任務完了?(仮)
グズグズと渋るクラーケンさんを説得して姿を見せてもらうのに成功した俺は、今、その身に攻撃魔法を浴びせていた。
スキル:雷旋嵐×3
『おおおおっ・・!痺れるのぅ・・!もうちょっとこの・・殻の奥を重点的にやってくれんかの・・?』
殻。
そう、このクラーケンさんは殻付きだった。
そういえば、クラーケンって海の魔物って意味の未確認生物で、イカとかタコとかってのは想像上そう描かれている“事が多い”ってだけだった。
イカなのか?タコなのか?って疑問に思って調べた事あったんだけど、まさかどっちでもないとは。
ってか海の魔物って、陸の魔物と同じぐらい広い括り過ぎじゃね?
このクラーケンさんはオウムガイとかそういうのの仲間だったよ。
何度か試しに打たせてもらって、その反応から、全力でやっても問題ないという事が確認できている。
さすがはレイドボス。
スキル:雷苞弾×3
電撃なので内部に届くだろうと見越して、限定範囲魔法を殻に向けて叩き込む。
にょろっと放出された寄生魚。死亡、または気絶したものは体外へと放出する事ができるらしい。
鬼族の商人達が大量に集めていたので、もういらないかもしれないが、もし美味かったら勿体ないので手の届く範囲で回収していたら、クラーケンさんが水流を操って一か所に集めてくれるようになった。
非常に楽ちんである。
『良い感じじゃのう・・。しかし身体が茹だってしまいそうに熱いのぅ~。』
スキル:氷礫嵐
呑気に構えているあたり、おそらく命に別状はないのだろが、水中で威力の落ちる氷の範囲魔法を使い冷やしてやる。
多用するとこちらが寒くなるし、クラーケンさんを冷やせさえすればそれでいいので1発のみだ。
ついでに、おそらく大してダメージは与えられていないだろうが、何かの間違いで死んでしまっても申し訳ないので回復魔法を使っておく。
スキル:回復×5
『癒されるのぅ・・・・・極楽じゃのぅ・・・・・。』
まるでマッサージでもされているみたいな台詞だが、受けている魔法の殆どは攻撃魔法である。
初心者さんを攻撃(PK)できるようなシステムは無かったので実証は無いが、おそらくレベル30程度までの初心者さんなら大量殺戮できてしまうような凶悪なやつだ。
いや、今は装備が無いからもうちょっと威力が下がるか。それでも、低レベルのステータスや装備なんぞ誤差の範囲だから瀕死にはなるだろう。
どのみち、これだけの魔法を一方的に喰らわせていけば、初心者さんどころか格上だって、いずれは倒せてしまうだろう。
装備が整っていないのでMP回復が遅く、回復がてらに雑談を挟んだりした。
俺の身を包む気泡は、クラーケンさんが水を操る事で生み出しているもので、空気を操る能力は無いらしい。
あと、別に違和感が無かったので気付かなかったが、俺の首の後ろにクラーケンさんの触手が刺さっていて、それで意思疎通を図っているんだそうだ。
なんだそれ、めっちゃ怖いんですけど。言われたら気になってしまう。
神扱いされた時に、巫女と名乗る者達に対して何度も使ったスキルで、かなりご年配になるまで巫女を務めた方もいるそうなので人体に影響が無いのは確認済みだそうな。
しかし、途中で触手を引っこ抜いても大丈夫だが、無理に引き抜くと痛みを伴うので、クラーケンさんが接続を解除するのを待った方がいいとの事。
うん、気にしないぞ。俺の首の後ろには何もない。うんうん。
『久しぶりじゃったから、使い方を忘れかけておったがのぅ。』
洒落になってないからやめてくれ。
逆にスキル:回復で寄生虫が回復してしまわないのか?と質問が飛んできたので、ターゲットをクラーケンさんに絞っているから大丈夫な筈だと答えた。
範囲ヒールは味方限定で飛ばせたが、この世界の仕様がどうなっているかは分からないんだよな。
基本的に寄生魚はクラーケンさんの体内で見えないので、こっちで気を付けてターゲットしている限りは、間違えて寄生魚を回復させてしまう事は無いだろう。
ヒールは単体魔法だからな。
・・・何しろ見えてないので自信を持って答える事ができないが。
あと、魚貝類には痛覚が無いんじゃないのか?という質問には『あるに決まっておるじゃろう?!』とキレ気味に答えられた。
確かに生物として違う所が多すぎる為、“人間にとっての痛み”と“クラーケンにとっての痛み”が仮に別の物だと解釈したとして。
生命の危機を感じて身体が起こす反応には大差はなく、打撃や斬撃、怪我に対する拒否感、不快感、身体に走る嫌な感覚は確かにあるのだという。
『痛くないと思って足をブチブチ斬りまくっておったのか?!痛いんじゃよ、あれ。・・・そういえば、あの黒いのは一体何なんじゃ・・・?』
黒いのってクロキシ装備の事だった。CCも含めてややこしい話になるので、適当にはぐらかそうとしたが言及された。
クラーケンさんが積極的に噂話を広げる可能性は極めて低いので、念の為に口止めをして打ち明け話をする羽目になった。
一応、分かり易いようにたとえ話をしたり、分かり易い表現にしようと気を使ったつもりだが、そもそも人間ですらない相手に通じるように話すには、相当長い話になってしまった。
ようやく話し終えてみると、『よくわからんけど、大変じゃのう。』って、完全に他人事で興味ないじゃないですかーやだー。
雑談の話はさておき。
MPが回復するたびに同じ流れで魔法を繰り返す。
スキル:雷旋嵐×3
スキル:雷苞弾×3
スキル:氷礫嵐
スキル:回復×5
上記のコンボを反復しているうちに、寄生魚の放出が止んだ。
それでも念には念をとダメ押しの魔法を繰り返す。
そのうち、ペッペッと白っぽい丸い物が大量に吐き出された。ピンポン玉?と思ったが、これはもしや・・。
「・・・・・これは?」
『あの虫の卵じゃな。まぁ、もう生命力は感じぬが、体内にあると熱くての。』
クラーケンさんの卵では無いのか。
貴重なアイテムかもしれないので、これも回収しておく。
スキル:回復は単体への回復魔法だし、クラーケンさん以外には作用していない筈だ。
他は範囲攻撃で、一撃あたりの攻撃力は単体攻撃に劣るものの、一連の攻撃魔法をひたすら喰らい続けた寄生魚が生きているとは思えない。
クラーケンさんの体感でも、もう体内に寄生魚は残っていないようだ。
つまり依頼は完了した。
時間はかかったが作業自体は単純だった。会話の方がメインだった気がする。
最後にちょっと取引をして、クラーケンさんとは別れる事になった。




