昼食
時刻はお昼過ぎくらいか?
マリッサは、少し無理をしたみたいだ。
倒壊した遺跡のブロックのに座り込み、息を整えている。
俺の提案で、昼飯となった。
2人の昼食が酷く侘しいものだったので、鍋一杯に作ってもらったスープを、マグカップに入れて出してやる。
「この間、調理器具なんかをディアレイで入手してきたんだ。」
俺のドヤ顔はスルーされた。そのマグカップだって手に入れて来たんだぞ。
そして遺跡だが、見事なぐらいに埋もれている。
土というか、草木に埋もれている。
とてもじゃないが、一度掘り起こされたようには見えない。
「これはいつから埋もれてるんだ?」
俺がそう聞くと
「全くわかってないのよ。古代文明のものじゃないかって話しだけど、調査がされたことは無いわ。」
とマリッサが答える。
なるほどなー。って、え?調査されたことがない???
そんなわけないだろ?って思ったが、冗談を言った様子は無いし、冗談を言う場面でもない。
この遺跡は、“掘り出した時にモンスターが溢れかえった”という説明のある遺跡で、中はモンハウの多い構造だ。
範囲攻撃をガンガン打ってレベル上げをするタイプのダンジョンで、つまりは範囲攻撃のないキャラクターにとっては死ねるダンジョンとなっている。
それが・・・掘り起こされてない???
俺の背に冷や汗がにじむ。
「このダン・・じゃなかった、遺跡が掘り起こされる予定ってあったりするのかな?」
「掘り起こすかどうかは分からないけれど、王都から調査団が派遣されるって話があるわね。」
なるほど。
確か、掘り出したのは王都の調査団だったはずだ。
そして、一番近い町・・・つまりコランダにモンスターが押し寄せるのだ。
「まぁ、そんな話は前からあるけど、一度も来た事がないのよ。もし調査団が来れば、必ずコランダに寄るはずだから間違いないわ。」
ふむ。とりあえず、当面の拠点はコランダにしておこう。
離れる時は、町の人とも知り合ってしまったし、危険度を下げてからにしたい。
ゲーム中ではその“過去に起きたイベント”のストーリーを進行できるのは槌キャラだけだったが、“まだ起きていない”となれば話が変わってくる。
その上、CCで強力なスキルも使える。
「ってことは、誰も入ったことがなくて、遺跡の中の宝はそのまま・・ってことか?」
ギルディートの言葉に、マリッサの動きが止まった。
いや、駄目だからね?レベル足りてないから!しかもモンハウだから!
「・・・宝が手に入れば、金になる。」
そう言うギルディートの声音はやけに真剣で、嫌に現実味を帯びていた。
「宝を手に入れる前に死んだら意味が無い。ダンジョン探索は命がけだぞ。
潜る為には準備が要る。準備には金がかかる。怠れば死ぬ。怠らなくても死ぬ時は死ぬんだ。
夢を見るのは構わないが、現実に持ち込むなよ。」
自分への忠告でもある。・・・これはゲームじゃない。
ゲームのレベリングなんかで、何度も死んでいるが、現実での命は1つだ。
それは、死に掛けで返ってきたボーラの家族の反応を見ても間違いないだろう。
復活ポイントで生き返って、「さて、もう一丁やるかー」というわけにはいかない。
何度自分に言い聞かせても、ゲームのように考えてしまう瞬間が何度もあるのだ。
「わかってるよ。」
むっとしたような声を上げて、片耳を振るギルディート。
雑念を振り払ったのかな?
昼食を終えて、「帰ろうか」というと、これだけで帰るのかと言われた。
いや。遺跡もう見たし。
マリッサがアイテムボックスからスコップを出し入れして、何やらアピールしている。
だからレベルが足りないんだって。中の内容を知っているなんて言えないけど。
ギルディートもそわそわしている。仕方ないな、もう。少しだけだぞ。
俺は、アイテムボックスから帰還の札を出し、2人に渡す。
「何かあったら迷わず使え。まだいける、という考えは持つな。死ぬ奴はだいたい死ぬ前にそんな事を言ってる。」
2人共、顔を見合わせたが、おずおずと受け取った。
あれ?なんか仲良くなってるっぽい?腹が減って気が立ってたのか?
「回復薬はちゃんと持ってるな?町に戻っても、状態異常が起きて倒れるかもしれない。これも持っとけ。」
万能薬を5つずつ渡す。本当は20ずつぐらい渡したいが、補充できないからギリギリの数だ。
それでも、何かあった時の予備の予備くらいにはなるかな、と。
「あの、後で金を払えって言われても無理なんだけど。」
初めて会った時のマリッサと同じ事言ってら。仲良しか!
「俺だって補充の利かないアイテムを渡したくないが、命には代えられないからな。
死なれたら元も子もない。気になるなら、元気で帰って返してくれればいい。だが、出し惜しみだけはするな。」
それでも、各キャラそこそこ持ってるはずなので、一部の希少アイテムのように、何が何でも確保しておきたいというわけでもない。
それに、アイテムなんぞ使ってこそ価値があるからな。
やっと事の重大さに気付いたのか、神妙な顔をしているギルディート。
まったく動じていないマリッサ。いや、もうちょっと慎重であって欲しいな。
俺は、マリッサが出したスコップを手に取り、地面に線を付ける。
「とりあえず、この線の中を深く掘っていてくれ。
俺は、中のモンスターが溢れた時に蓋になりそうな岩を探してくる。」
少しの間、考える素振りを見せていた2人だが、マリッサが掘り始めると、ギルディートも追従するように掘り始めた。
さて、俺は転ばぬ先の杖でも探して来ますかー。