何かある事は間違いないんだけど…(仮)
いつの間にか、外は暗くなり始めていた。
そういえば、この大船に乗り込んだ時点で結構良い時間だった。
調査なんぞ、ノルタークに戻ってからすればいいのに、と思ったが、そういう訳にもいかないらしい。
証拠隠滅を警戒しているのか?と思ったが、その割には俺達とは別行動を取るようだ。
何らかの手段で船内と連絡を取ったり、口裏を合わせられるとか思わないものなんだろうか?
なんだろう・・胸がもやもやする。
切り出そうとしたが、何と言ったらいいのか分からずに言葉に詰まっていると、マリッサさんに言われて船尾で警戒する事になった。
何故かローブを羽織らされて。
うーん、このスイバ・クロキシの装備にローブっておかしくないか?
・・・俺が勝手にライダースーツと混同しているせいだろうか。
ある程度の距離を取ると、楽にしていいと言われたので粗末な座席に座る。
「・・・あのチビスケ、耐えたのよ。」
マリッサさんが呟く。
「・・あん?」
俺とローグリアムはほぼ同じ反応だ。
ただし、俺の声は外に届いていない。
「最初から揉め事を起こさないように気を付けるような態度じゃなかったわ。
普通に考えたら、難癖をつけて拘束するところなのよ?
それだけの地的優位もあったし、完全に見下した態度だった。
多分、示威行為も見てなかった、それだけは確かね。それだけ強気だったわ。
あれは・・・何か目的があるわね。」
?????
「あー・・まぁ、そうだろうな。」
ローグリアムさん分かるんすか?!
「えーと、解説をお願いします。」
2人がこっちを向いて、それから呆れたような仕草をする。
「リフレって、戦闘能力に全ての才能を持っていかれてしまったのかしら?」
まるで俺が脳筋みたいな事を言う。
だがそれは間違いだ。頭が残念なのは否定しないが、元々筋力すら無いんだぜ!
俺が強いのは、ゲームのステータスのおかげだ。はっはっはっはっは!!
・・・・・悲しくなってきたな。
「要は、敵さんが俺達の船に、何か仕掛けに行つもりだって事だ。」
ローグリアムが簡潔に述べた。・・・って、何故そうなる?!
いや、結論を先に言ってくれるのは有難いよ?
だけど、経緯も大事だと思う!!!
「いい?向こうにはリフレの戦力としての脅威を見せ付けているの。
だから、あちらの船で戦わせるのは、向こうにとってはNG。そこまではわかるかしら?」
うん、わかるわかる。
最悪、沈める覚悟してたし、試しにぶっ放してみてそれができるって手ごたえもあった。
客観的に見てもそれは同じだろう。
俺が頷いて見せると、マリッサが続ける。
「そこへ、リフレの能力を知らない、低脳そうな男が交渉役に選ばれた。
これが『おかしい』ってところはどう?」
低能www
まー言われてみると、確かに。いや、低能の方じゃなくてな?
交渉役というのは、やはり相手の事を少しでもを知っていた方が有利だ。
で、おそらくは・・兵士のレベルって高くても50くらいっぽい。
戦力としてはまず間違いなく俺は脅威だろう。
それを怒らせるような交渉は、普通なら避ける。間違いなく避ける。
けど、あの男は、そういうのを控えようとする様子すら無かったな。
マリッサがこちらの様子を見ている。
理解できている事を示す為に頷く。
「なら、あれは交渉役じゃない、と考えるとどうかしら?」
「交渉役じゃ、ない!?!」
大事な事なので思わず繰り返しましたよ。
「あの小男・・それと警備隊の目的は、和解ではないのだわ。だから、穏便にいく必要は無い。
ついでに、大事なことを何も聞かされてないあたり、あの小男のポジションも微妙なところね。
多分、そこそこの権限はあるのだけれど、もっと上から切り捨てても構わない、もしくは目障りくらいに思われていても不思議じゃないわ。
それで、私達の船に何かを仕掛けるように命じられて、ごく自然な理由で乗り込めるようにする必要があった。
あそこで下手な事を言うと、目的を達する事ができない。だから我慢したのよ。
そして、不測の事態が起きても対処できるように、見殺しや尻尾切りのできる人選にした。」
確かに・・筋は通っている。・・・気がする。
でも、それは確かか?マイクをONにする。
「す、推測だろう?」
「状況から判断した、起こり得るシナリオの事をそう呼ぶのよ。
ちなみに、彼らが同行しない時点で本気でこちらの調査をするつもりが無い事がわかるわ。」
確かに、証拠隠滅や口裏合わせへの対策がガバガバなあたり、まっとうな調査があるとは思えない。
起こり得る・・。そうだ。常に最悪を想定しておけば、備えられる。
「最悪、何が起きると思う?」
「分からないわ。
何かモンスターを呼び寄せる仕掛けがあるのかもしれないし、凶悪な兵器があるのかもしれない。
証拠を捏造されるかもしれないし、誰かと接触して買収行為が起きるかもしれない。
可能性だけなら何だってあるわ。要は、それを起こさせないようにどうするか、なのよ。」
話し合いで誤解が解けて解決!なんて簡単にはいかないとは思っていたが、思ってたよりも事態は深刻なようだ。
「リフレ、もし『思ってたより酷い』と思ってるなら言っておくわ。
あの集中砲撃を食らった時点で気付くべきよ。」
集中砲火。あのファイアーボール滅多打ちの事か。
そうか。そうだな。しかし・・・
「あと、文化の違いと常識の違いの区別が付かないなら、『軽い怪我で済んだら文化かもしれないけど、中には死ぬ人も出るレベルだったら常識的にアウト』というのを覚えておくといいわね。
まさか、あれを見て『ちょっと火傷するくらいかな』とか思ってるわけじゃないんでしょう?」
「・・・お。おう。」
流石に、そこまでは思って・・・。ちょっと近い事は思ってたけど、でもそこまで酷い勘違いはしていない。
そういえば酒場でマリッサが絡まれた際に、抉り込むようなボディブローを放って冒険者をぶっ飛ばし、その後で仲良くやってたみたいだから、割と暴力的な感じの文化なんだなーと思っていたけど、そう伝えたら呆れた顔をされたっけ。
でも、否定はされなかったから間違ってはいないんだろうけど、それとこれとは話が違うらしい。
まぁ、違うわな。分かるんだけどさ。
集中砲火は、なんていうはその、こう・・・理解が追い付かないところにあるんだよな。
そもそも、なんでいきなり攻撃的になったんだ?
砲撃されたのは俺がスパイやテロリストだと思われたからなのか?
でも、普通は先に取り調べとか尋問とかだろう?何もされてないんだけど?
話し合いになら抵抗するつもりは無いし、した覚えもないんだけど??
というか、スパイだのって判断は、いつ、誰にされたんだ?
いつ、って言うのは置いておくとして、誰にっていうのは重要だ。
警備隊・・いや、その上か。
領主か?都市か?国か?
そして、俺達の大船に乗っている奴らは、それに巻き込まれたのか???
「・・・。しっかりなさい。これには何か裏があるのよ。
少なくとも、ギルドが敵対しているとは思えないわ。
ギルドが敵対していないって事は、領主も敵対していないわね。
そして、敵はモンスターをある程度操る術を持っている。
だとすると、後ろ暗い奴らが何かしているに決まっているわ。
とにかく、今を乗り切るのよ。」
俺が落ち込んでいるのに気づいたのだろう。マリッサが強い口調で、断定するように言う。
小舟は俺達の大船の目前まで近付いていた。




