確かめる。
鍛冶キャラなら鑑定で詳しいことがわかるかもしれないが・・ここでCCするつもりはない。
俺が検証しながら意見を聞こうとした瞬間、パカリと扉が開いて、寄りかかっていた俺がつんのめる。
真っ暗な部屋。そう思った。違う、真っ黒な部屋だ、と誤りに気付く。
おっとっとと、体勢を立て直した瞬間、踏んだ足場に、何かあった。いや、いた。
硬いようで、踏みしめるとぐにゃりとした、黒い何か。それが床から、壁から、天井から・・・・・。
扉を開けた弾みか、ポロポロと落ちてくるそいつら。
そこにいた黒い生き物達が、一斉に俺に気付いたのだ。
そう、その黒い生き物のせいで、その部屋が距離感も掴めないほど真っ黒に染まって見えたのである。
黒い、長い触角の、あの、俺の苦手な、黒い奴・・・である。
そして、その大量のそいつらが、壁や床が崩壊でもしたかのようにゾゾゾと蠢いた。
「うやぁああぁぁあアァアアア!!!」
ちびりそうになった。
俺の悲鳴を聞きつけて、二人が駆け込んでくる。それに気遣う余裕なんて無い。
むしろ退路が2人に阻まれた形になるので、気が立って言葉が荒くなる。
「退け!部屋まで戻る!早く!」
なんで、よりにもよって
[クロゴッキー]
俺の苦手な昆虫、第一位がモデルになったモンスターがこんな大量にいるんだよ!
大量?大量なんてレベルじゃねーよ。なんだこれ。
だいたい、この部屋から出てくるのはお前らじゃないだろう?!?
飛ぶな!来るな!
俺は部屋の外に退いて剣を振り回す。が、虫が溢れてくる速度の方がはるかに早い。
部屋から出すまいとしたが、数が多過ぎる。取りこぼしを2人に任せる。
ギルディートも剣を振るいまくり、マリッサはクロスボウを仕舞ってナイフで応戦し始めた。
そのキャラってナイフ扱えたっけ?いや、ゲームじゃないんだから何でも扱えるか。
クロスボウは強力だが、装填(?)、発射までに時間がかかるのだ。
あ、それ俺がフォレビー解体のお礼にとさっき渡したナイフじゃね?
レベル18あたりに装備できるクロスボウくらいの攻撃力はあるのか・・・。
レベル帯は不明だが、マリッサでもガンガン仕留められているので、フォレビーとそんなに変わらない強さか?
だが問題はその数だ。一度に押し寄せる数が、フォレビーの巣の比じゃない。
どれだけ重なって生息してたのか知らないが、倒しても、倒しても、どんどん湧いてくる。
スキルを使い続ければわからないが、取りこぼし無く倒し続けるのは不可能だ。
俺の倒す速度も、2人の倒す速度も全然足りてない、取りこぼしの数がどんどん増えていく。
カサカサカサカサ!
ブゥン。
わりと飛んで来る奴が多い。
やめて!俺の(精神的)ヒットポイントはとっくにゼロよ!
ああ、何故俺は大剣キャラで挑んだのか。
ソロ特化のこいつじゃ即座に殲滅できない。
あっと言う間に、その部屋さえも黒い奴らで埋め尽くされた。
「帰還の札で町に戻るぞ。」
2人に声をかける。
もういい、コランダに帰ろう。そして、こんな遺跡、埋めてしまえばいいんだ。
焼き払っても問題あるまい。
「何言ってんだ。全然ダメージ食らってないじゃないか。どうして退く必要があるんだ?」
「リフレには悪いけど、私にとってレベルを上げるいい機会なのよ。我慢して欲しいわ。」
そう、ブラックゴッキーにターゲットされているのは俺1人だ。
だから2人は、俺に向かって群がるゴッキーを脇から減らしていっているだけなのだ。
余裕かよ!
「人事だと思って!俺は虫の中でもGだけは本当にだめなんだ!」
泣きそうである。
マリッサは哀れむような視線を、ギルディートは呆れるような視線を俺に送り、そして、綺麗に受け流した。
おぃいいいいい!?
受け流すな、真面目に検討して!帰ろう?!もう帰ろう???
ってか何で2人ともその虫まみれの床で戦えるんだ?足場も酷いし、何よりキモイだろ!
俺は最初に踏んで以来、鳥肌が一度も治まっていない。
涙を流せば視界が曇って敵が見えなくなるし、気を失ったらGまみれは必至だろう。
俺は、限界の気力を振り絞って応戦を続けるのであった。