一当てのつもりが・・・(仮)
警備隊の大船に、かなり近づいたところで気付いた。
本当は、もうちょっと早く気付くべきだったというか、まぁ最初から分かってはいた。
分かってはいたんだが、「改めて実感した」のレベルではなかった。
デカい、デカすぎる。
大船のデカさだけでも、これを「自分の標準」と持って来られるだけの、身近な比較対象が無い。
えーと、大きめの一軒家、2軒分くらい??
そもそも、俺の住んでいた住宅にはそんな大きな一軒家なんて無かったので、普通の小売住宅3軒分くらい?
それを引きずり込もうとしている巨大なイカのモンスター、クラーケンは胴体だけでも同じくらい・・・もし、俺の知るイカと同じような外見なら、もっと大きい事になる。
触手だけでも余裕で船体を包み込めるそいつは、胴体の一部を晒してはいるものの、その大部分は水に沈んだままであった。
まぁ、その為のスイバなんだけどな!
まずは、触手と胴体から切り離す!!
「てぇいっ!!!」
ズパァン!!
しっかりした手ごたえと共に、触手の中ほどまで断ち切れる。
・・ってあれ?斬れちゃうの?????
今のは、様子見の一撃である。
タコのクラーケンの斬り難さから、同じような・・もしくはそれ以上に厄介な可能性を考えていたが、これなら・・・
「もう一丁!」
ズパァン!!
簡単にいけそうだ!
なんて思っていた時期が、俺にもありました。
切り離した足が、俺に襲い掛かって来るまでは・・・。
「ハァっ?!?」
のたくったそれが、俺に飛び掛かってくる。
それを躱すと、そこから幾筋のも触手が・・
「気持ち悪ぅ??!?」
イカの足の太さは・・軽く見積もって軽自動車ぐらいある。
で、その触手は人間の腕くらいの太さがあった。
こんな生き物、見た事も聞いた事も・・・いや、モンスターだけどさ。
クラーケンってこんな生き物だっけか??知らないけどさ!!!
触手は次から次へと溢れ出て、俺に襲い掛かって来る。
っていうか、これ、触手っていうか、蛇???ウナギ???
スキル:千斬乱衝
このスキル、範囲攻撃じゃなくて、本当は単体攻撃なんだが・・・。
本来のこのキャラの持ってる範囲攻撃と比べて、使い勝手が良すぎるんだよね。
イカの足から次々に襲い掛かって来るニョロニョロした物を切り刻み、足そのものも、ブツ斬りにしたところで、ひと段落、といったところか。しかし。
もう再生してるんですけど。しかも、再生した足が妙に素払いんですけど。
まさか、再生するほどパワーアップするって事じゃないよね???
素早くなったのはその1本のみ。
手に負えなくなってから確かめて墓穴を掘るのは嫌なので、もう一度同じ足を攻撃。
切断すると、さっきのようにのたくり・・・襲って来ないな?
今度は、変な触手・・魚?も出て来ないし、それ以上速くなってるとか、強化されてるって感じでもなかった。
却って斬り易くなったと感じるくらいだ。
そして再生。そこからずっと同じ感じだ。
一度、切り取って再生すると、ちょっと強くなる代わりに、変な魚が出て来なくなる、という事らしい。
と、すれば、このまま1本を狙い続けるのが正しいだろうか?
いや、ゲームならそんな仕様には絶対にしない筈である。
ならば、やる事は簡単だ。
スキル:斬首 からの
スキル:千斬乱衝
足を切り取り、出て来た魚のような生き物?を蹴散らす。
クラーケンの動きが鈍いので非常に助かる。
何本か足を切り取ったところで、俺に標的が変わったようだ。
ズル、ズルと足が滑り落ちたが、却って船が傾ぎ、マイクが悲鳴を拾う。
「ちょっ?!?!」
ズパァアン!!!
遥か上空から足が叩き込まれる。
水飛沫と呼ぶにはちょっと攻撃的すぎる水の砲弾が舞い、俺は吹き飛ばされる。
「なっ!!?」
ズパパァアン!!!
水面が上がったので攻撃に気付いたが、暗くて水中の様子が全くわからねぇ!!!
そして、色が白いからイカだって思ったけど・・・
足、多くね???
あれ、クラーケンさん、イカ・・・・ですよね???
動きが大ぶりなので、読みやすい、といれば読みやすい攻撃。
だが、範囲が広く、手数が多い上に、質量がおかしいくらいある。
つまり、当たったらヤバイ。
ズパァアン!!!ズパァアン!!!
小舟にも同じ事が言えるんだが、このスイバ、ブレーキとか小回りとか、地上とはちょっと勝手が違うんだよな。
相手が地面じゃなくて水だから、簡単に言うと滑るんだよ。
そして、方向展開や停止後の発信の時も、滑ってうまく動かない。
タイムラグがあるわけだ。
その、滑るという挙動を理解したような攻撃を仕掛けて来やがるんだが・・・!
学習能力、高過ぎないか???
ダパァアン!!!
「ぬぁああああ!!」
思いっきり空中に蹴り(?)上げられる。
一緒に水も巻き上げられたとはいえ、さすがに空中ではいかにスイバさんであろうとも無力であった。
体操系の技能でもあれば・・もしあったとしても、空中の姿勢制御程度でどうにかなる問題でもないか。
そこに、巨大な足が降ってきた。
落下に任せたような一撃・・だが、超重量の壁が、跳ね上がった俺をしっかりと捉える。
ズパァアアアン!!!
水面が、まるで・・・そう、ちょうどコンクリートみたいに・・・。
高いところから落ちると、水面の高度が上がってコンクリートのようになる、という話を、身を持って味わった一瞬だった。
猛烈なプレス!逃げ場のないエネルギーが、俺の全身に叩き込まれる。
「・・・・・ッ・・。」
そういえば、前に、岩海老の解体の時に、攻城戦兵器とやらを食らった訳だが・・・。
それにも勝る一撃だった。
何しろ、息が・・・胸というか背中というか、全身をを思いっきり打ったせいで、横隔膜が機能してないんだろう。
回復しない。回復しない。回復・・・しないと、そろそろヤバイ。
吸うでも、吐くでもいい。
と り あ え ず 、動 け。 息 を、し ろ。 さ せ ろ !
スイバが機能したままで、足が不自然に浮いたまま。
だが、停止する余裕が無い。身体が沈んでいく。空が、暗い。
ゴクリ、唾を飲み込む音と共に、耳の圧迫感が消える。
スイバの起動音が聞こえる。
チャプチャプ、ブクブクという水の音も聞こえる。
雨の音が、風の音が・・そして、自分の鼓動が、聞こえる。
だが、それでも、呼気が戻ってこない。
意識は、ある。しっかりしている。
なら俺は大丈夫。ただ、息。息だけが・・・・。
「・・・ハ・・・・・。」
ミリリットル?
本当に僅かだが、吐けた。・・なら、吸わないと。
動いたのだから、いけるはずだ。吸え。でなければ吐け。自分の身体がもどかしい。
「・・・・・・・・。」
こんなペースで呼吸をしていたら、窒息してしまう!
そんな焦りを感じつつ、浅い呼吸を繰り返す。吸えない、吐けない。でも、動かなくは、ない。
ほんの僅かずつ呼吸は回復し、ある程度のところで正常と言える程度に、なんとか機能し始めたような感覚があった。
・・・。助かった。
のろのろと動き出す。
俺を仕留めたと思ったのか、また大船を襲い始めており、追撃は無い。
スイバを切り、体勢を整える。身体が軋む感じがする。
回復薬・・は・・この装備じゃ使えないな。
CC・・・しても、他のキャラが回復するだけだな。
まだ、泳ぐと言うにはぎこちない動きで、しかし楽な態勢を取れたので一息つく。
精神の緊張や体の強張りを解く為に深呼吸。
幸いにも、頭部が出ている為、空気の消費はされない。
落ち着こう、今は、他に何もできるとは思えない。
すぅ~・・・・・・・。はぁ・・・・・・・・。
振るえる横隔膜。
深呼吸もまともにできない日が来るとは、俺も予想していなかった。
すぅ・・・・・・。はぁー・・・・・・・・。
何度目かの深呼吸。
冷静、とまではいかないが、ようやく周囲を気にするだけの余裕ができた。
大船を攻撃し出したクラーケンさん、やっぱり俺に見向きもしない。
恐らく、蚊・・とまでは言わないまでも、鬱陶しい羽虫を叩いて潰したようなものなのだろう。
そう思えるくらいデカい。最初に予想していたよりもかなり大型だったようだ。
そう考えると、船が沈まないのはクラーケンさんの匙加減のようにも思えて来る。
・・・・・うん?
助かったけど・・・大剣はどこに行ったのかな???




