遺跡へ向けて
ここは、ゲームの世界だ。だけど、ゲームでは無い。
何度も自分に言い聞かせては、つい感覚がゲーム寄りになってしまう俺だが、ここまで驚かされるとは思いもしなかった。
団長を双剣キャラが慕っている。
いや、そのポジションは大剣キャラのものだったはずだ。何が起きた?
やっぱり、色々とゲームと違うのか???
違うといえば3~4頭身のグラフィックから一転した、団長も相当違って見える。
ストーリーにしか出てこないキャラなせいもあるが、名乗るまで誰だかわからなかった程度には俺のイメージの中の団長と違ったのだ。
確かにオッサンはオッサンなのだが、もっと渋みがあったというか、貫禄があったというか・・・。
まぁ、グラフィックやイメージと実在の人物とを比べるのは間違ってるって話だよな。
俺が混乱しているうちに、マリッサも合流し、自己紹介が終わっていた。
門の外なのでフル装備なのだが、ダフは高レベルなのか、良い装備だ。
ギルディートはそこそこ、かな。マリッサの装備が酷いように見えてしまう。
まぁレベル低いしな。
で、俺に模擬戦を挑んだ理由はクラン勧誘だった。
ギルディートは喧嘩を吹っかけては模擬戦をし、ギルディートが負けたら言う事を聞く代わりにと、勝ったらクランに入ってもらうという賭けをしてメンバーを増やしていたのだそうだ。
「つっても、こいつが勝手にやってるだけだ。“ガノッサス傭兵団”は、成長して居場所を失った孤児達の居場所だからよォ。」
ガノッサス傭兵団。やはり、傭兵団の名称は同じだ。
そして、孤児達を助けているのも変わらない、か。
ゲームと違う現象についてはさておき、ダフの人柄がゲームと変わらない事に嬉しくなる。
どうも、資金繰りが難しいらしく、ギルディートは腕利きのクランメンバーを増やし、クランの維持費をどうにかして増やしたいと考えているらしい。
一方、ダフは、「他人に頼ることを前提に生きる」事を良しとせず、元からいるメンバーでなんとかしたいらしい。
「でも無理だろ。ダフは直ぐに孤児院に寄付してしまうじゃないか。」
ダフに憧れて言葉使いを変えていたんだろうが、さすがに本人の前では恥ずかしいらしい。
これがコイツの素か。
それにしても寄付か。
そんなに苦しいならダフの傭兵団に寄付をしてもいいんだが、他人に頼ることが嫌だと言うのだから、受け取ってはくれないだろう。
どうしたものか。
そんなクランが寄付しないと立ち行かない孤児院ってのは、相当に資金繰りが大変なんだろうな。
後で、コランダの孤児院に寄付でもしに行こう。覚えてたら、な。
で、約束は約束なのだから、と模擬戦に誘われた。
クラン加入の賭けはしないと釘を刺したが、「それはそれ、これはこれ」なんだそうで。
模擬戦は楽しいからやっているとかで、“絡み”はクランへの貢献も同時に出来る趣味なんだそうだ。酷い話だ。
で、俺は先に誘ってくれたマリッサと遺跡に行くので、後日にしてくれと頼んだ。
しかし、何故かギルディートとPTを組む事になった。
いつまでなのか明確に分からないので約束ができない事、逃げ出す可能性もある事が理由だ。
人のいいダフさんはギルディートへの援護に駆けつけてくれたが、本来は忙しい人なのだそうで、これからノルタークへ帰るのだそうだ。
最後に「お前みたいな奴なら、うちに入ってくれてもいいぞ」なんて言っていた。ちょっと嬉しい。
返事は保留にしておいた。
俺は、いつ元の世界に戻ることになるか分からないような身の上だし、下手に居場所を作ると色々辛そうだし。
で、今、3人でのんびり遺跡に向かっている。
いや、のんびりなのは2人だけで、マリッサはわりと必死に歩いている。
「デートを邪魔しちまって悪ィな!」
「いや、その喋り方やめろ。」
ダフと喋ったせいで、ギルディートの偽物っぽい喋りが鼻につく。
それを指摘すると、最初はごねたが「ダフが安っぽくなるからやめろ」と言ったら素直になった。
本当にダフを慕ってるんだな。
ノルタークへの競争の際にも思ったんだが、こいつ、わりと足が速い。
レベルを聞くと言うのを渋ったが、狩場を聞くと教えてくれた。
暗黒洞窟の手前にある高原フィールドの1つだ。
高原フィールドではレベル60~80くらいまでが適性レベル、粘っても110程度までしか上げられない。
レベル150で侵入できる狩場を目の前にしながら、その狩場に入る為に別の狩場へと移動しなければならないのだ。
つまりはは低く見積もっても60レベルはあるだろう。・・が。
その割に装備があまりよろしくない。
マリッサと比べるとマリッサがかわいそうなレベルで良いものを装備しているのだろうが、40そこそこの装備に見える。
そのせいで勝負でノルタークへ向かった時も強さを見誤り、撒くのに時間がかかってしまったのだ。
そのフィールドのモンスターやダフの話なんかで盛り上がる。
ハイランドビーの話が出て、少し憂鬱になった。もう虫はいいや。
ゲームと実戦では違う事ばかりなので、参考になる話もあった。
で、話に混ざれないマリッサを不機嫌にさせてしまった。
しかし、マリッサに話を振ると、俺の英雄譚(笑)的な事を話し始めるので居心地が悪いのだ。
で、何故2人はいがみ合ってるんだ?
「ダフがそこにいれば一撃だったさ!」
「リフレには敵いっこないわ。」
いやいやいや。そこ対立するところじゃないから!
俺が“それを知っている”という事は言えないが、ダフには様々な英雄譚がある。
ダフはダフですごいし、俺はレベルだけはあるからな。
それでいいじゃないか。駄目なの?
そして、なんやかんやで遺跡へと到着する。