ある組織の動揺3(仮)
書き途中です。
全てが終わってからのネタバレ予定だった部分を先にしてみたんで、ちょっと調整が必要かもしれません。
この部分は書き換わる可能性があります。
「うん。君達の中では、確かに僕は異質だ。そういう目を向けたくなる気持ちも分かる。
けど、僕はそれなりに組織に貢献してきたつもりだし、おかげでこの地位を獲得したと思っているよ。
さて、僕が敵だったとしよう。目的は何だい?」
ハイエルフ。
例えば、魔族がエルフ族の変異種だとするならば、上位種と呼べる存在。
獣人族から分岐したヒューマン族のように、誇張や勘違いでの上位種ではなく、本当の意味でランクの違う相手。
それに向けた視線には、恐れであったり、嫉妬であったり、疑惑であったりが込められている。
羨望を送る者もいるが、この場においては極僅かだ。
「本当は戦争なんぞ望んじゃいないんじゃないか?
前にも、あんたは『エルフ族の発展と繁栄』を願っていたと聞くぞ。」
それを口にしたのは、“ザンエイ”では無く、“腕”を纏める男、“ライト”だ。
“ザンエイ”に情報と収集能力を疑われた彼は、自分の責任にされるのを恐れたのだろう。
そして、今度は“ザンエイ”を諌めていた者が沈黙を守った。
「ああ、そうだよ。そのエルフ族の中には魔族も含まれるし、この停滞したエルフ族の世界を発展させるには戦争が必要だとも話した筈だ。」
「だが、その発展の為に必要な人材を殺すのが惜しくなった。・・違うか?」
首脳陣は非常に優秀な存在だ。
つまり、別の言い方をすればエルフ族の発展に欠かせない人物とも言える筈である。
「違う。確かに、彼ら・彼女らは優秀だが、実力がかけ離れ過ぎているんだ。
競争者は『あの化け物に敵う訳がない』と諦め、民衆は『彼らがいるから安心だ』と危機感を失い、努力を怠っていく。それは良くない。
僕が求めるのは、全体の向上だ。戦争が起きれば、否が応にも実力を上げねば生き残れない世界になる。
その為に必要な犠牲だよ。惜しくとも躊躇はしないさ。」
「そこに個人的な事情を差し挟んだりはしていないという事か?」
ほんの少し。
違和感を感じた者は他にいたかどうか分からない、気のせいにも思える間を置いて、ハクビが笑う。
「この考えで動いているのが僕だけだというのに、そこに個人の事情と来たか。
もしかして、この中に僕と同じ考えで動いている人がいるのかな?」
誰も声を上げず、動かない。お前の同志など、この中にはいない、とでも言うように。
当然だ。糾弾の最中に裏切りの疑惑を掛けられている者の味方をしたがる者などいる筈がないのだ。
「はぐらかそうとするな。
首脳陣の中には、お前と個人的に親しかった者がいた筈だ。」
その発言に、ざわりと空気が揺らぎ、疑いの視線は強まった。
「確執の間違いでは?」
「いや、我々が調べたところ、ハクビ、貴方は――」
「やめろ。」
“ハクビ”の表情が消えたところで、ようやくストップが掛かる。
ギリギリだった。そう感じた者は多かった筈だ。
もし、勢いのままにその先を口走っていたら、今は暫定的に味方であるハクビも、どうしていたか分からない。
それだけ、普段から微笑を湛える男のその表情は珍しかった。
だが、中にはそういった感覚に鈍い者もいて、先を促そうとする。
「・・・やめろ。この話は終わりだ。貴様らに告ぐ。
ありもしない疑いを掛けられた上、それに託けて過去の事を・・それも、触れてほしくない部分に無造作に踏み込まれたらどう思う?
・・・これ以上は、やめるんだ。組織がバラバラになるぞ。」
組織がバラバラになる。
それは大袈裟な表現では無いし、もしかしたらもっと直接的な意味なのかもしれない。
何故なら、ハクビには町1つを消滅させるだけの実力があるのだから・・・。
シン、としたところで、穏やかな表情を取り戻したハクビが言った。
「それで、僕は何をすれば、この疑惑から逃れる事ができるのかな?」
そう、疑わしい者がいる。
その状況に変わりはないのだ。
「そうだな。・・・・・“イレギュラー”の抹殺、と言ったところでいいんじゃないか?」
そう返したのは、“足”を纏める男だ。
尾の上にあるダミー組織・・つまり尾を切り離す事に失敗した場合、犠牲になってもらう組織のトップである。
下部組織の中では最も頭が切れる――上の事を全く知らない犯罪者集団を纏め上げ、莫大な資金を稼ぎ、冷徹な判断を下せる――男だ。
尻尾の次に潰れるのは自分の組織なので、“イレギュラー”については過敏になっている。
「“ザンエイ”、お前も行け。お前の和を乱す行為も、行き過ぎだ。
組織を壊そうとする何者かの陰謀と取られても仕方の無い程だと思うぞ。」
「ちがっ・・・俺は――。」
確かに、“ザンエイ”の行動は褒められたものではないし、自分が疑惑から逃れる為に狙ってやったとしたら、大したものだと逆に感心してしまうだろう。
だが、ザンエイはそこまで頭のいい人間ではない。汚れ仕事もこなしてきた。
今更、裏切る人物とは思えないが・・・。
「それくらいの事をしたという事だ。取り返したくば、イレギュラーを消せ。
他にも潰す事が前提の尾の1つや2つ持っているだろう?」
そういう事だ。
ザンエイとハクビ。この2人の幹部から狙われる。
確かに危険な人物だ、そこまでしても仕留めたいというところなのだろう。
イレギュラーにとっては悪夢が始まる訳だ。
「・・念の為に聞くが、こいつとお手手繋いで仲良くやれってんじゃないだろうな?」
「まさか。お前達が手を組んでいたら組織内部の者にまで怪しまれるだろう。
|我々に繋がりは何も無い《・・・・・・・・・・・》のだから、自由に、ただし、全力でやれ。」
そう。我々に繋がりは何も無い。
何もないのだから、仮に捕まっても上位組織について分かる事など何も無いのだ。
「ハクビ。・・・頼んだぞ。」
「わかっているよ。」
“ヘッド”が“ハクビ”に言うのを見て、“ザンエイ”忌々しそうに舌打ちする。
「ッチ・・・クソアマが。」
誰にも聞かせないつもりで、ほんの小さな声で喋ったつもりなのだろう。
彼は、本当に色々と足りていない。
誰もが聞かぬ振りをする中、ハクビはニコリと微笑んで言った。
「どちらが彼女を守れる“尾”なのか、これで明らかになる。楽しみだね。」
「・・・俺は“爪”だ。」
お前も簡単に切られる尻尾なんだぞという皮肉であったのだろうが、ザンエイには通じなかった。
いや、同列などではないので簡単に切られることなどない、とそう言いたかったのかもしれないが、本当のところは当人でないので分からない。
かくして、尾を囮にして敵を切り裂く爪に、異色の白い尾。
2人は“ヘッド”の命令に従って、“イレギュラー”抹殺の為に動き出したのであった。




