アンタッチャブル?
問題は、ギルディートがどこまで見て把握しているか。だが。
「俺が見ても、わかることなんて何も無かったよ!鍛冶なんてやったこともないし。」
話を聞いた感じ、俺が怒っているのは“技術を盗まれる事”だと思っているらしい。
ちなみに、火炉がものすごく明るかったので、わりと直ぐに俺を見つけ、声をかけようと思ったらしい。
が、やっている事が鍛冶だとわかり、集中力を乱してはまずいと思ったので離れたところで待ってたのだそうだ。
そうか。夜に火を焚いてれば、それは目立つんだろうな。・・・・・盲点だった。
ものすごく明るかったということは、逆光でうまく影になったりしてたのか?
「それにしても、光の加減かしらねーけど、まるで別人みたいな雰囲気だったな。
俺の剣を持ってなきゃ、他人だと思って通り過ぎるところだったわ。
ってか、振り返るまで、ずっと他人かもしれないと思ってた。」
・・・・・。別人みたいなもんですけど何か?
なんというか、こう、色々とギリギリだった気がする。
もし他人だと思って通り過ぎ、その直後に振り返れば、俺の背格好と顔が見えただろう。
服は男物になっているが、色々と隠せないものがあるのも事実だ。
CCがバレる事は免れたようだが、今後は気を付けないとな。
「この事は他人に話すなよ。もし話したら、この剣を折りに行くからな。」
ギルディートはコクコクと頷いた。本当にわかってるんだろうな?
2つの剣を渡し、大剣を返してもらう。
大剣を渡していたのを忘れて、受け取りそびれるところだった。危ない。
受け取った剣を見て、ギルディートが
「俺、金なんて・・・。」
とお決まりの事を言い出すので、
「何の為に店を使わずに修理したと思ってるんだ?無料だ、無料。
あの遺跡に挑むんだ、明日の為の保険だよ。」
と言って安心させる。
本当は防具も何とかしたいが、時間がいくらあっても足りないし、材料も必要そうだ。
だいたい、靴なんて防具じゃなくてただの靴なんじゃないのか?
「とにかく、明日の為にもしっかり休め。
正直、その装備だとまだ不安なんだが、どうにもならなかったら帰還の札もあるしな。
何度も言うようだが、俺が修理したことは誰にも言うなよ?
ほら、帰るぞ。この辺じゃお前の脅威になるようなモンスターはいないだろうけど、油断して怪我をしても困るしな。」
ぼさっと突っ立ってるギルディートを町の方向に押しこくった。
試し斬りとか言うなら、明日にして欲しい。ほら、きびきび歩け。
宿に戻ると、女将さんが夕食を温め直して出してくれた。
ありがたい。さすがに追加注文はできないが、宿の食事はなかなかうまいんだ。
それに、「温めるだけだよ」なんて言ってたけど、まるで出来たてのような味と香りだ。
前に「貧相な食事で悪いね」なんて言うもんだから、「女将さんの作る食事はとても美味しいですし、作った人の顔が見える、というだけでご馳走ですよ。」と返したんだが、それから時間外でも出してくれるようになった。
今日は遅いからさすがに無理だろうと思ってたけど、非常に申し訳ない。
さすがに、こんな時間まで気を使うのはやめてくれと言ったが、女将さんは「無理ならやらないさ。暇な宿だし、アンタはいい客だからね。」と笑っていた。
ギルディートが羨ましそうにしていたが、お前はさっき食べただろう。
ってか、用がないならもう寝なさい。・・・うん?
「・・・なぁ。」
用があったらしい。余計な事は言い出さないよな?
俺は、返事はせずに視線だけ送る。
「俺の剣・・・プラス」
「ご馳走様でした。明日も今日のメンツで遺跡に行ってきます。
明るいうちに帰る事はできないかもしれませんが、夜には戻れるようにがんばりますので。」
ギルディートの言葉を遮る。鍛冶関係は喋ったら駄目だって言っただろ!
・・・。おし、察したな。
装備の修理もしたし、マリッサの保護者に明日の予定も話した。あとは寝るだけだが。
「・・・。なぁ。」
何だよ。あんまし他人に鍛冶の事は触れて欲しくないんだよ。
女性キャラだし、自分の女性バージョンなんてのは他人に見せたいものではない。
目の前でやってくれとか言われた日にゃ、羞恥で死ねる。
俺達以外に客は居ないはずだが、廊下で喋るのはよろしくない。
かといって、お互いの部屋に入るほど気の知れた仲間じゃないし、俺の部屋は俺のプライベートスペースとして死守したい。
よって、ここで話す事は何もないはずだ。
「余計な事は言うなよ?何だ?」
釘を刺しながら問うと・・・。
「・・・すまん。やっぱりいい。」
黙った。うん、わかったならよろしい。
若干、元気を失った耳を気にしたりはしない。
明日も発掘作業は残ってるんだ、さっさと休もう。
俺が部屋に行き、ドアを閉めるまで、ギルディートのもの言いたげな視線が追って来ていたが、鍵を閉めて寝ることにした。
朝のままテーブルにアイテムが並んでいるが、シーツは替えられ、布団は干されている。
こんな宿が1日2,000Dなんて、おかしいくらい安いだろう。
ナイフより安いんだぜ?
・・・俺は未だに、この世界の物価について、よくわかっていないのだった。