本陣(?)に乗り込みたい(仮)
何か不測の事態が起こるかもしれない、油断はできない。
・・・そう思っていた時期が俺にもありました。
2隻目の小舟も抵抗を見せたが、危なげなく撃退。無傷の小舟をゲットしたところでマリッサさんがやって来たので小舟を託す。
次の小舟からは逃げるようになったが、俺の方が早かった。
スイバを使っての移動でもだが、全力で泳いだら、水の抵抗を受けて身体が浮き上がるレベルだ。
やっと2隻目を確保したところで、増援を連れて来たマリッサさんの小舟と、確保した小舟に乗った仲間達でチェイス状態になった。
俺?燃料が勿体ないので静かにしていろと言われたよ。戦闘には参加したけど。
3隻目を確保したところで、敵に動きが見える。
放り出された数名を拾った小舟が2隻、降伏してきたのだ。
他の小舟が、警備隊の大船に助けを求めたが、この期に及んで接近を拒否されたのを見て、あちらに行くのを諦めたのだろう。
こちらの3隻の小舟に囲まれて先導され、船の開閉部から1人ずつ連行されて行った。
こうなれば、小舟の数的には完全に形勢逆転である。
牧羊犬に追いかけられる羊・・・いや、オオカミの群れに襲われる子羊がごとく、取り囲まれ、体当たりされて転覆したり、停止して抵抗を試みるも数の暴力でボコボコにされていた。
俺?戦闘にも参加してなかったよ。ただ座っていただけだ。
一応、ほら、切り札的な役割があったというか・・・ね。
メテオ的なあれを大船に当てた魔道具は、降伏したメンバーからは回収されている。
で、小舟は軽い点検の上、念の為に警備隊の大船からの射線にならないように置かれている。
船に何か仕掛けがあっても対処できるようにって事だな。
ちなみに、何かあったらいけないと、自作聖水を飲まされたので、現在、俺の体は光り輝いている。
光の黒騎士である。自分で言って何だが、意味が分からない。
しっかり点検された1隻に乗って、警備隊の船の近くまで行ったが、バレーボールぐらいの火の玉が飛んできた。
それ以上近づくのは危険らしい。
「警備隊の方、ブラゴンの群れの撃退は終わりました。
現在、この小舟に乗っているのは、冒険者の船の代表と修理スタッフ、護衛のみです。
今後の方針について話をしたいのですが、乗船の許可を頂くか、代表者の方にお話を聞かせてもらえませんか?」
リーダーらしき男が指示を出したようで、一人が引っ込んだ。おそらく、伝令だろう。
代表者は中にいるようだ。
しばらくして、その男が船上のリーダーらしき男になにやら伝える。
リーダーらしき男は、おそらく何か言葉を交わして頷いたのだと思う。
・・・・・。
しかし、15分ほど待ったが、何も起こらなかった。
近づくと、また火の玉。
「えーと、もしも敵対関係にあった場合、大船で近づくと大変なので、小舟で接近させてもらっています。
不信感があるのかもしれませんが、代表者と修理スタッフ、護衛の3名しか乗り合わせていません。
乗船、もしくは声を届ける魔道具があれば、それで対談できればと思います。
旗での対話でも構いません。お願いします。」
再度、伝令。しかし、反応無し。
そんな感じの呼びかけを4~5回繰り返した頃、マリッサが我慢の限界を訴え始めた。
修理スタッフを兼ねた職人の代表である。
「あちらに対話する気なんて、これっぽっちの無いのよ。
どうせ何とかなるんでしょう?突っ込んでしまえばいいのよ。」
「いや、さすがに無理があるだろう。リフレ個人ならともかく、我々もいるんだぞ。
そもそも、乗り込むにも正当性が・・全く無いでもないが、足りない。
向こうからすれば不審船に過ぎない現状、何をされても自衛を主張されるだろう。」
俺も思った正論をぶつけたのはローグリアムだ。
冒険者代表を兼ねた、マリッサさんの護衛である。
マリッサさんもそこそこ戦えるが、コランダ周辺というのは平和で強いモンスターは殆どいない。
初心者殺しのフォレベアか、遺跡にでも入らない限り、レベルアップをしにくいのだが、最近まで遺跡に入れなかった事を考えるに、あそこで育った割にレベルが高い方だと思われる。
それでも、レベルが低い事実を塗り替える事はできないので、護衛を頼んだのだ。
アーディ?あいつがマリッサを守れると思うか?
守れるかもしれないけど、色々と不安なんだよな、日頃の行い的に。
そして、代表者といえば俺である。代表者で自衛もできる。
つまり、見た目の倍の戦力を持っているという感じだ。
普通は6人くらいで行くものなのだろうけど、相手に警戒させてしまわないようという配慮と、連携を取りやすいように、また、俺のフォローできる範囲を考えての人員だ。
さすがに5人も連れ回して、全員の行動を把握したり、何かあった時に対処できそうにないからな。
まぁ、相手の船に乗れる保証もない訳だけど。
「そもそも、強行突破するならリフレだけで良かったと思うんだが・・?」
お遣いというのは形式も重要視されると、俺の単独行動に待ったをかけたのはローグリアム自身である。
「だから、その段になったらリフレだけ行けばいいのよ。足手纏いはここで待っているわ。」
「それもそうか。・・お、伝令が戻って来たな。」
おいコラ。それもそうか、じゃねーだろ。
そう思った時、ようやく敵船からの反応が返ってくる。
声を張り上げた様子は無いし、ドワーフ製通信機器は付いているが船同士しか繋がっていないという。
他にも声を届ける手段があるという話は聞いていたので、おそらくそれだろう。
「お前ら、全く持ってうぜーわ。敵に決まってるだろうが、バカめ。」
・・・・・。
「はい?」と聞き返そうとした時には、この小船に向けて“バスケットボールよりもちょっと大きい”くらいの火の玉がいくつも放たれていた。




