戻って来たなぁ・・(仮)
船に戻ると、ものごっつい目立つ存在が待機していた。
「コケーーーッ!!」
スザクだ。
必死に羽ばたき、俺の顔面に衝突ってくる。
「いや、悪かったとは思ってるって。でも連れて行くには危なかったんだよ。
それに、ちょっと役職がないのを連れて行くと面倒そうだったから・・ごめんな。」
よしよしと受け止めていると、なんとか機嫌を直したのか、俺の鼻先を蹴って頭に着地した。
思ったけどさ、これわざとじゃないよね?怒ってやってるとかそういうんじゃないよね??
いや、装備の関係上、痛くも痒くも無かったんだけど、ゴッって音がしたからさ。
当たったら痛そうだなって。
まず、現状で一番行動をしているメンバーに現状を伝える。
マリッサが職人の代表者数名に、ローグリアムはティティとアーディに。
全員に伝えてしまうと、混乱もするだろうし警戒もする。
警戒するのは悪い事ではないんだが、下手に妨害工作と思われるような事をしてしまっても問題があるので、俺から「これから調査団が来る」とだけ発表しておくという事になった。
ちなみに、その際にCCでクロキシから通常装備に戻っている。
頭の上のバカでかい鶏については・・「いつもの事」みたいな感じで気にする人は少ないようだ。
むしろ、俺の魔法のせいで向こうで大規模な戦闘があったと勘違いしている者が・・まぁ大規模な戦闘はあったにはあったんだが、その規模を勘違いしている者が対多数で、説明に時間がとられてしまった。
調査団員をすぐに出迎えられるように見張りが待機しているのだが、ヨットのような帆船で、比較的ゆったりとこちらへ向かっているらしく、時間的余裕は多少あった。
手漕ぎほど遅くは無いが、どうも風の魔法で動かしているらしく、乗員の腕や魔力の問題がある為、簡単にはいかないらしい。
「・・・うーん、調査団を案内するにあたって、鶏を頭に乗せてるとかちょっと不味いと・・・イタタタタ、ちょっ、スザク、痛い痛い!」
とにかく、調査団全員から目を離さない作戦で行く。
つまり1人1人に対応する案内人を付けるつもりだ。
案内人は、一番偉いと思われる人物に俺、その他にローグリアム、ティティ、アーディとマリッサ、もっと人数がいれば、ドワーフ族の職人さんから事情を知っている代表格のメンバーが付く。
そして、訪れた部屋には後からチェックが入る。
冒険者のメンバーにはいろんな部屋に不自然にならない程度に散ってもらい、調査団に不審な動きが無いか観察してもらう。
一応、普通に調査団だと説明しているが、敵対行動らしき動きがあったので何もしないのもストレスが溜まるだろうし、ガス抜きと実利を備えた一石二鳥の策だ。
一応、調査団とトラブルにならないよう釘を刺しておく。
喧嘩を売ると、向こうに都合のいい状況証拠として使われてしまうかもしれないから、自分だけではなく仲間達のためにも、もし挑発されても耐えろよ、と。
まぁ、事実ではある。可能性だけならいくらでもあるからな。
「ココココケー!!コココケェーー!!!」
「もうしばらくの間だけだから!調査団が帰ったら、今日はずっと頭の上に乗ってていいから!!!」
バサバサと羽を揺らし、爪を立てて抵抗するスザク。俺の頭皮が悲鳴を上げている。
言って分かる奴だと思ったんだけどなぁ・・・やっぱり、鶏に人間の言葉が通じるわけがないか。
降りていてもらわないと不味いよなぁ・・と思う反面、スザクを放置しまくっているのも事実。
今回は、俺の代わりに面倒を見てくれているマリッサも一緒に付いて来た為、最低限の面倒は頼んで来たとはいえ、慣れたメンツからしばらく離れていた。
預り所を嫌がるのもそういう事だと思うし、スザクの気持ちもわからなくはない。
まぁ、早く慣れて欲しいんだけど・・・。
「じゃぁ、もう少しだけな?調査団が来たら降りてもらうからな?」
「・・・・・。」
あれ?返事は?何で無言で頭皮に爪を食い込ませたんですかね?
ここからは梃子でも動かんって意思表示?
ねぇ、言葉通じてる?ねぇ?
「・・・別にいいんじゃないかしら?
相手は船の調査をしに来るんであって、スザクは関係ないもの。
まぁ、多少の失礼は、向こうがしてきた事に比べれば・・・ね?」
「ココォ♪」
でも、このスタイル、こっちの常識ではないんだろ?
役所の視察みたいなもんだろ?ある程度の体裁は整る必要はあると思うけど・・。
「おい兄ちゃん、いつもそんな感じで歩いてたんだろ?
兄ちゃんにとって自然な事なら、普通にしてればいいんじゃねーのか?」
「その子、大人しくて行儀もいいけど、ずっと寂しそうにしていたわよ。
そんなに慕ってるんだから、労ってあげてもいいんじゃないの?」
「何でもない時に申告して来るわけじゃないんだ、こちらは依頼の遂行中。
変に気を遣うタイミングでもないと思うぞ。」
「クルゥ!」
その場にいた他の冒険者も、口々にスザクの味方をしていく。
スザクはスザクでハトみたいな声出しやがって。
俺の頭上で伸び縮みしているであろう事が、感覚でわかる。
お前、やっぱり言葉が分かってやってんだろ??なぁ?
それでいいって言うなら、まぁ、そうしておこうか・・・?
「・・・まぁ、そういう事なら・・・。」
「それを向こうがどう思うかまでは知らねーがな。」
「「「「わははははははは!!」」」」
お、お前ら・・・・・。
そういえば、ジョッキとか並んでるけど、殆ど酔ってやがんな?
祝杯?いや、それは帰る時でいいだろ!何やってんだ。おいー。
「いいか!お前ら!冒険は帰る時までが冒険です!覚えておけ!
帰路も最低限の警戒が必要だ。ずっと張り詰めていても仕方ないから、多少緩むのは良い。
だが、まだ帰路ですらないだろ!酔いを醒ます努力をしてくれ。」
ブーイングすんな!
「帰路なら多少は認めるし、水分補給を蔑ろにするつもりもない。
あ、ちゃんとしてる奴らもいる事はわかってるぞ。お前らはよくやってる。
だけど一部。お前ら、依頼中にこんな態度で『仕事してます』って胸張って言えるのか?
最低限の緊張感を持て。それがお前らの最低限というなら基準以下だ。
もし、調査団に絡んだり、絡むのを放置したり囃し立てたりしたら、報酬は減額。
最悪、罰金を取るからな!覚悟しておけ!
ある程度の連帯責任は負わせるつもりだから、ここにいない奴らにも伝えておけよ!」
報酬の話をしたら、急に背筋がしゃんとするから、まさに現金な奴らである。
「『最低限の緊張感を持て』、ね。」
マリッサの視線を感じる。
え、俺、最低限の基準は満たしてるよね???
そんなこんなをしている間に、調査団が大船に到着した。
やっべ、早く出迎えないと。
家に帰るまでが遠足・修学旅行・合宿・etc・・
いや、その帰り道ってバスの運転手さんとかに帰属するところが大き過ぎない?
少なくとも参加してる人たちの力量でなんとかなる問題じゃないよね。
その後が問題なのは分かるんだけどさ。




