残念な事に敵です(仮)
短く済ませるけどさらっと残酷な描写があります?
先ほどの魔法攻撃だが、そう何度も立て続けに放てるものでは無いようだ。
後から知ったことになるが、小舟が中継してようやく届く上に、この船に目標物が置いてあり、先ほどの砲撃でそれが吹き飛んでしまったが為に、そして波で小舟が動いてしまうが為に、狙いが付きにくくなったという事だ。
それだけ、遠距離を繋ぐ魔法や魔道具と言うのは、扱いが難しいのだ。
ファンタジーの話じゃなくても、だ。例えば、遠距離からの射撃。
正確に当てないのなら、距離だけではなく、風向きなんかも計測しないと当てることはできない。
空気抵抗の少ないあのフォルムかつ重い小さな弾丸を、時速1,000㎞だのという想像もつかない速度で飛ばしても、距離が開けば命中率が下がるのだ。
漫画の知識ではあるが、大きく間違ってはいないだろう。
事実、あそこから狙って届いた弓など奇跡のようなもので、ほとんどの弓は海面に吸い込まれているし、射程最大の銃キャラでさえ、あの距離を当てられるかと言ったら・・・・。
レベル補正でもしかしたらという感はあるが、おそらく無理だろう。
スキルで繰り出される弾丸は、無制限だがあくまでスキルなのだ。
射程外とはつまり、スキルの範囲外と言う事になる。
仮に、実物の弾丸があったとしても、こんなに遠いんじゃ、船体に当てるのが関の山だろうけど。
ちなみに、スキル以外の弓矢もちゃんと存在して、船体に刺さっている。
スキル持ちであれば無制限に矢を放つことができるが、無くても扱えるというのがこの世界における常識のようだ。
ゲームでは装備できるキャラと出来ないキャラが明確に分かれていたが、この世界ではスペシャリストかそれ以外か、という認識でしかない。
そりゃそうだ。医者じゃなくてもメスは使えるし、免許を持ってなくても車を動かすことはできる。
使いこなせるかどうかは別として、だ。
話を戻すが、スペシャリストでさえも難しい“距離”という問題をどうにかするには、何らかの条件を満たさないといけないのは道理だ。
もう一度同じ攻撃が来るとしても時間を必要とするようであった。
だが、問題はこちらである。
その距離が邪魔して反撃ができない。
何しろ、小舟が出払っているのだ。
ならば、出られる人員は限られてくる。
仕方ないのだが、結局はまたソロである。
マリッサさん?連れて行けない訳ではないが、正直、足手まといだ。
残念ながら今回の場合、俺が単独で行くのが、唯一にして最善なのである。
何しろスワン-試作型-があるとはいえ、水上行動は陸上と勝手が違う。
ただでさえレベルが低い上に、廉価版なので脆いし、燃料のコストも考えると連れて行くのは難しい。
2人で行くぐらいなら、俺が倍行った方がずっと効率がいい。
それが分かっているので、マリッサも出るとは言わないが、悔しそうにしている。
敵性戦力は小舟でさえ複数人乗っているし、警備隊の大船にはさっきの砲撃のような魔法もある。
こっちの怪我人は4名で、2名が相当な重傷を負った。
既に回復しているとはいえ、身体の一部を飛び散らせて呻いている様は地獄絵図だった。
幸いにも死者はいなかったし、いたとしても蘇生薬を持っていた訳だが、俺のポットが無かったら致命傷だった。
そんな怪我のせいが、肉の一部が抉れたまま戻らなかった。HPポットの限界を知った。
後に万能薬や蘇生薬も併用したらどうなっていただろうか?と思い至ったが、後の祭りである。
軽症で済んだ者もいたが復帰してこなかった。
この場にいる全員の目に焼き付いているだろうあの光景は、当事者にとったら出来立てほやほやトラウマになってしまったのだろう。
連れて行ったは良いが粉々になりました、ではシャレにならない。
ちなみに、見張りによると小舟の2隻が大船に向かって行って、追い払われているようだ。
あいつら、味方同士じゃないのか???
結局、出番が無かった戦闘員達は、未消化の戦意のぶつけ場所を求めて甲板を彷徨い、さすがに喧嘩こそしないが、剣を突き合わせて構えたりと模擬戦の真似事をしている。
意識はちゃんと警備隊の船に向かっているし、構えながらも笑顔を浮かべている者も居る事から、それなりにリラックスできているようだ。
彼らなりに、戦意を切らさないようにしているらしい。
復帰不可能な乗員は、戦闘員・非戦闘員に関わらず、砲撃に強そうな部屋を割り当てられて大人しくしている。
その他の乗員は、今後の流れを分析して作戦を立てたり、何か作ったりしている。
この船の中で俺に出来る事は・・あるかもしれないが、もっと重要な割り当てがあるので、そちらを片付けてしまおう。
俺は、高いところから飛び込むのもアレなので、船の戻る時に使ったルートを戻る事にした。
幸いにも、周囲に人はいない。
CC:リーフレッド
まぁ、同じキャラなんだけどね。
恰好が随分と違うので、見られないに越したことはない。
俺がやる事は、小舟も大事なウチの戦力なので、“説得”して返却してもらう事。
そして、警備隊の側から戻ってもらい、情報提供してもらう事。
もちろん、それなりの罰則はあると思われるが、敵が警備隊では仕方ない部分もあるだろう。
何しろ、国家公務員・・かどうかは分からないが、国の持つ戦力である。
警察官的な正義として振舞っているのか、それとも開き直って悪の手先として振舞っているのかは分からないが、何を吹き込まれているのか興味もあるし。
それで、説得に応じた場合は、穏便に船に向かってもらう事になっている。
「こんにちは、聞こえますか。聞こえたら手を振ってください。」
拡声器のテストは終わっているが、念の為である。
外部からの声も聞こえるようになっている筈である。
バシュッ!
俺の声に応えたのは、バリスタによる槍のような矢の射出であった。
誤射を期待したいところだが、第二射が用意されている。
やはり、敵なのか。
がっかりすると同時に、こうも思った。
「ですよねー。」
期待と予測が同じとは限らない。
敵意を向けられ、攻撃をされる。
予測していた事とはいえ、落胆してしまった事を責める者などいない・・おそらくマリッサさんぐらいしかいない筈である。
小船の乗員は4名。いずれも雨合羽を厚くしたような上着を羽織っている。
特に揃いの服という訳でもないのだが、特徴が揃ってしまったが為に没個性的なファッションの集団と相まみえる。
マリッサ「甘いのよ!期待は自分のコントロールできる範囲でしなさい?妄想ならお子様でもできるのだわ!」




