優しさの半分が何でできているか(仮)
アスカラ、シゴト、ガンバル。
さて、穏便に済ませる事が出来なかった場合についてだが、マリッサさんにこう指示を受けている。
「とにかく、徹底的にやるのよ。最初の一隻ぐらいなら沈めたって構わないわ。
それを見た他の船が、大人しく差し出した方がマシだって思うくらい、思いっきりやるのだわ!」
と。
沈めたら、ここに乗っている人員を運ぶ事ができなくなるんだが。
そう反論すると、マリッサはシャドウボクシングのような動きをしながら、こう返した。
「貴方はすでに、何度も命を狙われているのよ?
命を大事にするのは悪い事とは言わないけれど、それで自分の命を、もしかしたら仲間の命を削る事だってあるのだわ。
やられる前にやる。それだけの実力があるのだから、一思いにやっちゃった方がいいのよ。」
殺っちゃえと、そうおっしゃる?!?
冗談めかしていたのは、そこまでだった。
「リフレの優しさは、言い換えればヘタレた根性なのよ。
見捨てるのが怖いから助ける、放っとくのは心残りだから手を差し伸べる。
ええ、結構でしょうとも?少なくとも、それだけなら害はないのだわ。
でも、敵の命と、自分や仲間の命を、同じ天秤にかけたらダメなのよ。
相手は、こちらの命の重さなんて、これっぽっちも考えてはいないの。
穴に落ちている悪人に手を差し伸べたら、引きずり込まれて踏み台にされた上で穴を埋められるだけなのだわ。」
マリッサさんは真顔であった。
そして、俺よりも過酷な現実を知っているようだった。
いや、俺も知らなかった訳ではない。
ただ、それに命が掛かった事が無いだけ・・・・・。
いや、これまでの事を振り返るに、この世界に来て、普通のステータスならば命に関わっていたであろう事が何度かあった。
ただ、事故だ何だと良い方にこじつけて考えないようにしていただけだ。
俺は、ストレスに弱い事を口実に、楽な方へと自分の思考を誘導して、考える事を放棄していた。
そのツケが回ってきているという事だろうか。
俺に向けられた殺意が通り過ぎ、遥か遠くの水面でバシャリと音を立てた。
「いや、考えてたとしても、この展開はおかしいだろ。絶対におかしい。」
俺の独り言を、――さっきまでの接客用の声ではない低い声を、拡声器(仮)が外に伝えた。
その瞬間の彼らの表情は、まるで何か見てはいけないものを見たかのようで、ちょっとおかしかった。
身体を低くして足の裏でしっかりと水の大地を蹴る。
スクリューの効率は無いが、スイバという異常な浮力と、俺のAGIを合わせれば、モーターボートに匹敵する加速が得られる。
当然、並走をした事が無いのでイメージ上の感覚に過ぎないが。
的確に俺を捉えた第三射。
真正面から向かったので当然だが、俺に切っ先が向いているので打てば当たる。
そんな矢を、俺は剣を振るって叩き落した。
敵に徹底的に恐怖を叩きこむなら、正面から叩き潰すに限る。
それだけの高いステータスを持っているからこその手段だ。
「ひっ。」
そして、懐に潜り込んでしまえば、船首に取り付けられた固定砲台に意味など無い。
俺はどこぞの王子もかくやといった感じで、颯爽と船に乗り込んだ。
「やぁ、いい天気だね。」
爽やかに笑みを浮かべる。
俺の笑顔など見えもしないだろうし、天気はむしろ悪い。
だが、俺の心境は妙に晴れやかだった。
ナイフなど、それぞれの武器を手に4人の男達が飛び掛かってくる。
「いーち。」
最初に飛び掛かって来た男のナイフをもった腕を掴み、振り回してけん制し、その勢いで別の小舟に向かって放り投げる。
足場が不安定なのもあり、小舟には当たらずに2メートル程離れた水面に、水柱を立てて着水。
「にー。」
けん制にひるんだものの、立ち上がったまま槍を構えていた男の槍を掴み、そのまま投げ捨てる。
すぐに槍を離したせいで、男はすぐ近くにバチャーンと派手な飛沫と共に着水。
槍はあらぬ方向へ飛んで行ってポシャリと音をたてた。
「さ・・」
「くらえ!!」
何らかの魔道具を向けられ、身構えたが何も起こらなかった。
あーはいはい、呪い系ね。
ビリっ!
「へっ。」
驚かされたので、胸倉を掴んだら服が破けたけど、立ち上がらせるだけの強度はあったので良しとしよう。
魔道具は没収。そして男も
「さぁん!!!」
ボッシャーン!!
没シュート!!・・・うーん、船の向こう側に落ちたな。
でもだいたい掴めて来たぞ。
最後の1人。
「ゆ、許して・・許して・・・!」
降参、・・・か?
男は両腕を上げて、ヘラヘラと媚びるような笑顔を浮かべているし持っていた武器はロングソードだが、足元に転がっている。
「えーと、大人しくしていれば危害は加えない。
ただし、それなりの罰則があるものと覚悟して欲しい。
っつっても、降参したからには人道的な・・・ッ?!」
魔道具がわずかな音を拾う。その笑みに胡散臭さを感じた、というのもある。
そのギラついた笑みと背後の気配に身をよじった瞬間、バリスタの矢を武器にして、さっき近くに飛ばした男が背を突いてきていた。
「危ッ・・・」
と同時に、降参のポーズを示していた男がロングソードを拾い、追撃する。
が、俺はスイバ・・つまり水上歩行が可能な装備である。
船上の狭くて不利な場所で戦ってやる必要は無い。
ひょいと船から脱出し、間抜け面の男達と対峙し直す。
「ディン!」
おそらく名前であろう叫び声に、魔道具の男が反応。
以心伝心といった感じで小舟を動かす魔道具を起動する。
逃がすかよ!
船を沈めたって良い、徹底的にやれ、だ。
俺は、2人の間の広い空間に向かって剣を振り上げ、
「なっ・・やめ・・・」
「急げ!!!」
渾身の力を込めて振り下ろした。
意識はしていなかったが、斬撃がスキルの光を纏う。
その瞬間、パギャッという音と共に小舟が真っ二つになり、起動した魔道具の効果で動き出した後ろ側の船体が、前の船体に潜り込んで、ものすごい速度で沈没した。
一時の間を置いて、残りの半分もひっくり返る。
予想だにしない挙動を見せた小舟に、どうしたもんかと身構えていると、沈んだ後ろ半分の船体が、海中に突入した速度以上の速度で海面に飛び出してひっくり返り、その場で円を描くように旋回を始める。
ほぼ同時に浮かび上がった2人は、暴走する船体の半分に怯えながら泳ぎ始めた。
泳ぐのに邪魔だったのか、それとも事故(?)の衝撃で落としたのか、その手に武器は、無い。
俺も剣を収め、その肩を掴む。
俺のようにアイテムボックスに剣を突っ込んだのかとも思ったが、再び武器を振り回すような事は無かった。
「ひ・・・やめ・・」
「た、たすけ・・」
メリーゴーランドのように両手に掴んで振り回す。
スイパの浮力は2人の体重が加わった程度じゃ落ちないらしい。
ちょっと持ちにくさを感じたが、連続で強引に投げ飛ばした。
「タスケテ、タスケ・・・」
1人は巨大な手裏剣が如く、回転しながら水を切るようにして飛んでいき、他の小舟の近くへ。もう1人は5メートルほど先にふわりを飛んで、パーンと水に叩きつけられていた。
・・痛そうだけど、そんなに高く無かったし、・・・そこそこ元気そうだし、溺れ死ぬ事は無いだろう。
俺は、波によって不規則に旋回する半分になった小舟の残骸を回収し、一度船に戻ったのだった。
3の倍数と3の付く数字の時にだけアホになる、という芸風で流行った方がいたけど、アホだった(アホになった)らそれできないよね・・・。
ただアホっぽい口調と表情でポーズを取ってるだけだよね・・・。
まぁ逆にそこだけ乱数で間違える方が難しい訳なんだけれども。むしろできたら天才。




