事の顛末(仮)
補佐さんの話が一番わかりやすかったので、そこに他の奴の証言を足す感じで、今回起きた事をまとめてみた。
推測も混じっていたが、後の調査で裏付けが取れ、ほぼ正しかった事が明らかにされている。
小舟の到着が妙に遅かったのは、その作戦会議的なものが小舟で行われていたから、らしい。
本来、旋回や蛇行など精密な運転を必要としないのならば、魔道具と遜色なく到達できるのだという。
補佐さんも、小舟の上で今回のおおよその作戦を聞いたが、どうやら数名はもっと深く聞いているようだった、と。
なので詳細を求めたが、元々、アルデリックは補佐さんをライバル視?しており、手柄を取られると思ったのか、応じられなかった。
補佐さんはアルデリックよりかなり若いようだが、どんどん昇進してアルデリックの地位を脅かしそうな勢い。
アルデリックを含む、一部の上層部からかなり煙たがられているようだ。
「おそらく、父・・いえ、アルデリックは無能な為使えず、私は思想的な物が合わず、潜在的な敵として目を付けられていたのでしょう。何かあったらまとめて切り捨てるには、丁度いい機会だったのかもしれません。」
その作戦会議で分かった事は、アルデリックと数名は密命を帯びている事。
事情を知らない「攪乱班」と「実行班」とはセットで行動するが、状況次第で別れて行動し、その場合は「攪乱班」が可能な限りトラブルなどを引き起こして援護する事。
その裏で「潜入班」も密かに任務を遂行する事。
それが初めて知らされた約半数に動揺が走る。
そして、その時点で補佐さんは「成功しても失敗しても切り捨てられる」と悟ったそうな。
しかし、すでに船に乗せられている。
本人としては、薄々、何かおかしいと勘づいてはいたが、決め手に欠けていた為、真相がどこにあるかを明らかにする調査団に乗り込むのは、まさに渡りに船だった。
警備隊側の対応はおかしいと感じていたし、無実を証明する事になるかもしれない。
そうなったら、その後の対応を決める上で、現地を直に目にしておいた方が良いし、もしそのまま交渉に入るのなら、多少は立ち回れるという自負もある。
そんなつもりで船に乗り込んだら、交渉用ではなく攻撃用だったというのだから、詐欺みたいなもんである。
要は口車に乗せられたのだから、「忸怩たる思い」に駆られるのも無理はないよな。
「忸怩たる思い」って何だよ、何でスルッとそんなの出て来るんだよ。この人、語彙やべーよ。
俺だったらカンペでも無い限り、「『は?』とか『マジ?』って思った」ぐらいしか出てこねーよ。
で、派遣されてしまったからには、任務をこなさなければならないが、準備期間は大船に着くまでの数分。その半分は、アルデリックにのんびり使われてしまった。
そんな短時間で、しかも任務の内容もよく分からないのに、細かい作戦など立てられる筈がなかった。
自由にできる部屋の確保の提案、船内における行動の概要、グループ分け。
むやみに船内の者とトラブルを起こそうとせず、本来の調査もきちんとこなすように、と指示をした。
が、アルデリックに「攪乱の為にトラブルを起こすという指示に逆らうのか?密命こそ絶対だ」と持っていかれる。
この部隊のトップはアルデリックである為、基本的にはアルデリックの指示に従い、余裕があれば補佐さんの指示も受け入れてほしいと言うに留まった。
物品の回収は、実行班が持ち歩いている誘導の魔道具は大きく重い為できず、それに合わせて攪乱班も控えめにしなければならなかった。
なので攪乱作戦の時まで自重し、その時が来たら自由にせよという事で話がまとまった。
調査団としては、色々と気になるものはあったようだが、作戦時にいきなり回収しだすのも不自然なので、軽くて嵩張らないようなものを数個収集するにとどまった。
結果。
組み分けをしたうちの2グループが同じ場所に行かないように指示してあったものの、片方はドワーフ族の集団に囲まれて密命どころではなかった。
もう片方も、調査そこ邪魔されないものの、目の届かぬ場所に行こうとすると「何かあったのか?」他のメンバーとセットに合流される。
自然な流れで常に団体行動を強制され、そもそも誰の目も届かぬ場所というのがほとんど無く、全く任務がこなせない状況だった。
後半。分散したらグダグダ。
物品回収でトラブルを起こし、うまく立ち回った攪乱班もいたが、他がボロボロだった。
トイレに行ったり、冒険者に捕まったりして単独行動を狙うが、なかなかうまくいかなかったようだ。
1人になったところで別の攪乱班がマリッサ達と愉快な職人達を連れて来たり、ようやく撒いたと思ったら、隠れていた鬼族の商人に一部始終を見られていたり。
中には冒険者を買収した者がいたが、その冒険者は一度警備隊側に協力して裏切られており、警備隊側に対して警戒をしていた上に、アルデリックに暴言を吐かれて完全に敵対していた。
逆に、こちら側での手柄を立てて、警備隊に協力して迷惑を掛けた事を帳消しにしようと、自然な範囲で情報を吸い取り、ついでに金をガッツリ受け取って、一部始終を暴露した。
そんな感じで、実質、任務はほとんど失敗していた。
が、それに気付かずに「設置完了」「冒険者の買収により、設置される予定」という成功報告を真に受けてたアルデリックが、自然な流れで甲板に出る。
風の魔法か何からの魔道具を使って本部とやり取りして秘密裏に報告し、本部から「何らかのトラブルを引き起こしてリフレの気を引け」という指示を受け取ったのだろう。
これは補佐さんの推測であったが、内情を知っているだけに、驚くほどの正確さであった。
まぁ、それも後から分かった事なんだけどね。
アルデリックという人物は、弱者に対して優越感に浸るのを好み、処罰されない範囲で部下に暴力を振るう事が、しばしばであったという。
弱者というのは、身体が弱い者もそうだが、立場上、下にあるものを指す。
何の変哲もない棒ではあるが、指導という口実での体罰で振るわれる事も多く、それが原因で警備隊を辞める者もいたそうな。
アルデリックについては、誰に聞いても・・・口の堅い潜入部隊の者でさえも、聞けばいくらでも文句が出て来た。
口裏を合わせないように監視はしていたし、取調室を別室にしたのに、全員の共通認識が「だいたいアルデリックが悪い」という事だった。
で、そのアルデリックだが、「恥をかかせおって・・」など恨み言は言えど、情報は全く吐かなかった。
意外にも口は堅いらしい。
なので、後も全部、補佐さんの推測になるが、大筋で全て合っていた事が判明する。
警備隊側の大船では、ほとんど作戦を知らされてはおらず、合図と共にメテオ・スタッフによる大規模な攻撃を行うとだけ伝えられて待機させられていた。
アルデリックからの報告で、砲撃準備に取り掛かるが、ここで冒険者側の大船から光球が発射される。
光球が真っ直ぐこちらに向かう軌道であった事から迎撃。
本来、そのような用途としての設計はされていなかったが、判断が遅れてパニクったことで偶然にも、もしくは火事場の馬鹿力的なものを発揮し、メテオの軌道と光球の軌道が一致、迎撃は成功。
負傷者と船への損害を出し、メテオ・スタッフにる作戦は中断された。




