装備の理屈(仮)
ヘルメット(仮)を外し、回復がてら、マリッサさんに状況を説明する。
大剣を無くした話をしたら「アレを?!どうして??!?なんで手放す?!」と取り乱され、
それでどうするのかと聞かれたので「他のを装備しようと思ってる」と話したら、滅茶苦茶揺さぶられて怒られた。
「絶対に装備から外すんじゃねーのよ?!絶対よ!?」
言葉が乱れているが大丈夫か??
装備っていう機能は、この世界でも生きているらしい。
ただ、ゲームでの装備とは変質しているというか、違う機能って感じだな。
装備品以外の物も身に着けられるし、使えるというあたりが、既にゲームからは逸脱しているのだが・・。
マリッサの話を、自分なりに分かりやすくしたらこんな感じだ。
装備っていうのは、召喚に似たシステムで、街に入る時に召喚解除される。
逆に、街から出ると召喚され、装備品に用意された位置に出現する。
その用意された位置・・枠みたいなもんだな、それを超えて装備しようとしても、装備の効果は発揮されない。
また、装備には相性があり、相性の悪いものは装備できない。
レベルが上がる事で相性が良くなって装備できるようになる場合もあるが、レベルをどんなに上げても変わらないものも存在する。
で、話の肝はこれだ。
装備から外さなければ、次に街から出た時に召喚する事が可能なんだそうだ。
「マジで?!え、なんで??」
「・・・なんでって・・そういう世界の仕組みだからなのよ?」
きょとん、とした顔で言われたが、見回してみても「そんな事も知らなかったのか」という呆れの表情をしている人はいても、俺みたいに驚いてる奴はいない。
「なんで海には水があるのか」とか「なぜ海水がしょっぱいのか」みたいな、「仕組みは知らんけど、そういうもん」って空気がある。
ただ、海の水に関しては、ちゃんと理屈があるのだが、装備に関しては全く理屈がわからない。
「理屈・・変な事を気にするのね。
鍛冶師が装備を生み出す時、作品に魂を込めているからだって言われているわ。
ただ、その魂は、この世界で生きているものとは相性が悪くて、別の世界に弾き飛ばされてしまうのね。
それで、手にした人間と波長が合った時だけ、その魂が反応すると言われているのだけれど・・」
「マリッサ、と言ったな。その話はノルタークに戻ったら聞かせてやってくれ。今は、目前の事に集中すべき時だ。」
マリッサの説明に熱が入り始めたのを察した冒険者が水を差す。
ヘルメットを外したので回復ポットを呑む事ができたし、少し休んだので精神的にも多少は回復した。
確かに、今すべき話でもなかったな。
ちなみに、後でノルタークでこの話を聞いたら、滅茶苦茶長くなった。
学者などの専門家がいるわけでもなく、これについて深く研究されているという話は聞かないらしい。
全く研究がされていない、というわけではない。
だが、多くの研究者はもっと大まかな分野・・“世界のルール”とやらの解明で忙しいらしい。
その中で人気があるのは魔法や生物の分野であり、報奨金が出ているものもある。
が、研究者というのは結果が利益に結び付かない限り儲からないという、世知辛い職業のようだ。
少なくとも、この世界においては。
つまり、解明されているのはその儲からない研究者が、利益になる研究の範囲で行われたところ。もしくは、金持ちの道楽として行われたところがせいぜいである。
装備についてのみに焦点が当てられての研究で、公式に目立った成果は無い。
なので、「~と言われている」という程度には大まかに浸透している考え方だが、細かい部分は個人の解釈に委ねられており、周辺のドワーフのオッサンらを巻き込んでの大論争に発展したのだ。
この話をドワーフに振ると長くなるので、始まったら話を逸らすのは冒険者の常識らしい。
それはこの時に教えておいて欲しかったなぁ。
とても べんきょう に なりました まる
状況によっては街から出ても召喚されない場合があるそうなのだが、それでも装備から外さなければ他の人に勝手に装備されるという事は無いそうだ。
その時に「困難を乗り越えて装備武器と再び巡り合うという英雄譚(?)も結構あるけど、ドワーフ以外には受けが悪い」とアーディは語った。
実際、それを「英雄譚」と捉えているのはドワーフだけで、他の冒険者は「無くしたお気に入り装備が返って来た話」程度の認識のようだ。
少なくとも、電車に忘れた傘よりも価値があるのだが、その程度だ。
その英雄譚を聞いてみると、シンデレラのガラスの靴みたいな扱いで、苦笑せざるを得なかったのは秘密だ。
主役が戦士 (ドワーフにとっては剣)なのに連想する人物がお姫様である。ちぐはぐさに笑いたくもなる。
マリッサさんに睨まれていたので、俺の心中は察されていたようだが。
まぁ、ノルタークに帰った時の話はさておき、だ。これからどうしようか?
見捨てる、という選択肢。
これは絶対に無いというわけではないが、今のところは無い。
だが、水上での戦いはやはり難しく、手札が限られている。
いや・・そうだな。クランベールが持っている筈の「乗り物」は地上じゃなくても使えるんじゃないだろうか?
乗り物にもいろいろあったが、全て人の侵入できない場所は入れなかった。
ゲームでは水の上に侵入できなかったのだが、現実の今はこうして海に出ている。
と、いうことは・・・だ。
俺の意識が切り替わったのを感じたのか、同行していたドワーフのオッサンからヘルメット(仮)が返って来る。
応急措置的な事ができないか試すと言っていたが、駄目だったらしい。
装備品はCCすると消えてしまうので、他のキャラの装備した武器を使うとなると、他のキャラの装備から武器を外さなければならない。
そして、このキャラの武器枠は無くした武器で埋まっているので、新たに装備する事ができない。
そうすると、次に武器を失った時に、装備から外れたままなので失ってしまうことになるが・・・。
うん?ちょっと待てよ?
別のキャラにCCして戻れば、武器が戻って来るんじゃね???
「・・・何か思いついた、って顔をしているわね。」
ヘルメットを装着していなかったので、表情でなんかバレてしまった。
ちなみに、クロキシは装備していないが、名目上は「装備」と呼ばれている。
元の装備は鍛冶師に預けており、鍛冶師の元にある時は装備の召喚を発動させない事ができるんだそうだ。
修理中に街の外に出て、持ち主の手元に召喚されたら大変な事になるからな。
そうでないとCCの度にクロキシシリーズが召喚されるわけだから、俺の装備に剥がされてしまう。
・・剥がれるのか??・・・・・まぁいいや。
なんか「装備を外さなくていいぞ」と何度も言われ、不思議に思っていたが、そういう事だったらしい。
「・・・行くのかしら?」
「まぁ・・・うん。・・・行くよ。」
決意が固い訳では無いが、出来るところまで。
俺は、いつでも退却できるように引きながら動いてくれと言い残し、傾いでいる船の方へと向かったのだった。




