空気が悪い(仮)
書き途中です。
微妙に湿った空気。
操舵室へ行く事に関しては許可をもらったが、今はまだ甲板で時間を潰している。
そして、甲板にいる冒険者はなかなか捌けない。
それどころか、椅子やテープルを出してくる奴等まで現れる。
どういう事か?
「一番話を聞きたい相手がここにいるのだから、仕方が無いのよ。」
マリッサが説明する。
質問するまでも無く、というか、疑問に思えど「こういう事もあるんだなー」で放置してしまう案件についても、しっかり説明してくれるのは助かるといえば助かる。
「それは誰かとか聞かないわよね?」
「いや、それはさすがに・・・。」
前回も、帰りがけの船の上で「最初から甲板にいると知っていれば」などと言われたんだよな。
何故だか、というと語弊があるが、大物を仕留めた俺の話が聞きたいという人は多かった。
今回はまだ活躍をしていないが、今回は目印が・・・しかも妙に目立つという意味でパワーアップしたのが頭の上にいるのだ。
そして、相変わらずリーダー的なポジションで主力である。
俺の中身がどうであれ、話を聞きたいと思われるのも頷ける。
「まぁ、俺は船酔いの関係上、座れる席は限られてるけどな。」
「おかげで背後を取るのが容易い。もっと注意すべき。」
後ろから現れたのはティティとローグリアムだ。
そう言われても・・・と思っていたが、次に齎された情報に、思わず背が伸びた。
「前回の顔ぶれが減っていると思わないか?
例の組織か、それとも別の陰謀か・・・脅されたりして参加できなくなった者がいる。」
脅され・・・たり?
まさかと思うが、襲撃を受けて怪我したりって事は・・。
「何人か、襲われて怪我をしたドワーフ族もいるのよ。」
「!?」
俺への注意喚起はしておいた方がいいと判断したらしい、マリッサから衝撃的な情報を知らされる。
ここへきて初耳というのは恥ずかしいが、さすがに聞き逃す訳にはいかない。
この討伐が絡んでいるのだとしたら、いや、この場で聞かされたという事は、間違いなくこの討伐隊メンバーが狙われたのだろう。
関係ない話を今するほど、空気の読めない奴らではない。
なんだと?俺が顔をしかめ、詳細を聞こうとしたが、たまたま近くにいたドワーフがガハハと笑った。
「まぁ、俺達は全員参加だけどな!!!」
「はぁ?」
口から間抜けな声が出た。
怪我人も出たけど、脅しに屈しないドワーフさん達。
もしかしたら、冒険者よりもタフなんじゃなかろうか?
「だが、逆を言えば、だ。
穴を埋めた冒険者の中に、襲撃者の仲間が紛れ込んでいてもおかしくないってこった。」
・・・!
俺は、緊張に身を固くする。
呪術師の爺さんに襲われたのを思い出したのだ。
もしかしたら、あの爺さんは|魔道具を持たされただけ《・・・・・・・・・・・》の一般人かもしれない、なんて話を既に聞いている。
あの魔道具・・・呪いの即死攻撃はやばい。
レジストできる可能性はあるが、あの時、不死鳥の羽が効果を表したという事は死んだという事だ。
不死鳥の羽だって無限にある訳じゃない。数が無い『だろう』なんて話を鵜呑みにして、物量で攻められたら、おそらく勝てない。
当たり前の話だが、いかにAGIが高くとも、躱す事ができなければ当たるのだ。
躱す事ができない状況なんて、いくらでも考えられる。
視覚外からの攻撃やうっかりミス、敵の技術や飽和攻撃。寝ている時なんかはもう避けようがないだろう。
攻撃が当たってしまえば、後は俺の耐性との勝負になる。
ゲームには完全耐性装備のようなものは存在しなかった。
MMOAPGを謳っているが、対人戦闘を認めている、というか、むしろそれが主体のようなゲームだ。
ゲームを面白くなくさせてしまう、バランスブレイカー的な要素のあるものは排除されていた。
つまり、都合のいいチート装備は存在しない。
そうでなくても、現実化した世界にそんなものがあるとは限らない。
例えば毒ならDEF(防御力)、精神異常ならMEN(精神力)の数値で、そして消費アイテムを使って抵抗をする訳だ。
ちなみに、呪いはMEN(精神力)で抵抗する。
俺は、ゲームの数値的な意味でも、そしてストレスに対抗するとか曖昧で現実的な意味でも、メンタルには自身が無かった。
装備で底上げしているし、全く無いという訳ではないが、実際に当たって死亡しているのだから、その豆腐振りが伺えよう。
(・・・それでも、レベル100未満の冒険者と比べたらそこそこある筈なんだけど。)
ゲームではなく現実である今、数値ではない実際のメンタルに引っ張られている可能性はある。
何しろ、この世界に来て、レベル以外の数値が見えなくなってしまったのだから。
だから、記憶にあるステータスは、あくまで参考程度にと考えている。
AGL(敏捷性)1つ取ったって仕様が違い過ぎるし、防具の性能に対しての数字は見れるが、防具に覆われていない部分についてまで数字が反映されているとは楽観視できないからだ。
例えば俺が盾を装備していたとしても、それを使って防がなければ盾の数値は反映されない。
現実なら当たり前の事だ。
逆に、「持ってるだけ」で、装備して無くても一応の役割を果たす事もある。
「んな事を言ったら、脅されてあの変な奴等に協力しているドワーフだっているかもしれねーだろ。」
話を聞きつけた冒険者の1人が不服そうに反応した事で、思考に割かれていた意識が現実に戻ってくる。
要するに、冒険者がかなり減っているのは、謎の組織によって脅しを掛けられたり、怪我なんかをしたせいだ。
PT単位で行動する事が多い冒険者は、金に切羽詰ってない限りは、仲間が怪我をしたから置いて行こうという気にはならない場合が多い。
その上、今回は怪しい人物に襲われているのだ、置いて行ったら仲間がまた危害を加えられてました、とか洒落になってないだろう。
教われずに済んだだけならともかく、それに屈しなかった冒険者が「冒険者が怪しい」的な事を言われて良い顔ができる筈が無い。
一方、脅されたけど参加したというドワーフだって、家族を残して出て来ている者もいるのだ。
「家族が人質にされていない」という保証はない。それに、前回参加した者が襲われているのに、全員参加しているドワーフ族こそ怪しいのでは?というのがこの冒険者の弁である。
周囲を見渡してみると、やはりというか、なんか妙な空気だった。
出発式の時にも感じた、ギスッとした感じはこれだったのかと思い至る。
「仲間割れは駄目だ。
俺は、職人として脅しに屈しないドワーフの矜持も、苦楽を共にした信頼できる仲間を思う冒険者の心情も、多少はわかるつもりだ。
それに、脅されて従わされる人の気持ちも分かるんだよな。
だから、何かが起こるとは考えたくないが、何か起きるまでは疑うのはやめよう。
もちろん、何も起きないのが一番だし、起こらないものだと思って油断するのも良くないだろうけど、敵があるとすれば、味方が争う事こそ思う壺だよ。
職人気質のドワーフのおっさんからすれば挑発したつもりはないだろうし、冒険者の君だって、普段は何とも思わなかったかもしれない。
それは、この空気を作った、襲撃者のせいだ。とにかく、ここはお互いに収めてくれないか?」
周辺でも口論未満の小競り合いは起きていたらしく、気まずそうに矛を収めていく討伐メンバー。
そして、分かっているのかいないのか、頭上で伸び縮みするデブスザク。
狙ったわけではないが、おそらくシュールでコミカルな絵面となっている事だろう。
空気が弛緩していく。
ってか、でかくなったせいか、スザクの行動が地味に俺の頭を揺さぶる。
高STR(腕力)のおかげで、外見上は微動だにしないが、それなりに質量が増しているのだろう。
体重移動がわかりやすくなったせいだろうな。影を見ずとも何やってるか想像が付くようになった。
鬱陶しいからやめろ、と言う程ではないが、コイツを頭に乗せて行動するのは、そろそろ考え直したほうがいいのかもしれない。




