あくまで推測である(仮)
教習所の予約が取れねぇ・・・。
ようやく合流した俺達は、情報の交換を行う。
つっても、俺は「滞りなく作業が終わった」という事を伝えたのみで、あとは、この船の現状についての説明を聞いたり、質問に答えてもらったりと、殆ど聞く側に徹する事になった。
その一。ブラゴンについて。
攻撃をしてきているブラゴンは3体。そのうち1体は俺によって討伐済みだ。
放っておけば、棒を建てた砂山を少しづつ削るように、いつかは船を沈める事もできるだろうけれど、一撃で船体に穴を開けて沈めるという程ではないそうだ。
ブレスは吐かない、と。
あー、ゲームでもブレスを吐くブラゴンは奥地にいる奴だけだったな。
レベル100を超えると英雄だっけ?
そんな世界で、高レベルフィールドの決まった場所にしかいない筈のブレスを吐くブラゴンが、そうそうこんな所にいてたまるかという話ではある。
が、そもそも暗闇を好む筈のブラゴンが、こんな場所に出て来る事自体、不思議ではある。
「あいつら、人との戦闘に慣れている節があるのよ。」
考えられる事はいくつかある。
元の環境から追い出されて、結果として人を襲うようになったというのも、その可能性の一つではあるが。
「おそらく、人為的な力が働いているわ。」
飼育、訓練されていると見た方が納得できる事が多いという話であった。
一体、何の為に?という所になるのだが、そんな事を考えるのは後でいい。
こんな海の真ん中で手に入る答えなど、おそらく無いだろうし、端的に言ってピンチである。
船上に人さえ配置していれば、ヒットアンドアウェイを繰り返し、船への損害はさほど大きくないらしいが、それでも放っておけば、いずれ船は沈む。
そういう見方ががあるよ、と。知能があるようだから気を付けろよ、と。
今は考察などその程度で留めておく他ない。考えるよりも、何らかの手段を講ずる必要があるのだから。
その二。警備隊について。
俺はほんの少ししか戦っていないのだが、それでもあの援護攻撃は危ないと思う。
実際、仲間達の負傷は、原因が警備隊の誤射によるものが多くを占める。
今のところ、ブラゴンの一撃に匹敵するような脅威では無いのだが、それは結果論であって、もしも当たり所が悪ければ死者が出ていてもおかしくないとの事だ。
「仮にこの窮地を脱したとしても、向こうは援護射撃だったと言い張るのは目に見えているのよ。
犠牲者が出たとしても、不慮の事故だったで済ますつもりなのだわ。
これだけの距離だし、誤射になるのは不自然ではないのよ。
だったら近寄って来れば良いのだけど・・前日の座礁の事もあるし、それを言い訳にするでしょうね。
第三者がいない環境だもの、向こうの言い分は正当性があると判断されるわ。」
これは、マリッサだけの判断ではなく、戦闘員の代表と非戦闘員で作戦会議的な話をして出た結論らしい。
警備隊がこちらを敵と判断しているのか、それとも本当に援護射撃のつもりなのか。
それについては保留とされた。
「もし敵なら、この状況を作ったのは何者かという話になってくるし、あのブラゴンとの繋がりさえ考えなくてはならないけど、時間の無駄なのよ。
さっさと倒して、本人達に聞いた方が早いわ。」
その本人達に聞くにしても、その為に出した小舟が追い払われている状況である。
怪しいと言っても差し支えないんじゃないかと思うんだが。
それを聞くと、マリッサは非常に苦々しい表情を浮かべた。
「これは、ごく一部の、推測に過ぎない意見の一部なのだけど・・・」
2回「一部」って言ったな。
ここまで歯切れの悪いマリッサさんは、そう滅多に見れたもんじゃない。
「この状況を作り出した人物、主犯ではないにしても協力者が、あの小舟に乗った可能性があるわ。」
お、oh・・・それはまた。
確かに言いづらいし、あくまで一部の推測だもんな。
あの小舟は、周囲の反対を押し切った一部の乗員が乗り込んだものである。
口実としては、攻撃の一時中止と情報交換、そしてこの船までの案内。それだけ聞くと、ごもっともと思える話だが。
作業をする時には船を出さなかったのに、この時になって急に船を出す事に積極的になった一部乗員。
しかも、ろくな話し合いもせず、対立していた冒険者・作業要員が急に息を合わせて、それはもう素晴らしい手際の良さで船を出たのだそうだ。・・・確かに怪しい。
他にも、こちらの船はブラゴンに襲われているのに、向こうは襲われていないだとか、複合的な要素がある。
まぁ押し流された俺が追撃を受けなかったので、この船が最初の標的とされて、なんだかしつこく狙われているだけなのかもしれないが・・・。
とにかく、この船から見た限りはもちろん、客観的に・・相手の船から見たとしても怪しいとしか言いようがない小舟である。
俺だってそんな小舟が向こうから来たら、ちょっとお断りしたい。
まぁ通信機に反応は無いし、それでも連絡はしたのだが、怪しい奴という事は伏せている。
それで追い払われているというのも不思議な話だが。
その三。この状況について。
「そもそも、今回の遠征は、色々な事件が起きてゴタゴタしていたから、延期という話もあったのよ。
主に、私とロー・・グリアムが話を進めていたわ。
私は無理とは言わないけれど、急ぎ過ぎだという認識はあったし、日程通りに進める事に関しては、ギルド長も『もう少し準備を整えてからにした方が良くないか?』と消極的だったのよ。
それが、何らかの・・例えば政治的な圧力とか、そういうものじゃないかしら?それがあって、結局日程が変更される事は無かった。
当たり前のようだけど、今思い返してみれば、妙なのよね。」
実際に、日程の変更を前提にしたクエストであったし、ギルド側も依頼者側も日程の変更をするつもりがあった。
それが、強行ではないとはいえ、綺麗に日程通りになった。
俺の感覚としては、当たり前だという認識だが、そもそも、その辺からおかしいらしい。
とはいっても、「ちょっと珍しい」程度ではあるのだが。
憶測に過ぎないが、最悪の場合、敵の範囲が恐ろしい事になっている・・かもしれないというのだ。
警備隊がどうとか、そういうレベルじゃない。
もちろん、その枠組みの中に警備隊も入っているので、その最悪の憶測が正しかった場合、あの行動はあえての敵対行為という事になる。




