状況の変化に付いて行けない時ってあるよね(仮)
やはりというか、何というか。作戦を変えてきたらしい。
調査団が聞き込みという形を取って個人単位に分裂した。
その上、待機室に居たアルデリック達も2手に別れて動き出したのだ。
これは・・・きつい。
動きからして、マリッサの言ってた「この船に何かを仕掛けたい」は、ほぼ確実だと思っている。
中には、普通に調査をしている者もいるようだし、本命のミッションは知らされていない、という者もいるのだろう。
だからと言って、人を割かない訳にはいかない。
最初に遺体安置所の場所を聞かれ、「何だ、誰も死んではおらんのか」と言われた時は閉口したが、「犠牲者に黙祷の1つでも」と言われれば納得するしかない。
続いて、アルデリックの希望で、救護室に案内させられたが、怪我人は回復薬を使い元気になっている。
いるのは、心に傷を負って戦線復帰できなかった者達だ。
「なんだ、元気ではないか。」「どこが悪いというのだ、何故仕事ができん。」
「ここにいるのは能無しの屑ばかりか。」「これで仕事をしたと言って金を得る訳か、まるで乞食だな。」
「彼らは仕事を終えた後です。むしろ、誰よりも頑張ったからこそ、ここにいるので、彼らを侮辱するのは止めてもらえませんかね?」
流石に腹が立ったので、これ以上、暴言が飛び出す前にと釘を刺した。
と言っても、だいぶ好き放題言われた後なので、ちょっと遅かったかもしれないが。
あまり早すぎても問題があったし、ギリギリだったと・・うん、そう思う。
でも、そもそもアルデリックを救護室に案内すべきじゃなかったと後悔した。
ここから、下手に下手にと出ていたのがまずかったのか、・・いやそうでなくても変わらなかった気もするが、だんだんと横暴になってきた。
そして、アルデリックの最大の目的はおそらく・・・
「これは何だ!」「どういう仕組みだ!」「分かる者を呼べ!」
「図体のデカいだけの家畜め、邪魔だ!」「喉が渇いた、飲み物を持て!」
「これとあれはどう違うのだ!」「先ほどの者以外に分かる者はいないのか!」
「食堂はどこだ!」「不味そうな食事だ。よくこのような餌が食えるな。」
小さなトラブルを連続して起こし、人手をこいつに割かせる事ではないだろうか。実際、船内はてんやわんやだ。
スザクがデカいだけの鶏と判断するや、ちょくちょく急な方向転換をして「邪魔だ!」と蹴りを入れて来る。
とはいえ、スザクもテテテーーッと鶏並みの速度で・・まぁ鶏なんだが、移動して攻撃を躱す。
冒険者に意図的に、そして無意識でも喧嘩を売るので、間に入るのに精いっぱいで、スザクの動向までは見れないんだよな。
フリーになった調査団員をちらほらと見かけるあたり、間に合ってないわ。
出会い頭にヒソヒソ、と報告がされ、
「ハハハハハハ!よくやった!」
なんて聞こえた日にゃ、嫌な予感もMAXですよ。
現在、甲板でブラゴンと戦った痕を見ている。
というのも、見るところがもうそこぐらいしかなかったから、とりあえず形式的に向かったという感じで、やっている事も調査というよりは見物みたいなもんだ。
床に打ち付けられたポンコツ兵器を見て説明を受けても、回収どころか興味すら抱かなかった。
動きとしては倒したブラゴンを見せろと言われて、保管している鬼族の商人を呼んだくらいだ。
で、ボケーっと海を見て、しばらくして満足したのか、急に方向転換。
俺の近くで大人しくしていたスザクに衝突かった。
「コケェッ!?!」
「うるさいわ、この汚らしい家畜がっ!」
その時、アルデリックはそれほど機嫌が悪くはなかったように思う。
確かに、スザクと衝突かって多少不機嫌にはなったが、先ほど部下を褒めたばかりで、上機嫌だったのだ。
だが、性根の悪そうな顔でニヤリ、と笑うと、アイテムボックスから40㎝くらいのこん棒を取り出して、スザクに振り下ろした。
「ちょっ、」
スザクが逃げ、躱されてムキになったアルデリックが追い回す。
その棒は何の為に持ち歩いているんだ、とか、何故、急に思い付いたんだとか、色々ツッコミはあったが、さすがに目に余ったので止めようと俺も追う。
と、急にスザクが立ち止まって向き直ると、
「コォケェェエエーーーッッ!!」
と威嚇をした。
「!?!?」
「ぎゃぁっ?!」
なんとスザクのトサカがバーナーのように燃え上がり、1mほどの火柱になったのだ。
反射的に、だろう。バックステップと呼ぶにはあまりに拙い挙動で距離を取ったアルデリックが、放置されていたポンコツウェポンに激突。
その瞬間、眩い閃光、爆音と共に砲身がはじけ飛ぶ。・・・と言っても、危うげに見えた砲身自体はなんとか爆発に耐えた。
が、砲身と無骨な三脚のような足の接合部分が耐え切れなかったようだ。
爆発の勢いで、折れたバットのごとく飛んで、アルデリックのいた場所に突き刺さる。
ひっくり返ったアルデリックの頭上で、木製の壁に突き刺さった砲身は、わずかに黒煙を上げていた。
「あ・・・あ・・・。」
アルデリックなどこか遠くと見つめたまま、愕然としていたので、その視線の先を追ってみる。
すると、ホームランのような軌道を描いた光の球が、向こう・・・えーっと、遥か彼方?に見えた。
いや、これ何㎞ぐらい離れてるんだ?光の玉の大きさもわからんし、距離感が全く掴めない。
ただ、あっちの方角って、確か、警備隊の船がある方向だったよね。
と、思ってたら、光弾が船の形をした影に着弾して爆炎を上げ、遅れて爆破音が届いた。
「・・・・・・・・・え? ・・・・・・・・・は?????」
一瞬、何が起きたのか理解できず。
そして、起きた事象だけは何とか理解して振り返った頃には、アルデリックは白目を剥いて気絶していた。
「・・・・・コ、ケ?」
「バッチィから近寄っちゃいけません!」
慌ててスザクを引き寄せて距離を取らせる。
バッチィとか言っちまった。が、護衛の兵士はまだ愕然としていて、気付いていないようだ。
・・・セーフ!
そこは汚い液体で汚れ、異臭が漂ってきていた。
コイツ、小ならまだしも、デカい方をやりやがった・・・!




