悲しみのスザク(仮)
さて、俺達が出迎えると、まずは自己紹介から入った。
ま、これが普通だよな。戦闘状態から入る方が異常なのだ。
「我々は貴船の調査を行う為に派遣された、アルデリック調査兵団だ。代表の者と挨拶がしたい。」
兵士の一人が名乗りを上げ、副船長がそれを引き継いで、船長、俺、ローグリアム、マリッサがまず自身を紹介する。
俺が自己紹介をした時に怪訝そうな顔をされたのだが、スザクのせい、というだけではないようだ。
まぁ、スザクに対しても思う所はあるようで、自己紹介の際に注目を集めたのは俺の頭上だ。
「え、あれは?あれの説明はないの?」と言った感じだ。無いよ。船の代表者の紹介にペットを入れる訳にもいかんたろ。
特に先ほども顔を合わせた、身長が低くて態度の悪い男は、俺の頭を指差したりして隣の秘書(?)としきりにヒソヒソやり取りをしては、顔を赤くして怒っているようだ。
それだけじゃない、というのは、どうも俺の名前は「リフレ」だと浸透しているみたいで、リーフレッドと名乗ると「誰だそれ」状態になってしまうようだ。
しかし、一応キャラ名はリーフレッドが正式なので、こっちを名乗るのが正しいと思うのだが・・・。
というか、この場面で渾名を名乗る方がおかしいと思うんだが・・。
続いて、アルデリック調査兵団の紹介となる。
このアルデリックというのは、態度の悪い男の名前で、この調査団の代表者兼、最高責任者であるようだ。
マリッサの話を聞いた後だと、何をやらかしても、この男の責任として切り捨ててポイ、という役どころにしか見えない。・・だめだ、先入観は捨てないと。
そして、秘書っぽい人がその補佐。そして護衛の代表者が2名。
他は名乗らなかったが、総勢10名の調査団を迎え入れる事になった。
「よく分かってない」って顔をしている者もいるので、完全に付いて回るだけの護衛もいるのだろう。
細かい事情を周知した人数が限られているので、全員がバラバラに動かれると困るが、おそらくギリギリ大丈夫・・かなぁ。
組み訳は決まっているようで、4人・3人・3人の3グループに分かれて調査をするようだ。
当初の予定通り、一番偉そうな・・じゃなかった、偉いらしい、小おと・・アルデリックに俺と副船長が付く。
もちろん、案内をする為だ。案内をする体での監視とも言う。
ローグリアムとティティが付いたグループは良いのだが、アーディとマリッサのグループが不安・・・あ、ドワーフのオッサンらに囲まれた。
んー、問題無さそうだな。
船長?仕事という名の船長室待機だ。偉いというのはそういう事なんだぜ。
別にサボってるわけじゃない、船長が船長室に居ないと、何かあった時に困るのだ。
何か報告しようにも「伝える相手ドコよ?」ってなったら不味いのだから。
「おい、その頭のデカいのは何だ。」
「えーと、俺のペッ・・ 旅の相棒になります。」
スザクが俺の頭の上で胸を張っている気配がする。
「要するに家畜だな?家畜が私を見下すとは。無礼だとは思わないのか?!」
「申し訳ありませんが、しばらくの間、その・・コッコ鳥?を下ろしておいてはもらえないでしょうか?」
・・・・・デスヨネー!!!
まぁ、人から見下ろされる悲しみは俺にもわかる。
それがペットには適応されない俺とは違って、この人には文化的にか何かは分からんけど、堪えたのだろう。
「という事で、スザク。仕事の邪魔だ。降りろ。・・・あれっ?」
スザクをそっと頭から持ち上げたら、普通に取れた。
さっきまでの抵抗が、まるで嘘のように、俺の両手に収まって大人しくしている。
アレは一体、なんだったの?!って思えるくらいに従順な態度で拍子抜けする。
と、同時に、バランスボールぐらいある身体を縮こまらせ、「ショーボン」と効果音の付きそうな空気を背負っている事にも気付いた。
これは不味いな。預けるにしても、それなりに気心の知れた奴じゃないと。
となると、マリッサ・・は仕事中だし、えーと・・誰に面倒を見てもらえばいいんだ?
スザクがひし、と足にしがみ付く。
「えー、あー・・、うーん?」
どうしよう?
「では、船の中を見せてもらおうか。」
あ、これはOKなのね?OKって事でいいのね??
先頭が副船長と補佐の人、護衛・アルデリック・護衛、その後ろに俺・・とスザクが付いて行く形で調査は開始された。
とりあえず、調査団専用の待機室が欲しいという事で、一室の使用を要求される。
マリッサが主体となって用意した部屋を明け渡した。
基本的に案内人が付いて回るし、誰も居なくなっても、この部屋には管理する人を置いて目が届くようにしてある。
仮に追い出されたとしても、この部屋に細工をされたら、マリッサが気付く事ができる。
「どこが継ぎ目で、どんな木材と塗料が使われてるか、きちんとメモをしたし、軽くなら全体を覚えたのよ。家具もすぐに解体できるから、抜かりはないわ。」
という話だ。頼りになる姐さんである。
最初は20人ほどの集団が一団となってその部屋に向かい、その後もぞろぞろと固まっていたが、アルデリックの指示で3手に別れる。
アルデリックは、管理に置いた鬼族の商人の女性にもてなしを受けながらのんびり待機室で過ごした。
副船長は、鬼族の女性と一緒にもてなしに加わり、アルデリックや補佐の人と雑談をしている。
俺・・とスザクは威圧しないよう、護衛と一緒に壁際で待機。
スザクもビシッ!と壁に背を向けて直立している。
俺は長い事立っているのには慣れていたし、もし疲れても壁に背を向けているので、バレないように休むこともできる。
この身体はタフだし、アルデリックが話すと妙に自慢話が多いにしても、初めて聞く話ばかりで退屈せず、いつまでもこうしていられるような気がした。
時々、護衛同士がヒソッと「また始まったぜ」とか言い合うのが聞こえるのも楽しい。
近くにいる俺も聞き取れない事がある上に、口が動いているようにも見えない、ほぼ完璧な内緒話である。
結構、長い事そうしていたので、スザクは飽きて座り込んでいたが、ペットを咎める者はいなかった。
時々、アルデリックの元に報告が入った。
内容は、どこどこからどこどこにかけてを調査した、とか、冒険者が多くて賑わっていただとか、職人と遭遇しただとか、「人に会った」って話題が多かった。
そして最後におまけのように「異常なし。」と結ぶ。
マリッサから話を聞いていなかったら、何とも思わなかったであろう報告だが、確かにこれは・・“人が出入りしない場所”を探しているようにも思える、な。
何しろ、何かを回収しただとか、何かが怪しいから調べただとか、そういう報告が異常に少ない上に、アルデリック自身も興味を示していない。
最初はもてなしを受けて気分を良くしていたアルデリックの表情が曇る。
報告を受けるたびに不機嫌そうになり、苛立つようになり、そして怒りを露わにしていく。
3組程度なら、案内は完璧である。つまり監視は完璧という事である。
何かできるような隙は、ない。
悲報:スザク、(トサカから)降格。




