本物、登場(仮)
その後、使者を送り合うような事も無く、遠距離と連絡を取れる魔道具でお互いの立場とこれからの動きを表明し合ったところで、救難信号が入る。
さて、魚というのは音に敏感な生き物である。
川魚は、水面で音がすると警戒してしまい、全く釣れなくなるなんて話がある。
ところが、海の魚となると全く逆で、水面の音を餌の立てる音と認識し、近寄ってくる事も多いと聞く。
が、あまりの轟音だとやはり逃げるだろう。
俺のやった示威行為という名のデモンストレーション。
あれだけ騒がしくすれば、・・そうでなくても電気のショックで、普通はその海域から生き物はいなくなる筈だ。
だが、その物音に興味を示して近くまで寄って来ていた魔物がいた。
それでも、静かにしていればやり過ごせたのであろう。
が、光弾とメテオスタッフによる爆音と閃光。
それにより、完全に目標としてロックオンされていた。
「で、デカい!!あれは・・・本物のクラーケン!!」
クラーケンに本物も偽物も無いと思うのだが、あのタコのクラーケンが偽物扱いされるのも仕方ないレベルの巨大な足が、警備隊の船に絡みついていた。
動きが遅いのが不幸中の幸いだが、これ・・駆けつけても間に合うのか??
「逃げるにしても助けるにしても急げ!すぐ決断しろ!結果が出てから動いても遅いぞ!」
突然の事態に戸惑い硬直していると、船員に向かって怒鳴った船長の声が聞こえる。
が、違う。あれは、俺に向けて言ったんだ。
指示系統が違うトップの人間を捕まえて指示する訳にもいかないから、部下を出しにするしかなかったんだろう。
「警備隊の船を援護する!ただし、この船は逃げる準備だ!
警備隊の船の横を抜けて、ノルタークへ向けて動き出してくれ!!」
俺は人目のない所でCC《キャラチェンジ》してスザクにスキル:浄化をかけ、さらにCC《キャラチェンジ》してクロキシを身に纏ったリーフレッドになる。
そして、バタバタしているマリッサを捕まえてスザクを預けた。
マイク・・は入りっぱなしになっていた。
「って、まさかまた単独で行くつもりなのかしら?!」
「当たり前だ!クラーケンが1体とは限らないから、船の戦力は減らせない。
警備隊には、正直、何の義理も無いが、助けたいのは俺の我儘だ、突き合わせる訳にはいかない。」
マリッサは何か言おうとして・・すぐに切り替えると、
「なら、さっさと行きなさい!小舟は乗り捨ててもいいのよ!全速力で突っ込むといいわ!」
俺の行くべき方向を指差した。
「後は頼んだ!!」
俺は叫びながら小舟に向かい、さっき使っていたもの飛び込むと、全速力で警備隊の船に向かった。
周囲は暗くなっており、まだ雨はしとしと降り続いている。嫌な天気、嫌な時間帯だ。
触手を十分絡ませたクラーケンは、海に引き摺り込みにかかっているようで、まだ離れているのに船体からミシミシ、ギシギシという音が聞こえて来る。
非難は・・出入り口が塞がれ、あまり進んでいないようだ。
臨時で開けられたらしい、あり得ない位置に変な出入り口らしきものがあり、海上では避難したのか落ちたのか、何名か泳いでいる者の姿がある。
避難用の小舟は見当たらない。
「これじゃぁ、雷系の魔法が使えねぇじゃねぇか!!」
もし全力で撃ったとして、クラーケンより先に、海面に漂うこいつらに大ダメージが行く気がする。
とりあえず、この距離で届くのは・・・
CC:クランベール
スキル:石針弾
スキル:氷針弾
船を焼いたらまずいという配慮だが、クラーケンの反応は・・・微妙だ。
やはり雷系か?
スキル:雷針弾
少々の反応があったが、狙う場所に気を使う。
執拗に同じ場所を狙っている、という訳では無く、下手な場所に落とすと周囲に被害が出る。
が、それが功を奏したのか、嫌がるように触手をうねらせ、船の拘束が少々緩んだ。
が、それでも・・・ニードル系では明らかに火力不足だ。
それに、緩んだと言っても船のダメージが回復する訳ではなく、凌げる時間がほんの少し延びたに過ぎない。
・・船に密着している以上、魔法で攻めるのは厳しそうだ。
それに、そういうしている間に、だいぶ距離が詰まって来た。
えーと、銃キャラで行くか?いや、コイツの持ち味は遠距離攻撃だが、精密射撃以外は大味な攻撃が多い。
下手に船体を破壊して、後々文句を言われたら適わない。
と、すると弓キャラだろうか?
いや、こうなれば普通に斬った方が早い!
CC:リーフレッド
スキル:飛燕斬
この暗さでは、斬撃なんて曖昧なものが見える筈もなく、しかし、鳥の姿をした風が空を切って飛んでいくのが感覚でわかる。
連続で放った鳥の群れが、威力を弱めながらも胴体に到達。
浅くではあるが、はっきりと切り裂き、触手が目に見えて緩んだ。
船体が揺れ、意を決したのか、それとも誤ったのか、数名が海へと落下していく。
「た、助けてくれっ・・!」
男の声。それほど弱弱しくはないのでしっかりと聞き取れた。
船を止め、周囲を見渡すと、こちらに向かって泳ぐ男がいる。
俺は、小舟を止めて男を引き上げると、簡潔に状況の説明を求めた。
が。
「わからない。急に襲われて・・!俺は甲板にいて、周囲を警戒してたんだ、それで、」
落ち着こうとしている努力は認めるが、それ以上に興奮していてお話にならない。
もう少し時間を置けばなんとかなるかもしれないが、その時間も無いし、なにより大した情報を知っているようには思えない。
「ここに、向こうの船と連絡が取れる・・・と思われる魔道具がある。」
「と思われる・・?!」
知らないよ、使ってたのはマリッサだもの。
「緊急事態だ、そちらの命令系統は一旦ないものと考え、こちらの誘導に従ってくれ。
周辺のお仲間の救出をしながら、この魔道具を使って連絡を取るんだ。
元いた船には近寄るなよ、巻き込まれる。その後も、救助活動に参加してくれると助かる。」
俺は、スイバを起動させる。
「あ、あんたは??」
「俺は本業だ。じゃ、命を大事にな。」
本業・・・ソロ冒険者。
なんだろう、雨かな?おかしいな、顔に雨がかかるような装備じゃないんだが・・・。
この海域を安全にするって依頼なんだから、可能な限りはこなすしかない。
俺は、水面に立ち、クラーケンへと接近する。
「お前も柔らか煮にしてやろうかぁああ!!」
今日はもう、帰って寝るんだ!さっさと斃されてくれ!!!




